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太陽の猫

作者: T-time

「ねぇ、月にウサギがいるんだったら、太陽には何の動物がいるの?」


 小さな子供は時に不可解な質問をしてくる。

 しかしそれは純粋な心が生み出した、汚れのない疑問。


 だけど、大人はついいたずら心で答えてしまったりする。

 まったく、純粋な心をどこにおいてきたのやら。


「太陽には猫さんが住んでるのよ」


「本当に? 熱くないの?」


「ほらあれ見て」


 そこには12年前から飼っている猫のタマがいた。


「縁側にいて日向ぼっこしてるでしょ? あれって太陽のパワーを充電してるのよ」


「すごい! だから曇りの日とかはコタツから出てこないんだね!」


 完全に信じている。

 ここまで信じられると、楽しい反面チクりと罪悪感も出てきてしまう。


「でも誰にも言っちゃダメよ?」


「なんで?」


「ママはタマちゃんに聞いたんだけど秘密にしてって言ってたから」


 もう支離滅裂だ。

 じゃぁ子供に話しちゃだめでしょ。


「そっかわかった」


 この頃には罪悪感の方が勝ってしまう。

 この笑顔に「嘘でした」なんて言えるわけもないし。




 それからしばらくして。

 木枯らしが窓を撫で、ひんやりとした冷気が窓越しに伝わってくる季節になった。


 娘は頑なにタマの秘密をばらさないで居てくれているようだ。

 きっとタマの事が大好きなのだろう。


 考えてみれば、5歳の娘にとってタマは生まれた頃からいる、いわばお姉さんなのだ。

 子守りだってしてくれたし、大きくなったら一緒に遊んでくれた。


 そんなタマが、ついに縁側に行くことも無くなり、まあるく敷いた毛布の上で寝転んでばかりになった。

 彼女も高齢だ、もう長くないのかもしれない。


「充電しなくて良いの? 動けなくなっちゃうよ?」


 心配そうな娘に、どう説明すれば良いだろうか?

 そんなことを悩んでいるうちに容態が急変し、ポックリ逝ってしまった。


 猫としては大往生ではあったが、娘にはそれを理解するにはまだ早すぎる。


「タマ居なくなっちゃった」


 幼稚園もお休みして、一日中泣いている娘。


「元気を出して、泣いてもタマは喜ばないよ」


「ママは悲しくないの!?」


 泣きながら抗議をしてくる。

 結婚前、私が一人暮らしした時から飼ってる。ぶっちゃけ旦那より付き合いが長いのだ。悲しくないわけがない。


 だけど私は笑顔でこう言った。


「タマはね寒くなったから、いま太陽のおうちで充電中なの」


「うそつき、太陽はすごく熱いから猫は住めないんだよ」


 そう泣き腫らした目で睨んでくる。

 あっという間に賢くなって、大人が言いくるめるのも難しくなってくるんだなぁと、成長を感じながらも、いまはまだ騙されていてほしいと願う。


「いまに毛皮を着替えて戻ってきてくれるから、それまで待ってあげようね」


「本当? いつ?」


「たぶん暖かくなった頃かな」


 また私の心は少しチクッと痛んだが。

 目の前の泣き顔が、笑顔に変わっていくのを見ていると、安堵感にすり変わっていった。




 春頃、私は新しい猫を家に連れてきた。

 名前は当然タマだ。


 今度のタマも日だまりが好きみたいだ。


企画で書いたお話です♪

短くまとめております。


長いものもありますし、どんどん更新しますので良ければお気に入りにしてください♪

★もおまちしてまーす

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心が温まるすてきな作品です。 月にウサギがいる・・・ 私も5歳ぐらいの時はそう思っていました。 思わず、5歳の時を思い出してしまいました。 [一言] 冬なのでとても寒いですが、心はとても温…
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