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【第1章完結】つなガール!~つながらない二人のバレーボール~  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしとあたしのはじめまして

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26/42

第1章 第24話 興奮と冷静の狭間

花美 紗茎

23-22




OP    L    蒲田

OH    MB    S

ーーーーーーーーーーーー

朝陽   絵里   胡桃

環奈   美樹   日向

           〇




 試合が始まって約一時間。通常より倍以上に長くなっているセットも終盤に差し掛かっていた。今の点数は全国常連の強豪と互角……いやわずかに上回っている。しかし実情は、こちらが追い詰められている形。最初に作ったリードが少しずつ、少しずつ詰められている。何か紗茎が劇的な対策を取ったわけではない。ただ単純に、相手が環奈ちゃんが作るバレーに慣れてきたのだ。



 ひたすらボールを拾い、相手のペースを崩す。その環奈ちゃんの作戦は効果的だったし、今もまだ効いている。だが結果とは裏腹に、非常に綱渡りな作戦だということも否めない。ボールを拾うのに必須なブロックによるスパイクコースの限定。胡桃さんの技術ときららちゃんの高さが鍵だが、それができるのはこの二人しかいない。他のみんなは高さでも技術でも相手に劣っている。実質的に三枚あるはずのブロックは一枚しか機能しておらず、それではコースを完全には絞り切れない。



 辛うじて拾えたとしても、相手もセッターのファーストタッチ狙いということには既に気づいている。上手くスパイカーをばらけさせて、さらにブロックを分断していっている。もちろん環奈ちゃんもそれには気づいており、時には花美のスパイカーにトスを上げている。ペースを速めるための、絵里先輩(セッター)を省いたレシーブがそのままセットアップになるトス。しかしそれもまた不完全だった。



 環奈ちゃんがトスを上げる先は前衛のミドル。たまに美樹を挟む程度で、攻撃の要となるアウトサイドヒッターの日向と朝陽にはほとんどボールを上げていない。おそらく二人では紗茎のブロックと正面対決では不利だと判断しているのだろうが、それが相手のブロックを絞らせることにも繋がってしまっている。



 点数ではリードしていても、こちらが追い詰められている状況。それでも環奈ちゃんは。



「レシーブ……楽しい……っ♡」



 ひたすらにボールを拾い続けていた。コート中を縦横無尽に駆け回りながら。



「すげぇなぁ、リベロってのは。あんなずっと動き回るもんなんだべか」

「……普通のリベロはあんな動きしません」



 ほとんど止まる暇なく走り続けている環奈ちゃんを見て感嘆の声を上げる徳永先生。でもあれは特別だ。わたしでは真似できない、意図すら理解できないリベロのやり方。普通リベロはあまり動くポジションではない。遠くのスパイクを拾う時は別だが、基本はどんなスパイクにも対応できるよう止まって構えることが多い。それなのに環奈ちゃんは、延々と走っている。



「環奈さんは一人で戦っているのですわ」

 わたしの疑問に答えるように、観客席のお嬢様が言う。



「スパイクとはご縁のないのおチビ様にはわからないでしょうが、スパイカーにとってリベロはブロックにも匹敵する忌避すべき対象ですわ。ブロックがいない場所、そしてリベロがいない場所こそスパイカーが求める楽園」

「だから環奈は走り続けてるんだよね。少しでも相手の思考を奪うために。スパイクが迷えばブロックで止めやすくもなるから。でもデメリットは大きいよ。体力は削られるし、遠い地点でボールが落ちることも多くなる。ただそれこそが……」

「……環奈さんの十八番、というわけですね」



 リベロと交代しているきららちゃんも納得してコートを見守る。わたしたちが弱いばかりに、負担をかけ続けてしまっている環奈ちゃんを。



「――アウト!」

 ひたすら動き回っていた環奈ちゃんが足を止める。向こうのスパイクが線を割り、こちらの得点。24-22。あと一点入ればこのセットを取れる、セットポイントだ。そしてそれと同時に笛が大きく鳴った。紗茎がタイムアウトを取ったんだ。



