拾った黒猫が最強の守護神だった件 ~でも国よりちゅーるを優先します~
王城は、燃えていた。
「西門が突破されました!!」
「魔王軍、第二陣接近!!」
「避難が追いつきません!!」
怒号。
悲鳴。
泣き声。
玉座の間では、大臣たちが顔面蒼白で地図を囲んでいた。
「……終わりだ」
「もう持たん……」
王が、震える声で呟く。
「守護神様は……まだ来ないのか……」
その時だった。
ぽてぽてぽて。
妙に気の抜けた足音が響く。
全員が振り返る。
そこにいたのは――黒猫だった。
「……猫?」
ふくは欠伸をした。
『うるさい』
「しゃ、しゃべっ――」
『騒音は健康に悪い』
場が静まり返る。
王だけがガタガタ震えていた。
「ま、まさか……守護神様……?」
『うむ』
ふくは玉座へぴょんと飛び乗った。
そして、ぺしぺしと肉球で地図を叩く。
『まず、この城は動線が悪い』
「ど、動線?」
『避難経路、補給、伝令。全部ぐちゃぐちゃ』
大臣たちがぽかんとする。
『厨房と医務室が遠すぎる。無能設計』
「無能設計って言った!?」
『あと階段が多い』
「そこ!?」
『猫に優しくない』
「知らんがな!!」
ふくは尻尾を揺らしながら、地図の一点を叩いた。
『敵はここから回る』
「なぜ分かる!?」
『我ならそうする』
「魔王軍目線!?」
次の瞬間。
城壁の外から爆音が響いた。
「報告!! 敵軍、本当に北東から――!!」
玉座の間が凍りつく。
王が青ざめた顔でふくを見る。
「……す、すべてお見通しなのですか」
『うむ』
ふくは当然みたいに前足を舐めた。
『千年前に見た』
「その経験値ズルいだろ……」
ユキトだけが頭を抱えていた。
◇
数分後。
王国軍は、ふくの指示で布陣を変更。
結果。
魔王軍、壊滅。
終わりである。
「か、勝った……?」
「助かったぞ!!」
「守護神様万歳!!」
兵士たちが歓声を上げる。
だが。
当の守護神は。
『腹減った』
「さっき敵軍消し飛ばした直後だぞ!?」
『運動した』
「猫基準で喋るな」
王が、おそるおそる近寄ってくる。
「あ、あの……褒美を用意いたしますので……」
『ほう』
ふくの耳がぴくっと動いた。
「黄金百枚でも、宝石でも――」
『ちゅーる』
「えっ」
『あと高級猫缶』
「世界最強の願いが軽い!!」
ふくは真顔だった。
『あと、予算配分を見直せ』
「予算?」
『軍費を削れ』
「なっ!?!?」
『ちゅーる備蓄庫を作れ』
「ダメだこの守護神!!!」
玉座の間にツッコミが響く。
なのに誰も逆らえない。
逆らったら国ごと消えるからである。
◇
その夜。
戦勝祝いで騒がしい城下町を見下ろしながら、ユキトはため息をついた。
「……なんでお前、そんな偉そうなのに、うちだとずっと鍋の前で寝てるんだ?」
『落ち着く』
「王城の方が絶対いいだろ」
『床が硬い』
「そこなの!?」
『あと、おぬしの部屋は日当たりが良い』
ふくは窓辺で丸くなる。
『昼寝に適しておる』
「基準が猫なんだよなぁ……」
静かな夜風が吹く。
遠くで鐘が鳴った。
世界最強の守護神は、小さく喉を鳴らす。
『……平和が一番だ』
「お前が言うと重いわ」
『うむ』
そう返事をした直後。
ふくは三秒で寝た。
「早っ!?」
――これは。
世界最強なのに、
布団とちゅーるに支配された守護神と。
振り回される青年の。
ちょっと騒がしい日常譚。




