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魔王を倒した元勇者、元の世界には戻れないと今さら言われたので、王国を捨てて好き勝手にスローライフします!  作者: あけちともあき
スローライフ四年目

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第360話 最初のおさらば

 オットーがぶっ倒れた。

 醸造所で酒を作ってる最中だったそうだ。


 ポチーナに子どもが生まれ、顔をくしゃくしゃにして喜んでいたオットーだ。

 ショータを抱っこして、すぐに泣かれて、しかし孫のようだと喜んでいた。


 すぐにブレインがやって来た。

 シャルロッテとカールくんの家で、ベッドに付したオットーを診る。


 顔を上げて、ふむ、と頷いた。


「寿命ですね」


「そんな……」


「オットー!」


 シャルロッテが口元を押さえ、カールくんはだばーっと涙を流した。

 スローライフをしてるんだ。

 それはつまり、人が生まれて人が暮らして、そして人が死んでいくってことである。


 いつかは来るだろうと思っていた。

 オットーは妙にスッキリした顔で、目を開いた。


「寿命ですか」


「寿命ですね」


 ブレインは歯に衣を着せない。

 気遣っても事実は覆らないし、この世界の寿命ってのはあれだ。

 何をどうやってもそこで死ぬ、ということだ。

 命の終わりのことだ。


 なので、オットーは死ぬ。

 多分、今日死ぬ。


「ししょう! ししょうはすごいんでしょ? なんでもできるんでしょ! オットーをたすけて!」


「カールくん、俺は神様みたいなもんになりつつあるが、だからこそ寿命はいじらない。いじっちゃいけないのだ。これは生まれた時に定められた運命だからな。こうやって世界は回ってて、誰かがそれを覆して生きてたら、その分世界に歪みが生まれる。好き勝手で世界を歪めるなんて魔王と一緒だ。いいと思うか?」


「ううっ、そ、それは」


「よくないよな。つまりそういうことだ。オットーとカールくんが一緒にいられる時間は今だけなので、色々お喋りしてやるといい」


「うう……」


「カール坊ちゃま。立派になられた。奥様も、元気になられて……。奥様と、イチロウさんのその先が見られないのは残念ですが……奥様も坊ちゃまも、こうして居場所を見つけられた。私もやりがいのある仕事ができましたし」


 思ったより元気だな。

 凄く喋ってる。


「おう、オットー! 看取りに来たぞ!」


 ブルストがカトリナを連れてやって来た。

 というか、村人がみんなやって来る。


 代わる代わるオットーに声を掛けていっていて、いやあこりゃあ、安心して死ねないな!


 神というのがリアルに存在しているワールディアにおいて、死というのは現代の日本ほど忌避されていない。

 この世での役割を終えて、神様のところに行くってことだからな。


 無神教みたいな感じになると、死ぬと無になるのでそりゃあ死は恐ろしい。

 俺の生きてきた現代世界はそういうところだったんで、ちょいちょい大変だった。


 ニーゲルとポチーナが最後にやって来て、ショータをオットーに見せている。

 オットーはとても嬉しそうに目を細めた。

 すっかりおじいちゃんと孫だな。


「ところでブレイン、どうして寿命だって分かるんだ?」


「魔法によってですね、その方の命数というものを知ることができるんです。オットーさんの命数はゼロです」


「なーるほど……」


 その魔法が使えると、情緒もへったくれもないな!

 そして、みんなに見送られながらオットーは逝ったのである。

 享年七十歳というから、日本だとまだ若いかも知れん。


「墓をどうするかなあ」


 墓地を作り忘れていた。

 オットーが死んだから、どこかに埋めてやらんとな。


 で、この世界は土葬か? 火葬か?

 俺が考え込んでいると、ユイーツ神がにゅっと顔を出した。


『どっちでもいいんですよ。オットーの故郷では土葬ですね。この土地ならすぐに分解されて大地の糧になりますね』


「あ、そうなの! 助かったぜ、サンクス」


『ユイーツ神様!』


『またサボって!』


『あーれー』


 天使たちがユイーツ神を引っ張っていってしまった。

 今度また代わってやるからな……。


 俺はブルストを呼び、墓を掘ることにした。

 掘ってすぐに埋めるので、オットーの死体も持ってきてある。


 棺は使わないのが、オットーの故郷の流儀らしい。

 なるほど、そうすると早く土に還るな。


「オットーの酒はなあ、こだわりってもんがあって旨かった! 俺じゃあ気付かないことを色々こだわっててな。学びも多かったぜ」


「そうかー。オットーは死んだが、あいつの残したものはみんなの中にあるんだな」


「おうよ! みんなそうやって受け継いで行くんだ。俺はオットーの酒を造れるし、カールはオットーから教えられたことを忘れんだろ。それで、ショータはオットーにとって孫みたいなもんだった。ありゃあいい死に方だったぜ」


「そうだな。魔王大戦の時は、そりゃあひどかったからな」


「おうおう。色々引き継ぐ余裕も無いままにガンガン死んでった。ショートが来てくれなかったら、世界は終わってたぜ、本当に。それが寿命まで生きられるようになったんだから、大したもんだ」


 墓穴が完成し、オットーの死体は穴の中に横たえられた。

 村のみんなで集まって、土を被せていく。


 一人が一度ずつ土をかぶせる。

 それがオットーとの最後の別れだ。


 こうして、我が村にやって来た老執事は、村での死に方という新しいものを生み出して去っていった。

 感謝するぜオットー。


「ショート! 別れを告げた後は、みんなで飲んで食って騒ぐって決まってるんだ! 来いよ!」


 ブルストが俺を招く。


「みんなー! 美味しいご飯と、オットーさんが作ったお酒があるから! みんなで騒いで送ってあげよう!」


 カトリナの声で、歓声が上がった。

 そうそう。

 ワールディアは、死者を笑って送り出すのだ。


 最後まで状況が全くわかってなかったらしいマドカが、ご飯と聞いて飛び跳ねた。


「おとたん!! いくよー! ごはんいくよー! おかたーん! まおごはんたべるー!!」


 バタバタ走っていくマドカである。

 うむうむ、こうして世界は新しい世代へと受け継がれていくのだ。


命はこうやって繋がれていくのであります。


comicグラスト21号にて今回ぶん掲載されてます!

コミックスの作業が進んでおります。


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― 新着の感想 ―
[一言] 無宗教のじいちゃんの葬式もこんな感じで挨拶をした後飲み食いしながら語り合ってたなぁ
[一言] だからといっても、やはり別れは寂しい。だから、偲んで飲む。 いいお話でした。
[一言] また、ユイーツ神様・・・ 御付きの天使に、「連行」されてる・・・
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