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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編【パーティー追放・オブ・ザ・リビングデッド】

作者: 八木耳木兎

「お前はパーティー追放だ、ロメロ」


 一瞬、言葉の意味を飲み込めなかった。



「な、何を言ってるんだ……ダリオ?」


 勇者パーティーの冒険者である俺、ロメロは、パーティーのリーダーたる勇者・ダリオに言葉の意味を問いただした。



「言葉の通りだ。お前をこれ以上、我々のパーティーの一員として認めることはできない」


「で……でもあんまりじゃないか。俺はパーティーの初期メンバーとして、五年間がんばってきたつもりだ」

 

  そういう俺を、ダリオは蝿か何かを見るような目で見てきた。


「自分のレベルとみんなのレベルを見比べてから言ったらどうだ? ロメロよ。他の冒険者がレベル三桁だったのに、お前はいまだにレベル30だろうが。足手まといをパーティーに入れておけるか」


「……なら一つ聞きたいんだけどさ、いったん窓の外見てみ?」


 そう言って、俺たち二人は今いる酒場のテーブルから、柵付きの窓の外を眺めた。


 そこにはまるで祭りでもあるかのように、数多くの人影が押し寄せていた。


 人間が押しかけているようにみえるが、実際は違う。


 押しかけた人間たちの体は血が通っているとは思えない青一色だし、動きはフラフラしていて生気が感じられない。


 それも当然だ。


 窓の外の彼らは、実際にはもう生きていないのだから。


 俺たちのいる建物は、今大量のゾンビに囲まれているのだ。


「追放って、なんでこのタイミングで言うの?」


◆   ◆   ◆


「つーかさ、パーティーとかなんとか言ってるけど、もう生き残ってるの俺とお前の二人だけだからな?」


 元々俺たちは五人のパーティで、一年ほど冒険者として各地の町やダンジョンを回り、クエストを受けてその報酬で金を稼ぐ生活を続けていた。


 しかしある街を移動中、突然大量のゾンビに襲われ、必死の思いで逃走することになった。


 ダリオと俺以外の三人のメンバーは、既にゾンビに食われて絶命している。


 というか、今まさに窓の外でフラフラしているゾンビの中に、かつての三人の仲間たちが混じっている。


 そして今、生き残った俺たちの命も危ない。


「今俺追放したらお前独りぼっちだぞ?」

「生きている間に、お前を追放しておきたかった」

 身も蓋もない発言が返って来た。


「なぁ、まさかそれって……」

「そうだよ? こうなる前から追放しようと思っていた」

 はー、そうかいそうかい……


「とりあえず、今は仲間と連携して動かなきゃいけない状況って言うのはわかるよな? 唯一の仲間を追放って正気か?」

「一緒にいるのがお前じゃなかったらそう思ってたんだけど、お前の場合追放したいという気持ちの方が上回るんだよ」

 その言葉に、俺は苦虫を嚙み潰したような顔にならざるをえなかった。

 この状況下で俺だけが例外って、どんだけ俺のことが嫌いなんだ……


「とにかく、もう出て行け。同じ空間にはいたくない」

「死ぬだろッッッ!!!」

 今俺たちがいる酒場はゾンビたちに囲まれており、奴らの侵入を防ぐために入り口という入り口を木の板と釘で封鎖している状況下だ。

 連携して助け合わなければいけない状況にもかかわらず、こいつには俺とチームワークを組もうというつもりがまるでないらしい。


「そこまで言うなら思い出してみようじゃないかロメロ、なぜお前が追放されるべきかを」

 そう言ってダリオは、テーブルの向かいの席に座している俺に改めて向き直った。

「よりによって、カレンから最初に噛まれたよな?」


 最初ゾンビの群れが襲撃してきたとき、俺たちはゾンビをなんとか振り切り、とある廃屋へと逃げ込んだ。

 なんとかゾンビを倒す作戦を考えようとしていたところ、【僧侶】―――聖属性の魔法によってゾンビを撃退する力を持つジョブ―――だったカレンの腕に、ガッツリゾンビが噛んだ跡が刻まれていたことがわかった。

