表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第1章完結】つなガール!~つながらない二人のバレーボール~  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしとあたしのはじめまして
8/42

第1章 第6話 人の心がわからない子

〇環奈




「真中さん! 約束通りバレーをしましょう!」



 練習の時間が終わり、ようやく真中さんとの自主練の時間がやってきた。別にレベルの高さを求めているわけではないが、それでも上手い人とやる方が楽しい。真中さん練習中はきららちゃんにかかりっきりであたしと全然遊んでくれないんだもん。フラストレーションが溜まって仕方なかった。



「……そうね。じゃあ翠川さん、手伝って」

「自分もですか!? 自分もう脚がパンパンなんですけど!」

「大丈夫よ。今度は跳ばなくていいから」



 もう制服に着替えているきららちゃんが文句を言っているが、本当ならもう一人ほしいくらいには根本的に人数が足りない。バレーはチームスポーツ。何をするにもやはり人数が多いに越したことはない。もう一人の強者、小野塚さんは瀬田さんと二人でどっかに行っちゃったし、悪いけど付き合ってもらおう。



「自分は何をすればいいんですか?」

「今からするのはボクのスパイク練習と水空さんのレシーブ練習。翠川さんはボクにトスを上げて」


「え? でも自分ミドルブロッカー……あ、エースになるんですけど!」

「セッターがトスを上げられない時、トスを上げるのはミドルの仕事よ。それにまずあなたはボールに慣れなさい。バレーはボールを持てないスポーツ。どういう風に触ればどういう風にボールが動くか。それを身体に叩き込むの」


「だから自分エースになるんですけど!」

「エースになるなら尚更ボールに触れるようにしなさい」



 文句たらたらのきららちゃんを華麗にスルーする真中さん。小野塚さんもこういうクールな感じになれば上手く付き合えるのに。



「じゃあ始めるわよ、とりあえずクロスに打つから。翠川さんもただ上げるんじゃなくてボールの感触とボクのスパイクをよく見ておくこと」

「はい! いきます!」



 ネットの向こうできららちゃんがトスを上げ、それを見てから真中さんが助走を始める。いわゆるオープン攻撃という、一番遅いながらも一番オーソドックスなスパイクの形だ。ミドルブロッカーはあまりやらない攻撃だが、初心者のトスに速攻を合わせるなんてまず不可能。きららちゃんに見せるという意味でも、まずは基本のスパイクをということなのだろう。



「ふっ」

 回転のかかった高めのトス。難しいトスながらも綺麗に打った真中さんのスパイクを拾い、そのままボールをネットの向こうのボールが入ったカゴに入れる。うん、やっぱり上手い。身長も高ければジャンプ力もいいし、空中の姿勢制御もよかった。たぶん体幹がいいんだろうなぁ。もっとパワーがあれば文句なしなんだけど、ミドルだしそこはあまりこだわらなくていいだろう。でも希望を言うのなら。



「やっぱり速攻打ってください。真中さんなら雑なトスにでも合わせられますよね? 難しいなら少し早めにジャンプすればいいと思いますよ。真中さんの体幹なら空中でもそんなに姿勢崩れないでしょうし」

「雑!? 雑って自分のことですか!?」

「……水空さんはレシーブが上手いのね」



 今さら何を言っているのだろう。あたしのレシーブが上手だなんて当たり前……。



「でもリベロは下手なのね」

「……あ?」



 あたしが? 下手? リベロとして?



「誰に言って……!」

「リベロの仕事は。コートの後ろから仲間を助けることよ。レシーブだけじゃない。攻撃ができないからこその視点で助言したり、頻繁にコートを出入りするから監督の指示を伝えたり、何より。この人が後ろにいるから大丈夫だと、安心感を与えなければいけない。今のあなたにそれができているとは思えないわ。だっていともたやすく人の地雷を踏み抜いてくるもの。他人の感情が全く理解できてないし、しようともしていない。そんな人間に背中は任せられないわ」



 身体が無意識に真中さんに近づいていく。だが高いネットがあたしを邪魔して向こうに行くことを許してくれない。ただネット越しにでもはっきりと見える真中さんの軽蔑の眼差しを見つめることしかできない。



「朝陽から聞いてるわよ? あなたは勝ち負けに興味がない、ただバレーができればいいそうね」

「それの何が悪いんですか? 誰にも迷惑はかけてませんし、誰よりも役に立ってます。だってあたしは、中学ナンバー1のリベロですから」



 そう。あたしは去年、中学で一番上手いと言われていた。一個上に化物がいるせいで今は高くて高校ナンバー2だろうけど、少なくとも下手なわけがない。真中さんを高く評価していたのは間違いだったようだ。こんなに見る目がなかったなんて……。だいたいあたしは……。



「なんだ、勝ちに拘ってるじゃない」

「っ……!」



 さっきまで軽蔑に満ちていた真中さんの口角が上がる。まさか試されていたのだろうか。わざと、怒らせて……あたしはそんなんじゃないのに。



「それは……下手なんて初めて言われたから動揺しただけです。勝ち負けに興味なんて……あたしは……」

「自分の中に譲れないものがあることは間違いじゃないわ。それを伝えるのもね。だからこそ他人のそういうところも尊重しなきゃだめ。理解しようとしなきゃだめ。みんなを支えるリベロなら尚更ね。そういうの苦手でしょ?」


「確かに……他人の気持ちを理解するのは苦手ですけど……」

「一度しっかりと梨々花さんと向き合ってみなさい。バレーボールはチームスポーツ。他人との関わりも含めてバレーボールよ。バレーを楽しみたいって言うのなら、全部まとめて楽しんでみせなさい」



 自分だけじゃなくて、他人を……。そんなことをする必要があるのだろうか。そもそもレギュラーになんかならなくてもいいし。でも……そうだな。



「やっぱり気に入らないです。あたしを下手だって言ったこと。それだけは訂正させますからね」

「そう、楽しみにしてるわ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