承
夜が更けた頃、旅人は人の気配を感じて目を開けたんじゃ。
すると障子の向こうに女の陰がうつっておった。
旅人がはっと起き上がると、旅人が起きた気配を察したのか女が凛とした声で問うてきた。
『そこにいるのは誰ぞ』
旅人は答えた。
『旅の者です。道に迷って雨に降られ勝手に上がりこんでしまったが、決してあやしい者ではありません』
そして旅人が障子を開けようとすると、凛とした女の声が制する。
『開けてはならぬ』
『いやしかし、家人の留守中に勝手に屋敷に上がって休ませてもらっているというのに
顔を見ずにはきちんとお礼を伝える事はできないというものです』
『なかなか礼儀正しいのであるな。しかし開けて驚く事なかれ。我は怖ろしいぞ』
『・・・怖ろしい?』
『そうじゃ。我と向き合った者は足が震え胸が苦しくなり、倒れたり気がふれたりする者までおるのだぞ。
それでも我の顔を見たいと申すのか。』
一瞬ひるんだ旅人であったが、すぐに気を取り直した。
どのぐらい怖ろしいか見てみたい気もしたのだ。
『いやいやそんな事は問題ない。戸を開けても良いだろうか?』
『そうまでいうのなら、勝手にするが良い』
障子の向こうで女がくすりと笑ったようだった。
サイト“へのへののもへじ/紳士と熟女のための挿絵のある童話”より、文章のみ(少々修正を加え)お引越ししました♪