 

「そんな彼女をお前はどうした? 殺そうとしたんだよ」

 ダリオのその言葉に、特に反論はしなかった。事実だったからだ。

「俺たちにとってずっと仲間だった彼女をな。わかってるのか?」

「彼女が自分で始末してくれ、って言っただろうが」

 ゾンビと化す前に、俺たちの手で始末してほしい。

 生真面目なカレンは、痛みに耐えながら俺たちにそう頼んできた。

 その言葉を聞いて、俺も手持ち武器の魔銃を彼女に向けた。

 彼女のその真摯な言葉を聞いて、俺もこの場で彼女を殺すことが、せめてもの供養になると考えたのだ。


 しかし、彼女を撃つことはできなかった。

「逆になんで、お前あの時カレンを殺すのを止めたんだ?」

 こともあろうに目の前のこの勇者が、撃つのを制止したからだった。


「当然だろ、パーティーの仲間なんだから」

「二回言うけど、彼女が自分で始末してくれって言っただろうが」

「でもお前の手で殺してほしい、とは言わなかった」

「そこ関係ある?」

「お前嫌われてたからな、彼女にも」

「……」

 生きるか死ぬかの状況下で、なんでこんなつらい事実を突きつけられなければならないんだ。


「……なら言うけどダリオ、お前が殺すのをためらって結果どうなった?」

 そう言うと、ダリオは痛いところを突かれたように黙った。

「あの場で殺さなかった結果カレンがゾンビ化して、ベンまで噛みつかれたよな?」

 ダリオが彼女を殺すのをためらったばかりに彼女はゾンビと化し、仲間の一人である【剣闘士】のベンに噛みついた。

 ベンは【剣闘士】らしく怪力で大剣を振り回す大男で、ゾンビ撃退でも戦力になるはずだった。

 なのにあの時ゾンビと化したカレンに噛みつかれて、彼までも早々にゾンビと化してしまったのだ。


 結局俺とダリオ、そして【魔法使い】バーバラは、丁度その時廃屋に侵入しつつあったゾンビの大群をギリギリで振り切り、別の場所へと逃げだしたのであった。

 そして息も絶え絶えになった俺たち三人が新しい逃げ場として選んだのが、この廃棄された酒場だったというわけだ。


「その時点で大損害だけどさ……本来ならバーバラのおかげで、今この事態は収束してたはずだよな?」

 【魔法使い】バーバラは逃走中、街道の松明のある場所にだけゾンビが寄り付かないことに気が付き、炎こそが彼らの弱点であることをいち早く解明した。


 そこで彼女は俺たち二人を新しい隠れ家―――この棄てられた酒場に逃げ込ませて、彼女自身は俺たちを庇うように炎属性の魔法でゾンビを振り払っていた。


 バーバラは自分が盾となってでも、俺たちをゾンビから守ろうとしてくれていたのだ。

 その英雄的行為に感銘を受けたからこそ、俺も彼女の指示通りに事態が収束するまでこの酒場から一歩も出ないように努めた。今この家屋のあらゆる扉や窓に張り付けてある板も、その時に床の板をはがして取り付けたものだ。


