我が家のブラウン管テレビは、地デジが見れるハイスペック仕様
特別な人間になれると思って上京。
だが現実は過酷な労働の日々だった。
休日出勤、サービス残業はあたり前の安月給……ブラック企業ってやつだ。
家に帰っても六畳一間のボロアパートに風呂はなく、トイレは共同。寝るだけの空間でしかない部屋は、タンスの他に布団があるだけ。
「そういえば最近テレビも見ていないな」
そう独りごちると何故か笑いが込み上げてきた。
たかがテレビ。買ってやろうじゃないかと。
思い立って向かったのはリサイクルショップ。
だが俺の手持ちで買えるものは、旧時代のブラウン管テレビだけ。
疲れているとおかしな判断をするものだ。
目的がテレビを見ることから買うことに変わっていた。
冷静になったのは重いテレビを持ち帰ってからだ。
「まぁ、どうせ見てる暇もないか」
こうして我が家にいらないオブジェが増える。
一応電源を入れてみたが画面には砂嵐とザーッという音。
「まぁ、ホワイトノイズは睡眠に快適っていうし」
俺は苦笑いを浮かべながらもタオルでテレビを拭き始めた。
するとテレビからもくもくと煙が立ち上る。
――故障か!?
慌てて電源を抜くが画面が消えない。
するとパッと映像が変わった。
「おっ、そなたが新しい主人か?」
「よろしくねー!」
画面に代わり代わりに映る三人の美人。
呆気に取られていると美女が話を始めた。
「妾達はブラウン管の精霊じゃ。そなたの願いを三つ叶えてやろう」
あぁ、魔法のランプみたいなものか。
きっと俺は夢見ているのだ。
「あ、あの。お名前は?」
「妾は長女のアンコじゃ」
「私は次女のインコだよ」
「僕は三女のウン――」
「ちょっと待ったぁー!」
ダメだって女の子がそんなこと言ったら!
そりゃ一郎、二郎、三郎とか順になってる兄弟とかいたよ。
でも、ンコを『あ』からおろしちゃダメ!
『う』もダメだけど、『ち』とか『ま』までいったらどうするの?
「これで願いは一つ減ったぞ」
つまらぬ願いを使ってしまった。
「じゃ、じゃあ、地デジが見たいです」
「分かったよ!」
すると画面に超高画質の番組が流れ始める。
三人はすみっこのコマにいるようだ。
「最後の願いは何にする?」
最後の願いか……。
「あの、仕事から帰ってきたら『おかえり』って言われたい。このままいてもらうのはダメかな?」
答えのように、三人の美女は微笑んだ。
我が家のテレビはブラウン管だ。
だが地デジも見れるし三人の精霊も住んでいる。
俺は特別な人間ではないが、特別な何かを手に入れたようだ。