1.日常
「おはよ。」
その声と共に深い眠りから目を覚ます。
目の前にはチカチカと光るパソコンとディスプレイ。
…また寝落ちしてしまった。
昨日も夜遅くまでやっていた今世間で流行りのMMORPG。
''テラーオンライン''
半年前にリリースされてあっという間にブームに。
リリース当日から始めた俺はネットランキング2位を保持し続けている。
「また遅くまでゲームしてたんでしょ〜。」
俺にそう言うのは妹の未来。
学校へ行く準備を済ませ出かける直前に俺を起こしてくれたみたいだ。
「おはよ。その通りだよ。今はイベント中でこれだけやっても毎日時間が足りないくらいなんだ。」
「はいはい、私はゲームは分かんないからね!学校でもみんなゲームの話しばっかりだし、何が面白いのか分かんなーい。
じゃ、いってきまーす!」
そう言ってドタドタと階段を降りて未来は出かけて行った。
そう、このテラーオンライン。やり込み要素、自由度が非常に高くて世間で驚く程の大ブームを引き起こしている。
俺みたいにやり込みすぎて会社を辞めた人間や学校に行かなくなった人間も多くて社会問題化しているのだ。
ニュースで言われている事も分かるし、今年25になる俺も焦りはもちろんある。でもそれ以上にこのゲームの中毒性には抗えずあと少し、あと少しとやっていくうちに仕事にも行けなくなってしまった。
だけどその甲斐あって今ではランキング2位の座を掴んだんだ。
ただ1位とはまだ差をあけられてしまっていて、このまま引き離されるわけには…!と意地になってやり込んでいる。
本当は色んな職業(ゲーム内の)も試してサブキャラ育成などもしたいけど、それは1位の座を掴んでからだと自分に言い聞かせている。
「さて、朝飯でも買いにいくかな。」
ふと時計を見るとAM8:00。両親はもう仕事に出かけている時間だ。腹ごしらえする為に徒歩10分程にあるコンビニへと足を運ぶ事にした。
髪を濡らして寝癖を直して、たかがコンビニだがお気に入りの服を着る。今ではニートになってしまった俺でも昔は身だしなみにはかなり気を使う方だった。
今となっては着る頻度が極端に減ってしまったSupremeの服を着て家を出た。
家を出て5分程。コンビニまで半分程の道のりを来た時だった。
「なんだ…?」
普段はあまり人が多いとは言えない田舎町だが物凄い人だかりがあった。
10人、20人、いやもっといるだろうか。
人が人を呼んで、その人だかりを見てまた人が集まって来ている。
「俺も行ってみるか。」
そう呟いて人だかりに近づいてみる。
近くまで来たが人が多すぎて中が見れない。
「何かあったんですか?」
「いや、分からないんだ。なんか人が消えたとかなんとか声は聞こえたが…」
近くにいたおじさんに聞いてみるが、おじさんも中が見えなくて何が起きているか分からない様子だった。
人が消えた?死んだの間違いじゃなのか。人が消えるなんてゲームの世界じゃあるまいし常識的に考えてありえない。
そんなわけないだろう、と思いつつも人混みを掻き分けてなんとか現場が見える位置まで来た。
だが人だかりの中心には何も無い。ただアスファルトの地面があるだけだった。
なんでこんな何もない所にここまでの人だかりが出来ているのか。
まさか本当に消えたなんて言わないだろうな…
「にゃハハ!」
突然聞こえた笑い声。その声はありえない方向、俺の真上から聞こえてきたのだった。若い女の声…いや、若い所か随分幼い声だ。
恐る恐る俺は自分の真上を向く。
するとハットを被り全身真っ黒の服装をした中学生くらいの女の子が何も無い宙に浮いていたのだ。
ありえない。
何かのドッキリ番組か?
人が宙に浮くなんて、この21世紀の現代でありえるはずがなかった。
「皆さんこんにちはだニャ。私が宙に何故浮いているだとか、そういう説明は省かせてもらうニャ。」
待て待て!
俺からしたらそこが本題だ。何よりも今1番気になる所なのに省かれると困るぞ。周りの人達も1人の例外なく突然のおかしな出来事にポカンとしていた。
「時間がないので本題だニャ。今からここにいる人達には死んでもらうニャ。」
なんだって?急に宙に浮いてびっくり仰天な登場をしたかと思えば、何を言い出すんだこいつは。
いきなり死んでくれと言われて、はい分かりました。と答える人間がいるわけない。
「何勝手な事言ってやがるんだ!」
「ふざけてるんじゃねえよクソガキ!!そもそもなんでお前は浮いてんだよ!」
「何の番組か知らんが俺は帰らせてもらうぞ!」
初めはポカンとしていた周りの人達から罵声が浴びせられる。
浮いてる女の子へと近寄ろうとする者や、踵を返してその場を立ち去ろうとする者など様々だった。
そりゃそうだ。そうなるに決まってる。
俺はあえて何も言葉を発さずに展開を見守っていた。
「そう言うのは分かってるニャ。でももう決定事項なんだニャ。でも安心していいニャ。死んでただ終わりじゃなくてその先があるんだニャ。それはその目で見てのお楽しみ。じゃ、痛いのは一瞬だから我慢してニャ!」
その先ってどういう事だ?
謎の少女の言っている事がいちいち意味が分からない。
子供の戯言として聞き流せばいいのだが、宙に浮いているという事実が現実離れしすぎていてそのトリックを明かさない限り不気味で仕方ない。
そんな事を考えていると、謎の少女は持っていたスティックを自分の真上へと振り上げてこう唱えた。
「デス・メテオ」
その直後、遥か上空からとてつもなく巨大な隕石が接近してきた。
驚くべきはその大きさとスピード。
遥か彼方から飛んできた隕石はみるみるうちに近付いてくる。
逃げても間に合わない。
本能で分かる。
そしてそれが視界に入って隕石と認識してからほんと3秒ほど。
遥か上空にいた隕石は俺たちのいる地表へと辿りついた。
響き渡る叫び声、怒声。俺はただただ何も言葉を発さず死を受け入れた。これは抗えない。
そしてその光景を最後に俺の意識はぷつりと切断された。