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【第1章完結】つなガール!~つながらない二人のバレーボール~  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしとあたしのはじめまして

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第1章 第15話 バレーを通じて

「泣き疲れて寝ちゃうとか子どもじゃないんだからさー」

 試合後わたしに抱き着いたまま寝てしまった水空さんの頬を指で押して遊ぶ飛龍さん。それにしても……なんだろう。こうやってみると身長もあいまって本当に子どもみたいだ。二つの丸いのが邪魔だけど……。



「双蜂さん、今日はこんな弱小校にお付き合いいただきありがとうございました」

「いえいえこちらもいい刺激になりましたので」



 少し遠くでは絵里先輩と双蜂さんが握手を交わしている。……あの人本当にわたしと同学年? すごい堂々してるんだけど……。



「それにしても初めて見たね……環奈ちゃんが調子崩してるの……」

「ね。普段ならともかくプレー中はいつも安定してたのに。中一ん時の方がよっぽど上手かったよね」

「ねぇ、水空さんって中学時代はどんな子だったの?」



 ちょうどよかったので水空さんの同級生の二人に訊ねてみる。わたしはもっと知らなければならない。水空さんのことをもっと。



「んー、真面目系クズ?」

「怒られるのがすごい嫌いで……でも態度が悪いのでいっぱい怒られて、その度に泡吹いてました……」


「そうそうあの子一言多いんだよね! しかも無自覚なのが余計タチ悪い。バレーのこと以外どうでもいいから何が悪いのかも全然わかってないの」

「根本的には優しい子なんだけど……根本以外が全部バレーだからその優しさが全然伝わらなくて……」



 水空ちゃん……この二人とちゃんと友だちだったんだろうか……。すごい悪口にしか聞こえないけど……。まぁ仲いいからこそなんだろうけどさ。



「一言で表すなら子ども、ですよ。バレーで遊ぶのが大好きな子ども。情緒が全然育ってないんです」



 飛龍さんたちの水空さん像に苦笑していると、よりはっきりとした印象が飛び込んできた。双蜂さんだ。



「紗茎は一応強豪校なので。楽しむためのバレーじゃなく、勝つためのバレーをやっていたんです。環奈とは相性悪いでしょ?」

「そうですね……あ、敬語じゃなくていいですよ、同級生なんで」

「そう? じゃあお互いタメでね」



 わたしの隣に座り、心底優しそうな顔で眠っている水空さんを眺める双蜂さん。まるで母親のような微笑みだ。



「これは私も卒業した後の話だからくわしくないけど。三年の全中まではそれでも上手くやれてたみたい。上手い人とやるのは好きだったから。それまでは嫌よりも楽しいが勝ってたんじゃないかな」

「じゃあつまり……全中……中学最後の大会で嫌が勝ったってこと……?」


「うちの監督が前時代的な人でね。元から環奈は嫌ってたんだけど、どうしても納得できない事件があったみたい。それで突然辞めるなんて言い出したもんだから監督も怒っちゃってさ。優勝した後は一度も部活に顔を出さずに卒業しちゃった」

「そう……なんだ……」



 だとしたら……水空さんには悪いことをしたかもしれない。勝つためのバレーを強要した。本人は嫌がっていたのに、上手いからと無理矢理リベロにしてしまった。スランプを引き起こすほど追い詰めてしまった。水空さんと仲が良かったと思われる双蜂さんは怒っているかもしれない。



「だからうれしかったんだ。泡を吹きながらも、嫌なことをしながらも食いしばってバレーをやってる環奈を見て」



 双蜂さんは笑っていた。本当に、心の底からうれしそうに。



「今までの環奈なら嫌なことからは逃げていた。大好きなバレーが苦しいのなら、とっくに辞めて別のバレーができる場所に行ってたと思う。でもそれをしなかったってことは、嫌でもやらなきゃいけないことを見つけたってことでしょ。大人になろうとしてるんだよ。ただバレーをやりたいだけの子どもが、明確な意志を持ってバレーをやろうとしてる。先輩としてこれほどうれしいことはないね」



 大人になろうとしている、か……。正直わたしじゃわからない。どこまでが子どもで、どこからが大人か。絵里先輩へボールをつなぐという夢を諦めたわたしは大人なのだろうか。だとしたら……いまだに夢を捨てきれないわたしは子どもなのだろうか。



「環奈は上手いけど、性格的に将来バレーでごはんを食べていくつもりはないと思う。だったらせめてバレーを通じて人生を豊かにしていってほしいんだ。うちの子ちょっと面倒だけどさ、どうかよろしくね」



 よろしく、と頼まれても……。正直何とも言えない。まだ出会って一ヶ月だし、仲良くないし、全然お互いのこと知らないし……。でもこれだけは言える。



「水空さんは、紗茎(そっち)じゃなくてわたしの後輩だよ」

「……だね。よし、流火風美帰るよ」

「はーい。ねぇ、珠緒にも会いたいんですけど」

「たぶんいないんじゃないかな……」



 最後に一層優しく微笑んだ双蜂さんは立ち上がって一年生二人を集合させる。そして体育館を出ていこうとしたが、一度だけ振り返った。



「そうそう翠川さん」

「はい?」

「君は自分の武器をもっともっともーっと、自覚した方がいい。師匠にちゃんと教わりな」



 意味深なことを言い、今度こそ体育館を出ていく三人。……改めて思うと、とんでもない経験をさせてもらったな。県トップ……いや、全国トップと軽くとはいえ練習できたなんて……。



「真中さん! 自分なんか褒められた気がします!」

「……それより反省会よ。もちろんブロックを跳びながらね」

「自分もうくたくたなんですけど!?」



 でも相手はインハイ予選の相手。うちの身長トップ、翠川さんの実力を見られたのはかなり痛い……。でもそれ以上に学びがあったはず。それにこの試合を通じてレベルアップできたなら、ある意味で相手を騙せるかもしれない。でも今はそれよりも。



「……あれ、小野塚さん……。っ、ごめっ、ごめんなさい! あたし気を失ってて……!」

「ねぇ。今度のお休み、デートしない?」

「……はい?」



 このかわいい後輩のことを、もっと知りたくなった。

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