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姫宮様に甘いコドクを

作者: 日比覚世

姫宮様との出会いは、殺人犯と被害者となるはずのものでした。


私が、王宮付きの古い医術師の家柄の息子としてこの世界に生を受けた時、

私は既に周りよりはるかに先んじた高度な知識を得ておりました。

いわゆる転生者という者です。

前世にて日本の高等教育を修めていたのです。


私の知る限り、他には、前世の記憶を持つ者はおりませんでした。まして、他の世界が存在しうるなど想像する者すらないようでした。

それとも、そのような世界は初めから存在せず、日本の記憶というもの自体が私の作り出した完全な妄想なのかもしれません。


この今世の生は、私の拙いイメージでいうところの韓流王朝ドラマの世界です。

雅びで華やかな御殿で、尊き王家にお仕えするという、平和で安定したものでした。

前世の記憶に助けられ。また、今世の若人等に比べ、効率良く学習成果をあげるということに慣れていたためもありましょうか。

私は三百年に一人の天才よと讃えられ、若くして奥の院の医術師を任されることになりました。


私が異例の出世によって出入りを許されることになった奥の院とは、神に仕える姫宮様のお住いです。

地に生ける神である王は、天界の神との仲立ちとして娘を一人、神に仕える者とします。歴代守られてきた風習です。前世の世界にも昔、斎宮とかいう方がいらしたはずです。

姫宮様がおわします奥の院は、しかし、伊勢のように都から遠くにある訳ではありません。奥の院とは名ばかりで、王宮の建物の内にあるのです。

同じ甍続きの王宮の一画が聖地として、奥の院と称され、そこだけは、同じ廊下で繋がっていても、天界という扱いなのです。

洒落た玩具のような朱塗の太鼓橋を渡り、前世でいうところの鳥居に当たるようなものをくぐれば、そこはもう天界なのです。


私が、初めてその天界に足を踏み入れた日は、私の生涯の中で、最高の日であり、最悪の日でもありました。

その日私は、初めて、今世の世界に魔術かそれに類するものがあることを知りました。

あやしき術をかけられた私は、恐ろしい毒の調合を始めたのです。勿論、私の意思によってではありません。

手も足も目ですら、私の意思を離れ、勝手に動きました。

私は、全く自由にならない体に、ただ意識だけを乗せられたような状態で、ただ、己の為す恐ろしい所業を眺めていただけでした。

無断で入ろうとするだけで首が飛ぶ禁術庫の中で、幾つもの封印を破りとり、古壺を開け、蠱毒と呼ばれる恐ろしい毒を作り出したのです。

私が呪をかけると、黒く蠢く胸の悪くなるような蠱共の塊は、無色透明の薬酒に化けました。

見た目が美しくなったことで、その毒の禍々しさは一層増したように思われました。


私は、その毒を携えて、初めての奥の院に足を踏み入れたのです。

姫宮様は、それはいとけなく、お美しい姫君様でした。かぐや姫もかくやというほどに。身の内から光を発しているかのようでした。

姫宮様は、私が差し出した毒を一口に飲み、ひどくお苦しみになりぱたりと倒れ臥しました。

その途端に、私の体に自由が戻りました。

私は、姫宮様の亡骸に取りすがり、泣きました。

天の神に祈りました。

私の命も魂も何もかも差し上げます。どうぞ姫宮をお助け下さいと。

姫宮を蘇生させるために思いつく限りの手を尽くしました。

心臓マッサージも。

人工呼吸も。

そうです。私は、姫宮様に口付けをしました。

その途端、姫宮様は、パチリと目を開いて、

「ありがとう。真実の愛の力で助かったのね」

とおっしゃったのです。


姫宮様を害そうとした術式は打ち破られ、呪いは術者に還ったのです。

五寸釘と藁人形を手にした姿のまま、先代の奥の院の医術師が事切れているのが発見されたのは、それから間も無くのことでした。その死骸は、齢も測れぬほどに年老いて萎び、老醜という言葉を超えて骸骨のようでした。


その夜から、私は姫宮様に身も心も全て捧げてお仕えするようになりました。

夜伽のお話にと求められて、今世だけでの知識ではストックが足りず、前世の日本で学んだ面白い物語なども交えて、毎夜毎夜、姫宮様を楽しませることに努めました。

姫宮様のお気に入り、繰り返し語らされたのは、『高野聖』と『浦島太郎』でした。

私は、以前は乙姫様の玉手箱とは何とも残酷で皮肉な物かと思っておりました。

しかし、姫宮様、あなたに愛されるようになってから、私は、玉手箱とは救いの形だったと思うようになりました。


少し、長く話しすぎてしまったようです。これにてお暇させていただきます。


姫宮様、あなたの傍にあった三百年は私にとって、永遠のようでした。しかし、今となっては、ほんの三日ほどの夢だったような気も致します。

三百年に一度の秀才はまもなく蠱毒を抱えてこちらに参ることでしょう。

そして、私は老いさらばえた骸と化すことでしょう。

今の私の、時を止めたままの若く美しい姿の全ては、一瞬にして三百年の歳月を受け止めることになります。

あの日、初めて私がこの奥の院に来た日に見た、先代の医術師の死に姿そっくりに。


姫宮様、今日まで本当にありがとうございました。

今、私の心の中は澄み切った青空のように晴れております。

あの、殺人犯と被害者として始まったはずの私達の関係が、まもなくあるべき形で完全な円環を閉じるのです。


しかし、姫宮様、ただの三百年毎の繰り返しは、全て貴方様の掌の中にあるなんて思わないで下さいませね。

私は、転生者。つまりチートな能力者なのです。

姫宮様、貴女はまもなく、次の奥の院の医術師が私と完全にそっくりであるということに驚くことでしょう。

貴女は、今世の私が渾身の愛を込めて術式に変えた蠱毒をどの様に飲んでくれるのでしょう。

その姿を見られないのだけが心残りです。

来世の私に嫉妬してしまいます。

今世の私は、まもなく蠱毒の術式を来世の私によって破られ死ぬでしょう。そして、転生先で貴方に毒を盛り、また、貴方を真実の愛のキスで目醒めさせるでしょう。

真実の愛のキスを交わした来世の私は、貴女の愛に縛り付けられることでしょう。


私は貴女に永遠に縛り付けられる?

いいえ、既に閉じ込められている貴女に、私の方から鎖をさらに掛けに行くだけのことです。

気付いておいででしたでしょうか

これは貴女の支配する世界ではありません

貴方を無限牢獄に閉じ込めたのは、貴方ではなく実は私なのです。

妄想の中に、この天界という異界を作り、円環を閉じたのです。


ええ、また来世でお会いしましょう。

大丈夫です。私はまた日本の記憶を持った転生者として生まれます。貴女のことなど覚えてはおりません。

初めてから全てまた、楽しませていただくのですから。


Copyright(C)2021-日比覚世



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