結
次の日の朝、旅人は古びたお堂の前で目を覚ました。
旅人がきょろきょろと辺りを見渡していると、腰の曲がったじい様が通りかった。
『若いの。そげな所でどないした?』
旅人は昨夜の出来事を村人の話すと、じい様は言ったんじゃ。
『それはきっと運命の神さんだのう』
『運命の神?それじゃワシは、あの時あの手を掴んでいたら運命を掴んだというのか?
ああワシはなんて馬鹿なんだ。迷わず差し出された手を掴めばよかった。
そうだ。もう一度ここに泊まって、もう一度運命の神に会えんか試してみよう。
もしもう一度運命の神に会う事が出来たなら、今度こそあの手をしっかり掴んで離したりしない』
と、お堂の方ばかり見て物いう旅人にじい様は笑って答えた。
『無理じゃろうな。今のお主は後悔の神さんに憑かれておる。
運命の神さんと後悔の神さんは昔から仲が悪いんじゃ』
『そうなのか?それじゃどうしたらもう一度あの運命の神に会えるのだろうか?』
『そうじゃのう。運命の神さんもいうておったが、礼儀正しく思慮深いのは良い事じゃ。
お主のその心構えは変らんかったら、もう一度運命の神さんがまた姿を現すもしれんのう。
後は運命の神をつかむ機会を逃さない事じゃないかのう。
とはいえ一応神さんだからのう。無理に捕まえようとはせんほうがええじゃないのかのう』
『なるほど、無理に捕まえようとはしないで、共に歩ように心がけた方がいいという事か』
『まぁそういう事なんじゃろうな。
ついでに教えておいてやろう、運命の神はいつも同じ姿とは限らんのじゃ。
運命の神さんは気まぐれじゃからなのう。眼を開いてよく周りをみておくんじゃぞ』
旅人はそこまで話をきいて、おや?と思ったので、じい様をまじまじと見て聞いてみた。
『じいさん、いやに運命の神さんに詳しいな。さてはじいさんも運命の神のあった事があるのかい?』
するとじい様はふぉふぉふぉとしゃがれた声で笑うと、
よっこらしょと曲がった腰をしゃんとのばし、凛とした声でこう言うたのじゃ。
『息を飲むほど美しい女人の姿の時もあれば、誰も気にとめないようなヨボヨボのじい様の姿の時もある』
その声は聞き間違う筈もない昨夜の女の声じゃった。
『じいさん、あんたはもしや・・・』
と、言葉を捜す旅人に
『それでは御機嫌よう』
というやいなや、瞬きひとつでじい様が昨夜の女の姿と重なってふっと消えたのじゃ。
暫し呆然としていた旅人はふっと笑うと、道に沿って歩き出したのじゃ。
それから旅人は行く先々で姿を変えた運命の神さんを見かけたんじゃが、
しかしそれが本当に運命の神さんじゃったかどうか神のみぞ知るという話なんじゃとさ。
めでたしめでたし。
サイト“へのへののもへじ/紳士と熟女のための挿絵のある童話”より、文章のみ(少々修正を加え)お引越ししました♪