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【第1章完結】つなガール!~つながらない二人のバレーボール~  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしとあたしのはじめまして

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第1章 第13話 お手本

「次……点を取られたらタイムアウト取ります……」

 こちらのコートに落ちたボールを確認し、水空さんが目も合わさずに告げる。通常3対3というイレギュラーな練習ではセットに二回だけ使えるタイムアウトを取ることはないが、そうしないと話にもならないと判断したのだろう。それはわたしも完全に同意だ。23-6。いっそ清々しいほどに完全に圧されているのだから。




天音

風美   流火

ーーーーーーーーーーーー

     きらら

  梨々花   環奈




 これがここ五回のフォーメーション。つまり双蜂さんのサーブのタイミングで五回連続失点している。もちろん全くサーブを拾えないわけではない。それでも……。



「ずいぶん調子崩してるね、環奈。悪いけどこのまま一気にいくよ」

 六連続目になる双蜂さんのサーブ。元々とんでもないことは知っていたけど、実際に受けてみると次元が違った。



「ふっ」

 モーション的にはスパイクサーブ。左かつ超パワーの蝶野さんに比べれば、華奢な身体の右利きのジャンプサーブは威力も速度もかなり弱い。その代わり、曲がる。信じられないくらい、曲がっていく。



「小野塚さんフォロー!」

 水空さんがボールに飛びつく前にわたしに指示を出す。一人では完璧に上げることができない。それを受ける前から理解させららえた発言だ。でもそれを責めることはできない。まっすぐ対角方向の水空さんへと向かう軌道のボール。しかしそれはネットを超えた辺りで突然勢いをなくし、わたしの方へと落ちてくる。



「っあ!」

 わたしが下がったことで空いたスペースにフライングレシーブする水空さん。ボールは上がったが、ネット際からはかなり遠い。ここから精度の高い攻撃はわたしと翠川さんでは無理……だったら!



「チャンスボール」

 わたしがボールに触れる前から、双蜂さんが煽るようにあえて断言する。悔しいけど初心者の翠川さんにボールを託すことはできない。アンダーで向こうのコートへとボールを戻す。



「翠川さん、だっけ? お手本を見せてあげるよ」

 余裕な様子でそう言った双蜂さんはボールを拾うと助走の体勢に入る。サーブもレシーブもスパイクも全部自分でやるつもりか。でもいくら最強レベルのセッターとはいえ、片腕しか使えない飛龍さんが完璧なコンビネーションプレーをできるとも思えない。ましてや双蜂さんのポジションは速攻をやらないアウトサイドヒッター。双蜂さんは囮で本命は蝶野さんか……。



「あんたら相手に囮なんか使わないっての」

 そんな言葉と共に飛龍さんが上げたトス。それは速く高いものだった。一瞬ミスかと思ったが、その予想は粉々に砕かれる。



「環奈、取りなよ」

 一見ミスとすら思える無茶な攻撃に、双蜂さんは完璧に合わせてみせた。翠川さんが慌ててブロックに跳んだが速さも高さも、向こうの方が上だった。水空さんがスパイクに飛びついたけどボールを弾いてしまい、24-6。あと一点で相手の勝利……。



「タイムアウト!」

 宣言通り水空さんがタイムの要求をする。正直点差的にまず間違いなく逆転は無理。だとわかっていながらも水空さんは諦めていなかった。いや、わたしのためにも諦めるわけにはいかないという感じか。



「流火、すぐ煽らないの」

「天音ちゃんだってさっき煽ってたでしょ!?」

「私のはいいの。ちゃんと考えてのことだから」



 向こうはコートから出ることもせず楽しそうに話している。でもコートから一度出たわたしたちの空気は……。



「すごいですね双蜂さんという方! 自分もああなりたいです!」

 わたしや水空さんの気持ちを知ってか知らずか、翠川さんだけが楽しそうにはしゃいでいた。



「当然でしょう? あれは高校最強のウイングスパイカーよ」

「ウイングスパイカー? ってなんですか?」


「今はあんまり言わないんだけれどね。アウトサイドヒッターとオポジットの総称よ。うちで言うと朝陽と美樹さんのポジション」

「なるほどー……でもオポジットは左利きの方の方が有利ですよね? それにあのムチムチした蝶野さんというすごい方もいるのにそれよりも上って……」

「天音ちゃんは両利きだからね」



 胡桃さんと翠川さんの会話に入ってきた水空さんの一言によって空気が完全に凍りつく。双蜂さんは今回サーブもスパイクも全部右でやってたはず……左だったらその違和感にすぐ気づく。当然数の多い右よりも、左の方が有利。……手を抜いていたのか、あれで……。どんな化物なんだよまったくもー……。



「それより。あのサーブを攻略しないことには始まらないんじゃないの」

 さっすが絵里先輩! この漠然とした絶望的な空気を壊して、まず解決しなければいけない問題を明確にした! やっぱ絵里先輩が最高のキャプテンだべ!



「あのサーブ……どうなってんだ? ウチがやってもあんなに曲がらないし……そもそも何度かはスパイクサーブのモーションからジャンフロ打ってたような気がしたんだが……」

 同じスパイクサーブの使い手の朝陽さんが疑問を口にする。にわかとはいえジャンプフローター使いのわたしも疑問ではあった。



「あれは回転のせいです。あたしサーブできないんで聞きかじった話でしかないんですけど」

 水空さんがボールを手にして解説する。



「普通のスパイクサーブは縦回転のかかる加速(ドライブ)サーブですよね。ボールを捉えるのは正面やや上。でも天音ちゃんはあえて正面からずらして回転数や軌道を変えてるんです。どこをどう打ったらいいのかなんてあたしにはわからないですけど、少なくとも天音ちゃんはボールの威力、軌道を完璧に操れます。スパイクサーブのモーションからジャンフロを打ってるのは完全にセンスですね。打てるから打ってるだけです」



 ……理屈はわかった。わかったけど、だから何だって話に集約してしまった。再び空気が凍りついてしまう。蝶野さんに比べて威力は弱いだけで、ストレートなサーブは朝陽さんよりも速かった。それを威力を増減させながら、軌道まで変えられる……はは。とんでもない化物だ。



 それでも普段なら水空さんは普通に上げられるのだろう。わたしは駄目だ。完全に力負けしている。だとしたらあの判断は正しかったってことだ。リベロを水空さんに任せた判断は。だとしたらわたしにできることは一つだけ。



 水空さんにスランプを克服させる。それがレギュラーとして試合に出られないわたしの役目。先輩としての、わたしの使命だ。

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