第1章 第11話 化物VS化物の卵
〇環奈
「おーい、環奈起きろー」
「……ん? あれ、あたしまたやっちゃった……?」
さっきまで普通に生きていたはずなのに突然意識が途絶える、というのはあたしの人生ではよくあることだ。そして流火が起こしてくれるのも……ん? 流火……?
「なんでここにいんの!?」
「早く思い出して。これから3対3らしいから。そっちのめちゃくちゃちっこいのとめちゃくちゃでっかいのとね」
あぁ……思い出した。流火と風美が来て、流火がたかがバレーのために怪我をしたのを知って、それであたしは……。
「……試合することになる流れがわからないんだけど」
「そっちのなんかめちゃくちゃ詰めてくる人がやりたいんだってさ。あの二人が私たちレベルだから腕試しにってね。私たちレベルなんてそうそう現れてたまるかって話だけどね」
「ふーん……ていうかその腕でバレーって……まぁ大丈夫か」
「うん。今回サーブ順は考えないみたいだから大丈夫」
めちゃくちゃ詰めてくる人……一ノ瀬さんかな? わからないけど今から試合をしなきゃいけないらしい。正直やりたくない。スランプに陥ってるなんて恥ずかしい姿、天音ちゃんたちには見られたく……。
「あたしが……やりたくない……?」
考えてて自分でおかしいと気づく。あたしが……ただバレーをやれていればそれで満足するあたしがバレーをやりたくないなんて……ありえない。
「真中さん……どうして自分なんですか……?」
スランプの重さに悲観していると、きららちゃんと真中さんが話しているのが聞こえてきた。
「確かに自分は大きいです……あの人たちよりも。でも大きいだけです。技術なんてまだまだ全然で……それなのに環奈さんレベルなんて……。才能なんてないかもしれないのに……」
あれ……この試合を申し込んだのって一ノ瀬さんじゃなくて真中さんなんだ……。そして真中さんがきららちゃんをこの試合に混ざるのにふさわしいと判断したと……。確かにきららちゃんはまだわからないだろうな。バレーボールがどういうスポーツかということを。
「いい? 翠川さん。バレーボールにおいて才能とは、高さのことよ」
そう。リベロという特別なポジションを除いて、バレーは高さというのは絶対的な正義だ。
「残酷なようだけれど、高いネットを挟んで戦うという競技の仕様上バレーは高い方が圧倒的に有利。だからあなたにはバレーの才能がある。この中で誰よりもね。だから学んできなさい。あなたがいるべきレベルを」
「……はいっ!」
真中さんに背中を押され、きららちゃんが力いっぱいにうなずく。バレーボールは高さが全て……空中戦をしないリベロ以外は。だからあたしには関係のないこと……だった。でも今は違う……。
「小野塚さん……」
話をしてみたいのか、部長さんからシューズを借りている天音ちゃんを遠巻きに気にしている小野塚さんに話しかける。……いや、この人のことだから部長さんのシューズうらやましいなと思っているだけなのかもしれない。
「あの……実はあたし最近スランプで……」
「うん、知ってる。今はわたしの方が上手いだろうね」
あたしの精一杯の告白を軽い調子で受け止める小野塚さん。その表情からは以前までのような敵意は感じられない。だからこそ、言い出しづらいけれど、言うしかない。
「レシーブは……小野塚さん、なるべくあなたがやってください。バレーは初めのレシーブがなければ何も始まらない。だから……」
「人数がいっぱいいて、わたしが控えのリベロだったらそれでもいいんだけどね。でも花美のリベロは水空さんだけ。当日調子が悪いからって代わることはできない。だから逃げられないよ。リベロは入れるのも入れないのも自由……必要なかったら使われないだけなんだから」
「そう……そう、なんですけど……」
「さ、そろそろ始めるよ。大丈夫、これは練習試合。どんな結果になろうがわたしたちの『結果』は何も変わらないんだから」
今さらあたしがどんな無様なプレーをしようが、小野塚さんはリベロにはなれない。夢は奪われたまま何も戻らない。だったらあたしは……結果で見せるしかない。夢を捨ててでもあたしがリベロだとよかったって小野塚さんに思ってもらうしかない。だからあたしに失敗は許されない……!
「流火……風美……天音ちゃん……悪いけど。この試合、あたしが圧倒するから……!」
花美高校
小野塚梨々花 S 2年 146.8cm 最高到達点:282cm
水空環奈 L 1年 147.2cm 最高到達点:223cm
翠川きらら MB 1年 185.1cm 最高到達点:292cm
紗茎学園
双蜂天音 OH 2年 178.5cm 最高到達点:305cm
飛龍流火 S 1年 175.1cm 最高到達点:280cm
蝶野風美 OP 1年 180.1cm 最高到達点:289cm