「なんで……? もっとしようよ……バレーボール……♡」

「……落ち着きなさい。一度ベンチに戻るわよ」

 肩で息をしながら呆然とする環奈ちゃんを胡桃さんが無理矢理引っ張ってベンチに座らせる。すごい汗だ……まるで三セット目を終えた時のような汗の量。まだ一セットすら終えていないのに……。



「環奈ちゃん、大丈夫?」

「……梨々花先輩……。はい、大丈夫です」



 蕩けたような表情で呆けている環奈ちゃんに飲み物を渡すと、途端に真面目な表情に変わる。きっと今もバレーをしているのだろう。プレー中はボールを追い、プレーをしていない時は戦況を考えている。ずっとずっと、ただ環奈ちゃんはバレーをし続けている。



「とりあえず一セット目はこのままいくとして、二セット目はトスを散らすわよ。ボクはいいとしても、きららさんがしんどいわ」

「大丈夫です! ……と言いたいところですけど、正直微妙です。胡桃さんがスパイク全然教えてくれなかったので……」



 胡桃さんが初心者のきららちゃんに徹底的に教え込んだのはブロックのみ。スパイクを習得するまでには時間が足らず、今はほとんどセンスだけで打っているようなものだ。素直で実直なきららちゃんでさえ今の状況は厳しいとわかっているのに、環奈ちゃんは首を横に振る。



「紗茎と正面から戦えるのはセンター線だけ。あとは辛うじて扇ちゃんくらいかな」

「みきよりも朝陽さんや日向ちゃんの方が上手いと思うけど……」


「一ノ瀬さんはいいとして、まともに練習もしていない6番さんより扇ちゃんの方が信頼できます。多少動けてようが、信頼できない相手にボールは任せられません」

「み、水空ちゃんって意外とみきに懐いてるよね……」


「はい。うざいですけどいい先輩だと思ってます」

「……褒めてるんだと受け取っておくけど……」



 ……環奈ちゃん、集中しすぎてるな。先輩(ひなた)の名前を覚えていないという特大の失礼をかましておきながら泡を吹いていない。そして美樹に素直にデレている。色々ちょっかいは受けてるけど、なんだかんだ泡を吹いた時一番に駆け寄ってきてくれるのは美樹だもんね……。



「何にせよ二セット目は……」

「次のセットのことばっかり気にしてるけど、胡桃ちゃん。まだ油断しちゃだめだよ」



 美樹よりも懐いている胡桃さんに平然とため口を使い、環奈ちゃんは宣言する。



「タイムアウト明け、連続得点(ブレイク)できないとこのセット取られかねない。ピンチサーバーとして風美か天音ちゃんが出てきたらおそらくこのセットは取られる。風美なら五割……天音ちゃんなら九割ね」



 その不穏な言葉と共にタイムアウトが終わり、日向のサーブからプレーが再開する。



「っ! ご、ごめんっ!」

 日向のサーブはネットを超えられず、向こうの得点。名前を覚えられていない理由が浮き彫りになったような展開だ。これで24-23……それでもこちらのセットポイントなのには変わらない。そしてバレーはサーブを受ける方が圧倒的に有利。綺麗にボールを拾えさえすれば、攻撃のチャンスになるからだ。




OH    OP   L

MB    S   蒲田

ーーーーーーーーーーーー

朝陽   絵里   胡桃

環奈   美樹   日向




 サーブ権が相手に移ったことにより、向こうのローテが一つ移動する。これで蒲田さんが前衛に移動し、そして……。



「ちっ」

 環奈ちゃんの舌打ちが体育館内に響く中、サーブの選手が交代する。



「悪いね環奈。気持ちはどうあれ、出るからには本気だから」




OUT:7 星点灯 OH

IN:1 双蜂天音 OH (チームキャプテン) 2年 178.5cm 最高到達点:305cm




 環奈ちゃんが一番危惧していた、九割負ける可能性。双蜂さんがピンチサーバーとして現れ……。



「2番」



 まるでやり返すかのように、朝陽さん(エース)狙い(獲物)に定めた。

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