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そして人形へ

作者: 霧野秋彩

速水奈緒さま


あなたが死んでしまったと知って、特に悲しいとも寂しいとも思いませんでした。あなたのお通夜に行くつもりもありませんでした。特別仲が良かったわけではないですしね。あなたもただのクラスメイトだった私が来るなんて思ってなかったでしょう。ただ、5年前に隣の席だったあなたが今はもういないという事実が信じられませんでした。そして気付いたら私は喪服を着てあなたの所に行っていたのです。


あなたのお通夜には本当に沢山の人が来ていましたね。クラスメイト全員が来ていたわけではありませんでしたが、あなたと仲の良かったキラキラした人たちは皆いましたね。私が知らない同年代の人たちもキラキラした人ばかりでしたね。やっぱり、私たちはただのクラスメイトだったのですね。そんな人たちが集まった控え室は私にはどうも場違いな気がしてしまって。すぐに帰ってしまったことをお許しくださいね。


あなたの顔を見て皆、「とても綺麗だ」「眠ってるみたい」「変わらないね」「ドッキリだよって目を開けてくれないかな」などと言っていましたね。そして皆泣き崩れていましたね。確かに、その死化粧は高校生の頃から見慣れた大人っぽいあなたの顔でした。

でも、あなたではありませんでした。ここにいるのはあなたではないんだなと、確信してしまいました。もちろん誰にも言えませんが。あそこで横たわっていたのはあなたの姿をした人形だったのではないかと、今でも思ってしまうのです。


あなたは退学してからどんな日々を送っていたのですか。あなたはどんな死に方をしたのですか。あなたはどうして突然死んでしまったのですか。あなたには、通夜が終わるまで大声で泣き崩れてくれる恋人がいるでしょう?あなたが退学してからも遊んでいた友人がいたのでしょう?退学してから出来た人間関係も良好だったのでしょう?それなのに皆、「どうして突然死んでしまったんだ」「相談くらいいくらでも乗ったのに」と泣いていました。なぜ死んでしまったのかを知りたいとは思いません。そして、人形となったあなたを前にしてはもう誰も知ることが出来ないのです。あなたはあそこで横たわってなんていなかったでしょう?あなたは笑って私たちを眺めていたんでしょうか、それとも「うちマジで死んじまったん?」みたいに私たちを見ていたのでしょうか。ガラス越しに見るあなたは、ショーウィンドウ越しに見る日本人形のようでした。あなたが遺書を遺したのかさえ私は知りませんが、もし遺していたとしてもそれだけで全てがわかるわけではないでしょう。器から出てしまったあなたしか本当のことはわからないのでしょうね。


人の死に顔を見るのはあなたが初めてでした。ガラス越しの顔を見て、人間の果てを悟ってしまいました。これから先、他の誰かの死に顔を見ることがあっても、涙を流すことは無いでしょう。たとえ親族であっても、愛する人であっても、涙を見てくれる「あなた」はそこにはないと悟ってしまったから。


あなたが無事に往くべきところへ往けるように、人形に何度も何度も手を合わせました。書くように言われたメッセージカードには一言だけ。


安らかに



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