……なのに、目の前のこの勇者ときたら。

「なんであの時お前、一回扉明けたの?」


 バーバラが自身の最強の炎属性魔法でゾンビを大量に殺していた、正にその最中。

 こともあろうにこのバカ勇者は、裏口の扉を開けて酒場を抜け出し、鐘楼へと向かっていたのだ。

 それを見てのなんで勝手に外に出てるの!?という驚愕と混乱が一瞬の隙となった結果、バーバラすらも大量のゾンビに囲い込まれて絶命してしまった。

 結果俺が秒の早さでダリオを引き戻した結果、俺たちはこの建物の中で大量のゾンビに囲まれる袋小路状態になった。

 そして、今に至る。


「いや、彼女が心配だったし、鐘を鳴らして助けを呼ばなきゃって思ったから……」

「打ち合わせなしに勝手なことしてんじゃねーよ!!」

 せめて鐘楼へ助けを呼びに行く、と行動理由をバーバラに説明してから行くべきだろう。

 最重要戦力が彼女しかいなかった状況下で、無力俺たちが勝手に行動をとるのは自殺行為でしかないはずだ。


「言っとくけどロメロ、バーバラは生前お前のそういうマニュアル通りにしか行動できないところが嫌いだって言ってたぞ」

「……」

 さっきからなんで正しく対処してるはずの俺が傷ついて、正しくない対処してるこいつが自信満々なんだろう。


「ともかく、よく聞け」

 五年間の中でこれ以上ない位の真摯な(つもりの)表情で、俺はダリオに向きなおった。 

「お前が俺のことをどれだけ嫌っていようが、この際構わない。でもな、今この場で足を引っ張り合ってたら、助かる命も助からないんだよ。俺はもっと人生を楽しみたいし、お前だって例え嫌な奴でも五年間行動を共にしてきた仲間だ。一緒にここを出て、生き残ろうぜ」

 我ながら、こいつ相手にここまで真面目な発言が飛び出すほどに内心びっくりしていた。

 お互いに嫌い合っているはずの相手にこんな言葉が飛び出したのは、たとえ裏では嫌われていたとしても、それは五年間冒険の日々を分かち合った仲間への礼儀だったのかもしれない。


 その言葉に、彼はこう返した。


「あの、後ろ」

「え」

 ダリオに促されて、振り向いた先。

 そこには、締め出したはずのゾンビがいた。


「嘘だろ、なんでここに……!!!」

「まあ俺たちも建物を隅々まで把握してるわけじゃなかったしな」

 混乱する俺の後ろで、ダリオは何もかも諦めきったような笑いを見せて言った。どこかに、俺たちの知らない隠し扉があったのかもしれない。


「おい、こうなったら徹底抗戦だ!!俺たちでこいつらを倒せるだけ倒すぞ!!」

「その前に先に死ね」

「うわあああああああああああ!!!!!!」


 時間稼ぎとばかりにかつての仲間にどつきまわされた俺は。

「「ヴォォォォォ………」」


 先ほどの真摯な発言が何も響いていなかったことへの恨みつらみを言う暇もなく。

「「「「ヴオオオォォォォォォォォォ……」」」」


 自分の体を、たちまちゾンビの大群に埋め尽くされていった。


「言っただろ? お前は追放だ、って」


 ゾンビにまとわりつかれる中でふと、ダリオの情け容赦のない声が聞こえたような気がした。


◆   ◆   ◆


その後俺は、ゾンビの王となった。


ゾンビに噛まれて感染した時点で、隠れスキル【ゾンビ(オーヴァーロード)(・オブ・ザ・)支配者(リビングデッド)】―――周囲にはびこるゾンビを、絶対的に支配し、律することができるスキルが覚醒したのだ。


今の俺は生前(?)と同じように意志をもって行動することができるし、このスキルさえあれば、ゾンビたちを完全に町から退去させて人間たちを守ることも可能だ。


「オォイ、ロメロオォォォ……」

 人間だったときは聞こえなかった声が、俺の耳に響いてくる。


 声の主は、生前に俺たちのパーティーのリーダーだった(恐らく俺の直後にゾンビに噛まれた)、ダリオの肉体を持つゾンビだった。

 この隠れスキルを持っている人間は、ゾンビと意思疎通もできるらしい。


「俺ノパーティィィに戻ッテ来イィィ……」

「遅いわ」


 生前持っていた魔銃で、俺は奴の頭を吹き飛ばした。

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