第1章 第31話 ”交じり合う”サーブ
花美 紗茎
17-24
風美 L 蒲田
OH MB S
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朝陽 絵里 きらら
胡桃 美樹 梨々花
〇
ハイブリッドサーブ。それはスパイクサーブとジャンプフローターサーブが交じり合った、サーブである。
スパイクサーブのモーションでジャンプフローターを。ジャンプフローターのモーションでスパイクサーブを。ボールが打たれるまでどのサーブが飛んでくるかわからない、おそらく現代バレーで最強のサーブ。
その理由はレシーブの難度にある。スパイクサーブとジャンプフローターではレシーバーが構える位置が少しながら変わってくる。速く威力のあるスパイクサーブは数歩後ろに。変化する前に捉えたいジャンプフローターは数歩前に。それがレシーブの基本だ。それはたった数歩の差だが、サーブが打たれてからレシーブするまでかかる時間は一秒前後。一秒の中での数歩は、あまりにもでかすぎる。読み違えば……。
「くそっ!」
紗茎のリベロがスパイクサーブのモーションからのジャンプフローターの軌道を読み切れず、ボールを弾いてしまう。これで18-24。三連続得点だ。
「あれ……いつから使えたの……!?」
練習試合にも参加していた流火が観客席から身を乗り出しながら驚嘆する。
「……練習を始めたのは一ヶ月前……天音ちゃんのを見た時から。でも昨日までここまでの完成度はなかった……特にスパイクサーブ。身長通り、梨々花先輩は天音ちゃんより非力だからね。ジャンフロのモーションからの強打がどうしてもうまくいかなかった」
「じゃあ……今日天音ちゃんのサーブを見て完成させたってこと……!? いやでも、今日天音ちゃんが打ったサーブは三本。一つはシンプルなジャンプフローターで、二つはスパイクサーブのモーションから回転をかけたサーブ。ジャンフロのモーションからのサーブなんて打ってないでしょ……!?」
「……たぶん交ぜ合わせたんじゃないかな。ぼんやりと脳内に残っていた天音ちゃんと、現実にいる天音ちゃんを。より具体的に模倣するために……」
「模倣って……天音ちゃんとあの小さいのの身長差は30cmもあるんだよ!? ただ真似しただけじゃ上手くいくわけがない!」
「……バレーボールの天才」
「え!? なに!?」
部長さんが言っていた言葉を思い出す。普通じゃ、ありえない。でも天才なら……特別だったとしたら話が別だ。
「外川さん……梨々花先輩が前まで普通のサーブだったっていうのはいつの頃の話ですか……?」
「え? 確か三月に出た大会では普通のサーブだった気がするけど……」
三月……あたしが入学する直前だ。その時期からサーブの練習をするわけがない。梨々花先輩はリベロになるつもりだったのだから。そしてあたしが梨々花先輩がジャンプフローターを打つと知ったのは、あたしがリベロになると決まって一週間後の練習の時。単純に考えると……一週間のうちにジャンプフローターサーブを成立させたことになる。
「所詮天音の劣化だろ!?」
ジャンプフローターのモーションで繰り出したサーブは、ジャンプフローター。蒲田さんが前に出ながらレシーブしようとする。しかし、
「うそ、だろ……!?」
ボールは蒲田さんが取る直前で浮き、慌てて手を伸ばしたせいで弾いてしまった。これで梨々花先輩は三連続のサービスエース。
「これは……早めに潰しておかないとやばいかもね……」
ウォームアップゾーンで試合を眺めていた天音ちゃんが監督の元へと近づいてタイムアウトを指示した。そして身体を動かし急いで試合に出る準備を始める。
「流火……金断の伍の中で、一週間でジャンフロを成立させられる人、いると思う……?」
「いるわけないでしょ……。高校最強クラスだってそんなの絶対に……っ」
「……だよね」
あぁ……くそ。部長さんの気持ちが、わかってしまった。
「環奈ちゃん、そろそろ試合出れそう? 悪いけど早めに出てほしいんだよね、いつまでもわたしのサーブが通じるとは思えないし。レシーブはわたしなんかより、環奈ちゃんの方が上でしょ?」
この天才に五年間付き纏われ、慕われ続けてきたら。そしてこの先二年間、自分より上手いと言われ続けたら。
「やっとわかったでしょ? 環奈。私たち、仲良くなれるって」
すれ違いざまに部長さんが囁いてくる。その言葉に肯定も否定もできなかった。勝ち負けに興味がないあたしでも、これは――。
「――洒落にならない」
 




