今はただ、このままで
「金色丸…我慢してる顔、可愛いですよ。顔を背けないで、私を見なさい。」
「そんなとこ、触んじゃねえ!いくらご主人様でも……っ」
野営中、狭いテントの中で裏若き男女二人。
嗚呼、現在進行形で触られている。
白魚のような指先でなぞるように、しかし触れているかそうでないかのギリギリのフェザータッチ。
敏感になっている俺は、小さな女の子一人に対して無力に震える事しか出来ない。
神経が集まっているソレに大好きな人が触ってくれる嬉しさはある。
だが、抵抗しねえといけない。
「貴方は私のインテリア…口答えは許しません」
普段とは真逆な、熱に浮かされたような瞳を向けられると不覚にも心臓がバクバクと音がする。
口調もいつもの厳しい物ではない、聞かされた言葉とは裏腹にどこか愉しんでいる。
「人にはなぁ…やって良いことと、悪いことがある…んだぜぇ……!くっ、……ぅ」
俺は相変わらずの減らず口で、ご主人様とは目を合わさないように顔を伏せた瞬間だった。
フェザータッチから、180度方向転換。
ぎゅっとソレを握り、上下に手をゆっくり動かしてきた。
あ…ソレやば。
「人だなんて、貴方は妖狐ですよ。だから当てはまりません」
「ご、ごひゅ…じん……さ、ま」
俺は真っ赤な顔で、ブルブルと震える。唇を噛み締めて、瞼を固く閉じるしかない。
容赦なくご主人様の包み込む手の動きが、だんだん速くなっていく。
「ふふ、貴方の尻尾は最高の触り心地です。私が手入れした甲斐がありました。」
そう、ご主人は俺の尻尾を弄るのが最近のマイブームだ。
俺はコレをやられると、くすぐったく力が抜けてふにゃふにゃしてしまう。
俺だって男だし、なんならご主人様よりも5個年上だし、威厳…とまではいかないけど、カッコつけていたい生き物だ。
だから、一切他人に尻尾は触らせなかったのに…。
俺のご主人様は、他人の苦痛や恥辱に歪む顔が好きな変わった人だ。
俺はいつもご主人様の傍にいるから、標的にされやすい。
ご主人様は異能の力で、すぐに大怪我した人の傷なんか一瞬で治す事が出来るんだ。
スッゲェ人なんだけど、俺が怪我をした時はゆっくり時間をかける。
なんでかって…もう一回言っとくけど、ご主人様はドSだからだ。
特に俺が痛がったり、恥ずかしがるような顔が一番好きらしい。
「あら、もう限界ですか。仕方のない子ですね」
ギブアップした俺は、脱力し切ってご主人様にもたれかかってしまった。
ご主人様は満足したらしく、尻尾を握る手を離して俺を包み込むように抱きしめてくれる。
ご主人様は元は箱入り娘。
軽度の男性恐怖症を抱えているが、なんでか俺は例外みたいだ。
…アレ?よく考えたらもしかして、俺男って認識されてねえのかな?
今度は俺を癒そうと背中を撫でてくる。
ふわっと、ご主人様からフローラルな香りがした。俺はあんまり、花の種類とかよく分かんねえけど。
俺は狐だから、嗅覚や直感はかなり鋭い。
ご主人様からは良い匂いがする…。
趣味の悪い意地悪ばかりしてくるご主人様なのに、俺は安らぎと同時に胸の高鳴りを感じていた。
そうだ。俺はご主人様が大好きだ。
この日はそのまま、俺とご主人様は抱き合って眠っていた。
それは、カップルとかじゃなくて、まるで仲睦まじい兄妹が戯れあっているような…そんな感覚に近いと思う。
俺は、確かに女の子として…ご主人様を見ているけれど、それ以上に親愛の情が強い。
ご主人様の子供の頃の話を聞くと、家族仲はあまり良くなかったらしい。
名門貴族の生まれで、一夫多妻。腹違いのにーちゃんが何人かいたらしいが、誰が当主になるかでいつも揉めていた。
きょうだい同士で喧嘩や、いじめもあった。
ご主人様の母ちゃんは、第三夫人らしいが他の夫人と違って男の子を産めなかった為に、待遇はあからさまに悪くなった。
その寂しさから、他の男と不倫に走ったらしく、ご主人様は独りぼっちだったらしい。
軽度の男性恐怖症は、おそらく家庭環境にある。
それでも認めてもらえるように、勉強やピアノはもちろん、剣技も人一倍努力して磨いてきた。
それでも、スノーフィールド家はマリアを選ばなかった。
そんな風に、一つ一つ家族の事を話していたご主人様の横顔は、すごく寂しそうで辛そうだった。
人に弱みを見せないからこそ、その時の表情と体育座りをして身体をぎゅっ、と縮める様子は、俺にはかなり印象的だった。
本当は、人との繋がりや温もりがご主人様には必要なんだと俺は知った。
ご主人様を、いつかとびっきりの笑顔にさせたい。ありのままのマリアでも、受容れる人間がいると俺は伝え続けたい。
ご主人様には、幸せになって欲しいから。
だから、俺は自分の淡い恋心の成就など後回しなのだ。
抱き合っていて、変な気が起きないのは俺も不思議だった。
ちゃんと異性なんだなって、ご主人様のスカートから除くすべすべの脚とか、小さいけど凄い柔らかい膨らみとか、今も抱き合っててしっかり認識はしてるんだけどよ。
マリアの寝顔を真っ正面から眺める。
健やかな寝息を立てて、14歳らしいあどけなさの残る無防備な顔だ。
いつもは冷静な印象を与える、サファイアの宝石のような瞳は閉じられている。
真一文字の口元は、絶賛半開きだ。
この寝顔をいつも見る度に、俺が幸せな気持ちにさせられる。
こんなに可愛い女の子なんだ。
襲うとかよりも、守りたいと思う気持ちが強まるばかり。
こんなに穏やかな気持ちにさせてくれる、マリアとの出会いは俺にとって、何よりの宝物だ。
「おやすみ、マリア」
彼女の頬を掌で優しく撫でた後、俺も満足して眠りについた。




