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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

絶対に死にたくないスタントマンVS絶対に転生させたいトラック


 街灯の明かりだけを頼りに重たい身体を引きずりながら自宅へ戻る。


 今の俺はひどく疲れており、玄関を開けたらそのまま寝てしまう自信がある。だが、今日の俺はそれでいいと、この疲労が幸せだと感じる。


 駅から出て、周りを見る。そこには疲れ果てて精気の感じられない能面のような顔を貼り付け肩を落とした社会人たちが列をなしている。きっと昨日の俺はこの人たちと同じような顔で帰宅していたのだろうと思う。


 だが、今日は違う。疲れた分だけたくさんの成果があったのだ。


 俺はスタントマンをやっている。子供のころ特撮にはまり、派手なアクションシーンに魅入られてこの業界に飛び込んだのだ。それが今では、危険なアクションシーンはCGが使われるようなり始め、使われるシーンが少なくなったのだ。


 今日久しぶりにスタントマンとして赴いた仕事場で、現場の監督に仕事姿が評価され、この映画の仕事が終わっても使わせてもらわれることに決まったのだ。


 しかも、その監督はこの業界では有名な人で、これからも気に入られ続けて活躍していけばもっと色んな現場で仕事できると思うと胸が躍る。


 実は、明日に仕事が入り今日よりもレベルの高い現場を任せてもらうことが出来たのだ。一週間に1回仕事があったらいい方の俺に連続して仕事が来たことは天と地がひっくりかえりそうなほど驚く出来事だ。


 今日は早く家に帰って、明日に支障が出ないように体力を回復させたいところだ。明日の仕事のことを思うと思わずスキップしたいほど幸せなのだ。


 駅から歩いて5分、人通りが少なくなった道に差し掛かった。そこには近くにマンションが立ち並び公園がある場所で、昼間の人通りは多いが夜になると歩いている人の数は少なくなるような道だ。


 俺は押しボタン式の信号を待ち、信号が青になったから渡ろうと………


 ブオォォォオオオ!!!


「っと!?あぶねえ!!」


 信号を無視したトラックが目と鼻の先で通りすぎる。手をちょっとでも出していたらそのまま巻き込まれていたかもしれないほど近かった。


「目ん玉ついてんのか!!くそボケェ!」


 つい反射で口が汚くなってしまったが、これぐらい言ってもいい権利はあるだろうと再び横断歩道を渡り始めた。


 ちょうど真ん中に差し掛かったころ、先ほどトラックが通りすぎた方向から強い光をあてられた。


 近づくエンジン音。俺は先ほどのことを思い出して光が来た方を見た。


 こちらに近づくトラックが一台、停止線を越え……


「はぁっ!?」


 再びトラックが信号無視してトラックが突っ込んできたので、後ろにとび下がり尻もちをついて倒れた。俺はすぐ立ち上がりトラックの過ぎていった方を確認する。完全に向こうが赤信号の状態で突っ込んできたものだから怖くなったのだ。


 歩行者側の信号が点滅し始めたので俺は急いで横断歩道を渡りきる。まぁ、これぐらいの不幸があっても今日の俺はそれ以上についていたからトントンになったということで一旦落ち着くことにする。


 トラックが去っていった方向から光が当てられた。近づくエンジン音。


 俺は光が来た方を見る。奴が来た。暗いから同種のトラックかはどうかわからないが、奴の気配がする。


 俺は身構える。俺は今歩道にいるし普通、こちらに突っ込んでくるなんてないはずだ。


 奴が俺の近くに近づく。これまで車道で走っていたと思えないぐらい勢いよくハンドルを切り、俺の方に突進してくる。


 俺は右にローリングしながら回避する。幸い奴がガードレールに乗り上げ車体が浮いたことで俺はその下ギリギリをくぐる形で回避できた。


 さすがにやばいと感じ、急いで立ち上がり荷物を置いて歩道を全力疾走する。今まで疲れていたとか関係ない、命の危機かもしれないのだ、なりふり構っていられない。


 後ろを振り向くと奴は何事もなかったかのようにバックし体制を立て直した後またこちらへエンジンをふかし始めた。


 嫌な汗がうなじをかける。これ、俺のこと殺す気じゃね?


