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そうやって生きてきた

チャイムが鳴る。四時間目が始まる合図だ。


今日は、服が肌に張りつくほど暑い日だった。

日向ぼっこで倒れる、なんて皮肉な冗談が、冗談に聞こえないくらい。


そんな暑い日に、私は人生を終えようと思った。


理由なんてない。

ただ


「終わったら、どうなるんだろう」


そんな好奇心からだった。


天国へ行くのか。

地獄へ落ちるのか。

それとも、無なのか。


あるいは、生まれ変わるのか。

走馬灯なんて、本当に流れるのか。


そんなことをぼんやり考えていたら、

いつの間にか授業は終わっていた。


チャイムが鳴る。

やっと、待ちに待った昼休みだ。


都合よく、私には昼ご飯に誘ってくれる友達なんていない。

そして屋上は立ち入り禁止。


だからこそ、ちょうどよかった。


私はチャイムと同時に走り出した。

屋上へ続く扉へ向かう。


チェーンのかかった扉を無理やりこじ開けると、湿った空気が肺に流れ込んできた。

走ったせいで乱れていた呼吸を、ゆっくり整える。


予算が足りない学校だからだろうか。

ここには高い柵なんてなく、背の低い柵があるだけだった。


「やっと死ねるんだ…」


思わず、独り言がこぼれる。


人生に退屈しきっていた私は、軽く柵を飛び越えた。

柵の向こう側へ。


この行動がどんな結末になろうと、きっと後悔はしない。


だって私は

“ブスの高橋”なんだから。



「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」


産声をあげたその瞬間から、負けを確信した


父親は分からず。

母親は重い知的障害を抱えていた。


だからだろうか。

気づいたときには、私は施設で育っていた。


母の顔も、父の顔も知らないまま。


きっと、それが一番よかったんだろう。

そう思うことで、何度も自分を慰めてきた。


それと同時に貶してきた。


施設なんか大嫌いだった。


「ブス」

「アバズレ」

「近親相姦で生まれた子供」


まるで私のために作られた言葉みたいに、何度も浴びせられた。


誰かに容姿のことを言われるたび、私は手鏡を取り出した。

何度も、何度も、自分の顔を見た。


そこに映っていたのは


目は離れ、

鼻は横に広がり、

口は腫れたように膨らんでいて


まるで化け物だった。


それから先のことは、あまり覚えていない。


気づけば施設を飛び出していた。

家出みたいなものだった。


でも、誰も探しに来なかった。


そのとき、全部どうでもよくなった。


好きなように笑って、

好きなように遊んで、


勝手に学校へ行って、

逃げて、泣いて。


そんな日々だった。


でも


そんな日々も、もう終わりだ。


終われるんだから。


恋も友情も、何もない人生だった。

何も知らないまま、自由だけを与えられて。


その自由は、私には毒だった。


生きて得られたものは、

ありったけの悪口と、負の感情だけ。


「それやって、生きてきたんだ!!!」


私は大声で叫んだ。


そして、そのまま前へ跳んだ。


世界が、くるりと回転する。


まるで180度ひっくり返ったみたいに見えた。


ゆっくり流れていく記憶。


「ブス」

「生まれてこなければよかったのに」


最悪な思い出ばかり。


これが走馬灯だなんて、ひどい話だ。


それでも

この記憶を見ていると、思う。


最後まで、私は私だったんだ。


落ちていく私も私。

それをどこかで失望している私も私。


全部、私だった。


生まれたときから、ずっと。


最後に、湿った空気が肺を満たす。


次の瞬間、身体は地面に打ちつけられた。


不思議と、痛みはなかった。

きっとアドレナリンのせいだろう。


遠のいていく意識の中で、私は割れた手鏡を拾った。

そして、自分の顔を見る。


「……なんだ」


思わず、笑ってしまう。


「可愛いじゃん」


そこに映っていたのは、

私がずっと思い描いていた理想の姿だった。


目から流れてくる、生温かい液体。

それが、いつかの私を許す涙なら


もう、この世界に未練はない。


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