2.転生
「んん…?」
目が覚めると森の中だった。
なんでこんな所に…。
冷静になって考えてみる。
そうか、隕石が落ちてきて恐らく俺は死んだんだ。
だとするとここはどこなのだろうか。
天国なのか、はたまた地獄か。それとも別の何かなのか。
でもこれだけは間違いないだろう。
これが謎の少女の言っていた''死んだその先''なのだろう。
何がなんだか分からないが、辺りに人の気配もない。
とりあえずこの森を抜けるしかないか…。
ここがどのくらいの広さの森かも分からないが、服装は死ぬ前のままで他に何の手荷物もない。
早くここを出ないと食べ物も飲み物もないので死んだその先でまた更に死ぬことになってしまいそうだ。
そう決めた俺は直感で歩き始めた。
こんなの直感で動くしかない。
10分ほど歩いた時だっただろうか。
すぐ横の茂みで、ガサガサという音が鳴った。
「な、なんだ…?」
突然の音に驚く。何の情報もない森で危険だ。
小動物かもしれないし、熊かもしれない。
音だけでは何がいるのか判断は出来ない。
このまま素通りするべきだろうか。でもこの森にどんな動物が生息しているのか把握しておきたい気持ちもある。
ここから出るのに1時間で出られる可能性もあれば、何日もい続けないといけない可能性もあるのだ。
そのため生息している動物を知っておくというのは、かなり重要な情報になるはずだ。
「頼む、危ない動物じゃありませんように…」
そう呟きながら、先程からガサガサと言い続けている草むらをそっとかき分けた。
そしてその先には、草を食べている兎が2匹並んでいた。
これがただの兎なら大丈夫だ。だがこの2匹の兎、普通の兎とは違い立派な角が1本生えていたのだ。
そして俺はそれに見覚えがあった。
「ホーンラビット…!!」
俺がつい昨日までやり込んでいたゲーム、テラーオンラインの初期に出てくる魔物にそっくりだったのだ。
まさかこんなそっくりな兎が実在するとは思いもせず、少し舞い上がってしまっていた。
「グルルル…!」
喜ぶのも束の間。気付けば2匹のうさぎがこちらを向き牙を出して威嚇してきていた。
えぇ、うさぎってこんな好戦的なの…?
だがもちろんこんな牙や角の生えた動物と戦い合えるわけがない。俺は武道の経験などないのだ。
「ガウっ!!!」
俺がその場をそっと立ち去ろうかと考えていると、2匹のうちの1匹が牙をむき出しにして飛び掛ってきた。
それをなんとか避ける。
俺の横を横切っていった兎は、またこちらを向き直して飛び掛る体勢になった。
そして鳴き声と同時にまた俺へと飛び掛ってくる。
「あれ…?」
この流れ。凄く見覚えがあった。
まさに俺がしていたテラーオンラインでの、ホーンラビットの攻撃パターンと同じなのだ。
まさか……!
本当にゲームと同じ世界ならこの2回飛び掛ってきた後は、少し後ろに下がって加速をつけてから角で飛び掛ってくるはずだ。
俺の予想通り、うさぎは後ろへ後ずさりを始めた。
まずい。助走をつけている。ゲームのホーンラビットと同じだ。
ゲームの中だと動きが分かっていれば避けるのなんてたわいもないが今は生身の体だ。攻撃が当たってしまうとどうなるか分からない。
「に、逃げろ…!!」
ここがゲームの世界だという現実を受け入れたとして、攻撃力やHP、また俺の攻撃手段も分からない。そんな中知識だけでホーンラビットを倒せる気がしなかった。
走ってその場を離れる。だが俺の少し後ろでずっと足音がしていた。
追い掛けてきている。。。
俺を格下だと思ったのだろうか。ゲームの中では雑魚キャラの2匹が俺を追い回している。
1分程走っただろうか。少しずつ、少しずつではあるがホーンラビットとの距離が縮まってきていた。
森の中を走っているので俺でも登れそうな木がたくさんあった。
ホーンラビットはゲームの中だと木を登るような描写はなかったはずだ。登れないことを信じるしかない…。
その可能性に賭け、1番近くにあった木を勢いよく登る。
生憎昔から運動神経は悪い方ではないので躓くことなく中段くらいまで登りきった。