 全力疾走するも車の速さにはかなわず追いつかれ、今日4度目の体当たりを受けた。走っていたおかげか、奴のタイミングが合わず、空振りに終わった。


 それから少し走って広い公園についた俺は出来るだけ木が生えているところを選びジグザグに移動する。奴はさも当然というように生い茂る木々をなぎ倒しながら進んでくる。


「意味わかんねぇよ!!木を倒しながら進むトラックなんて!!ノーベル賞ものだろ!!」


 悪態をついた分吐いた息を大きく吸って、呼吸を整える。目的地に近づいてきたからだ。


 目的地とは公園にある池。俺は池の周りに立っている柵を登り、柵の上に立ち大きく両手を開けた。


 「さあ、賭けだぞ、楽しめよクソトラック!!」


 木々をなぎ倒してきた奴に最早、視界良好なんてものはない。ここまで俺に視線を絞って来ているのだろう。周りなんて見えてるはずない。


 大きく深呼吸をする。奴が目の前に近づいてくるまで、3……2……1……


「今!!」


 俺は立ってた柵から大きく右に飛び込む形で地面にダイブする。突っ込んできたトラックは俺を捕まえることが出来ず柵を破壊し、池の中に飛び込んでいった。


「スタントマンなめんなよ、バーカ!!」


 俺はトラックが池に落ちた音を聞き、ゆっくりと立ち上がり、服に付いた砂を払う。


 体にほとんど怪我がないことを確認しながら、身体を少しほぐしながら公園をでる。




 暗闇の水面、ボコボコと空気を含んだ泡が立ち、やがてなくなる。


 エンジン音、池の中から聞こえないはずの音。再び泡が立ち始める。


 水の底から水面を照らす光、徐々に大きくなるエンジン音。


 それは一瞬の出来事だった。池の中に沈んだはずのトラックが今、うねりを上げ池から飛び出す。




 後ろからの爆音。正直俺は油断していた。


 そして地面の振動。後ろを振り向くと、池から勢いよく出てきたであろうびしょ濡れのトラックがこちらに突っ込んできた。


 何とか体をのけぞりながら回避を試みるが時すでに遅し、足の部分が当たり倒れ込む。何とか受け身をとったので上半身は無事だったが左足に激痛がはしっている。


 奴はそのまま何事もなかったかのように公園の木々を突き飛ばしながら去っていき、そこには往復分のでかい道が出来ていた。


 当たった感覚があったから油断してどっかに過ぎ去ったのかどうかはわからないがとりあえず、すぐに戻ってくることはなさそうだ。


 俺は左足を引きずりながら、出来た道と90度垂直方向に木々をつたい公園をでる。




 あれから10分ほど経ったが再び来ず、どうやら俺が死んだ者として扱われてると感じ始めたころ。再び奴が来た。


 うなるエンジン音に強く眩しい光は俺のことを狙っている。俺は池という現状最高手である手段が効果のなかったことから、倒す策は無理だと感じ、別の策を考え出した。


 それが、物理的に通れないところは突っ込んできても無理である、という策だ。要はトラックが通れないところに居座り朝まで耐えるということだ。今は荷物を置いてきてしまったので誰にも助けを求めることが出来ないが、朝になれば人の出入りが増え、助けを求めることが出来る。俺は奴の時間切れを狙う作戦に出たのだ。


 そして、今俺は人が一人入るのがやっとの小道の真ん中にいる。たぶん、住宅の裏口通路がそのまま道になって、人の行き来が少しだけある小道になったものだと思われる。それはそうと、この道の狭さであればトラックなんていう、大型の車が通れるはずがないと思ったからだ。


 大きくなるエンジン音と強くなる光がトラックの接近を感じさせる。


 もう目の前までに来た。壁に近づくにつれてスピードが落ち、やがて小道の前で止まった。


「へっ!!ざまぁみろ!お前はここで時間切れになる運命なんだよ!!」


 しばらく悪態をつく。まぁ、左足を持っていかれている分俺はこいつに物を言う権利があると思う。


 するといきなりエンジン音がうなり始めて、少しバックし始めた。


 何をするのかと様子を見ていると、再び小道にアクセルを踏みだした。


「おいおいおい、まじか!まじで言ってんのかよ!?」


 なんとトラックは小道に入り込んだ来たのだ。


 正直に言うと今のトラックがどうなっているのかはすごく興味があったが観察する間もなく俺の方に向かってきているものだから逃げるしかなかった。


 その小道は一人分しか横がなく、走りづらくかつ左足の怪我であまりスピードが出なかったが、何とか小道を出て広い道に出た。




 それは一瞬だった。


 しかし、体感時間は無限にも思えた。


 道に出た瞬間に右から照射される強い光。耳のすぐ横で聞こえるエンジン音。右の肩から、身体の左まで伝わる衝撃。


 そう、俺は小道を出た瞬間に右から来たトラックに轢かれたのだ。


 爆発する思考。もう、着地を何とかすればとか衝撃を受け流せばとか小手先のテクニックで生存することが出来ないというのはありありとわかってくる。


 最期の最後に俺は轢いた奴の顔を見たくなって運転席を見た。


「んだよ……誰も乗ってねえじゃねぇか」


 こうして意識はなくなっていった。





 「カット!!収録終わり!!」


 監督がそう叫ぶとボロボロで血まみれになったトラックから人が出て来た。


「いやぁ~今回のやつはいい感じでしたね。さぞかし人気が出るでしょう」


 運転手だった?男は監督に話かける。


「おう!いい感じだったな。おら!!早く撤収するぞ!!」


 監督は勢いよく返事すると、虚空に話しかけ始めた。


「こいつどうします?いつもので?」

「おう、このまま放置でいいぞ。どうせ俺らがやったとかわからん」

「まぁ、そうっすね」


 彼らはトラック乗り、撤収する。




 現在真夜中。先ほどの喧噪はどこえやら、そこにはただ一つ、血まみれの死体だけが街灯に照らされて佇んでいる。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 疾走感がとても良かったです。 読後に、タイトルに戻ってクスリと来ました。 彼も、これだけ走れれば次でも活躍しそうですね。
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