地獄に落ちる
こちらは百物語三十四話になります。
山ン本怪談百物語↓
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うちの爺ちゃんが体験した話です。
爺ちゃんは若い時、とある山奥の小さな村に住んでいたらしい。
特に珍しい村ではなかったのだが、村にはとんでもない奴がいたんだって。
爺ちゃんと同世代で、名前は「K」という人だ。このKという男がとんでもない「荒くれ者」だった。
町に出て窃盗や暴行事件を繰り返し、村でも悪いことばかりするから嫌われていたそうだ。
ある日の事、村でこの男が事件を起こした。
村の若い女性を強姦し、口封じのために首を絞めて殺してしまったらしい。死体を遺棄しようとしている現場を、農作業中の人たちが見つけて捕まえたらしい。
爺ちゃんとほかの村人は協力してKを縄で縛ると、町の警察へ電話で連絡した。山の中の小さな村ということもあって、警察が来るのは次の日の朝ということになった。
爺ちゃんたちはKを村の牛小屋に閉じ込めて、警察が迎えに来る朝まで見張ることにした。ここで一番大変だったのは、殺された女性の遺族だ。
「殺させろ!今すぐあいつを殺させてくれ!」
女性の父親が怒って何度も牛小屋へ押しかけに来た。娘を殺されたのだから、怒るのは当然のことである。
爺ちゃんたちは何度も父親を説得したのだが、なかなか落ち着いて話を聞いてくれない。夜明け前になると、斧と猟銃を持った父親が牛小屋の前で狂ったように暴れ出した。
「はよ殺させろ!あの子が言うんや!一緒に連れていきたいって俺に言うてくるんや!」
困った爺ちゃんたちが頭を抱えていると、年老いた村の村長さんが現れた。
「何をやっとるんや!そいつを殺したら、お前の娘はもう二度と帰ってこれんぞ!」
爺ちゃんたちは村長さんが言っていることを最初は理解することができなかった。村長さんは父親を説得すると、爺ちゃんたちと父親を娘の葬儀場所へ連れていった。
場所は村の小さな公民館。小さな部屋の奥に娘の遺体と遺影が置かれていた。村長さんは遺影を持ってくると、怒りながらそれを爺ちゃんたちへ見せた。
「ほれ見てみろ!お前の娘は『地獄』に落ちる手前や!あの男を殺したら、もう娘は生まれ変われへんぞ!」
遺影に写る娘の顔は、骸骨のようにやせ細り、にやりと不気味な笑みを浮かべていた。
それを見た父親は、娘の遺体に強く抱きつきながら、朝まで大声で泣き続けた。
翌朝、村へやってきた警察官たちによってKは連行されていった。爺ちゃんたちは、村長さんにあの遺影について話を聞いてみることにした。
「あの娘は死んだ後、地獄の死霊に自分の魂を売ったんや。自分が地獄に落ちるかわりに、Kも一緒に連れていきたいとな。地獄に落ちる人間はああいう顔になる」
村長さんは爺ちゃんたちへもう一度あの遺影を見せた。
「親父は死霊に操られてKを殺そうとした。でももう大丈夫や。ほれ見てみ、失敗したから戻ってるわ」
恐ろしかった遺影の顔は、とても安らかな顔に戻っていた。