第471話 封印されていた神がこんにちは
夕方くらいにのんびりしていたら、雨雲がぱかっと割れたのであった。
来た来た。
ビンとガラドンに撫でられた古き神。
なるほど、ライオンの前半身にタコのような後半身。
触手の間に皮膜を貼り、そこを虹色に輝かせながら飛んでくる。
『この地におわすという新たなる神はどちらか!』
大きな声で吠えた。
普通なら、これを見た現地の一般人は恐れおののきひれ伏すのだが。
「あら、ショートのお知り合いの神様?」
カトリナがのほほんとした感じで見上げた。
「ああ、俺の客だ。おーい、ここだここだ。ちょっと迎えに行くからな。あ、サイズ感合わせておくわ」
巨大化魔法ビッグナールで大きくなって、ふわりと浮かび上がった。
封印されていた神は俺を見るとハッとして、空中でかしこまった。
『この場にいても分かるその神としての格……。なるほど、我を打ち倒した若き神々の上に君臨するだけのことはありますな』
「楽にしてくれ。多分ちょっとしたらこの星の最高神に祭り上げられると思うけど、今はただの村長の俺だ……」
『いやいやいや、ご謙遜を……。偉大なるお方よ。御身の名をお教えください』
「ショートだ。元勇者だったショート」
『ショート! ワールディアを手中に収めかけていたという魔王を倒した勇者の名ですな。封印された我の上に住む人間どもが話しておりましたわ』
「そう、それ。ちょっとやりすぎて強くなってしまったのだ。さらにどこまで行けるかなーと思ってレベルアップし続けていたら、宇宙から来たオーバーロードとかいう連中の艦隊をだな。こう拳で粉砕できるほどに」
『な、な、なんとー! 星辰の彼方から来るという外なる神々を!? あ、申し遅れました。我の名はフォールン。かつて天界より堕ち、神々と人間どもに牙を剥いた邪神……という設定でユイーツ神チームと時々小競り合いをしておりました』
「あっ、神の権威を守るために」
『はっ。飽きさせぬように工夫を凝らし、これで五十年ごとにイベントを起こしておりました。そうしたところ、空気を読めぬ異世界召喚者が本気で我を封印しまして』
「あー」
そういうパターンでしたか。
そりゃあいかん。
『まあ、我が封印されていなかったら魔王にやられてたでしょうな』
「あ、不幸中の幸いな」
二人でわっはっはと笑う。
そして立ち話もなんだということで、小さくなって降りてもらうことにした。
フォールンはシュシュシュと縮み、大型犬くらいの大きさになった。
トコトコと食堂までやってくるフォールン。
カトリナがお茶とお茶請けの漬物を出した。
『捧げ物、ありがたし』
器用に触手を使って漬物をつまみ、ポリポリやってる。
『美味』
お茶をずずーっとすすった。
この世界の神様、基本的にフランクなんだよな。
「恐らく、世界の人口が一割くらいまで減っててな」
『エグい』
「なのでユイーツ神が、各種族ごとの交配を可能にした。こういう対策をしないとワールディアの減少した人口が戻らないまま滅びるという判断だな」
『うわあ……我も悪役やってる場合ではありませんな』
「そうそう。なので現地を守る神としての役割をやってもらえると……。人口の増加速度的には……百年くらいやっててもらえば割りといい感じまで回復すると思う」
『なるほど……。では久々に我も神に戻りますか』
「フォールンの権能的には?」
『得意分野は気温の操作ですな。我の管轄地は厳しい環境故、人間どもが生存しやすいように温泉を発生させたりするとしますかな』
「いいねそれ。今度入りに行っていい?」
『どうぞどうぞ……』
ということで、北方の神フォールンと友誼を結ぶことに成功したのだ。
フォールンは後からやってきたビンとガラドンに挨拶をした後、また飛び立っていった。
浮かび上がるとまた元の大きさに戻り、雨雲を断ち割りながら飛び去っていった。
後でユイーツ神に確認してみたところ、元々の彼である豊穣神と同じくらい古い神らしい。
まさか封印されていたことが幸いして生き残ることになるとはなあ。
人生とは分からないものだ。
「あいつが目覚めてすぐ、元々の世界のつもりでちょっと暴れようとしたところにビンがいたわけか」
「そうだよー。いまおおあばれしたらたいへんでしょ!」
「ビンは世界の状況がよくわかっているなあ」
俺は感心してしまった。
自分の考えで動き、世界のために行動を起こしたわけだな。
「でも、ガラドンといっしょにたたかったらなんかわかってくれたよ。かいほうかんでちょっとハッスルしちゃったんだって」
「あー、長いこと封印されてたからだろうな。解放されたらテンション上がっちゃうのはあるある」
しかし、俺が召喚される遥か昔にも召喚された勇者がいたんだなあ。
この世界はもともと、召喚した対象を送還する魔法が存在しなかったから、この世界で人生を全うしたのであろう。
俺はたまたま元の世界に戻る方法を見つけ出したが……。
「そのうち、先代の勇者が残した跡を辿ってみても面白いかもしれないな……」
雨季の収穫が終わったらやることにするのだ。
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