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魔王を倒した元勇者、元の世界には戻れないと今さら言われたので、王国を捨てて好き勝手にスローライフします!  作者: あけちともあき
スローライフ四年目

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第355話 黄金皇帝、娯楽に揺らぐ

「こ、これはなんですかーっ」


「こりゃあな、トラクタービーム射的と言って、ここしばらくはずっとホットな宇宙船村の娯楽だ。限られた空間で景品を撃つだけでは飽き足らず、ついにこういう広場で遠くにある標的をいかに的確に引き寄せられるかを競うスポーツ・アクティビティになってしまった」


『勇者様ヒット! お見事!!』


 解説をしている店の主人が、拡声装置を使って叫ぶと、ギャラリーがうわーっと沸いた。

 遠くに置いてあった錆びたプレートメイルを、俺がキャッチしたのである。

 ぶびびびび、と放たれたビームは、グニャグニャに曲がりつつプレートメイルをこっちに持ってくる。


「あの距離のプレートメイルに当てるのは流石だなあ」


「俺、あれがやれるまでかなり金使っちゃったからなあ」


 ギャラリーたちもトラクタービーム射的をやり込んでいるので、俺がやったことの難易度がよく分かるのだ。


「どれ……おおっ、難しい!」


 トラクタービームに振り回される黄金皇帝である。

 ギャラリーからは笑いが漏れた。


「おじさん、腰、腰で操作するんだよー!」


「足広げてー! どっしり構えるー!」


「こ、こうか!」


 おお、ギャラリーからのアドバイスを受けて、しっかり構えた黄金皇帝。

 ビームがちょっと安定してきている。


 かくして、黄金皇帝とともにトラクタービーム射的を楽しんだのである。


「これが娯楽ですか……。恐ろしいものがありますな。確かにこれでは、我が国の民は虜になり、誰一人として帰ってこなくなる……」


「黄金帝国の娯楽は素朴だもんなあ」


 歌を歌ったり踊ったり、育てた植物を見せ合ったりである。

 どうしても限られた空間の中で、見知った者たちが行うものだから、発想の幅も限られるし慣れ親しんだ遊びばかりが繰り返されるようになる。


「宇宙船村からは、あまり不健全ではなく、楽しすぎない程度の娯楽を持ち帰って欲しい」


「うむ、余もその必要性を感じました」


 何度も頷く黄金皇帝。

 トラクタービーム射的はとても楽しかったようだが、腰の負担が気になるので早々に切り上げてきたそうだ。


「では次の視察は……ああ、お姉さんと遊べるお店はだめだ」


「ダメなのですか」


「俺はモラル的にダメだし、あそこの女性は接客のプロなのだが、基本的にはこういう貨幣社会に存在してこそなのであまり帝国にはマッチしない……」


「ふむ……そのようなものですか」


 そういうことで、宇宙船村を一巡りする前に鍛冶神に会うのである。

 この神が宇宙船村の長だからな。


『おお、ショート! 健勝なようで何よりだ』


「俺はもう病気にはやられないからなあ。それでな、こっちにいるのが黄金皇帝。俺と同じ世界の千年前から転移してきた国を代々支えてきた御仁だ」


『ほう! 珍しき客よ』


「透き通っている! ま、まさか神……」


「そう。こっちも神」


 こわごわ、鍛冶神と握手する黄金皇帝だった。


『ふむ、この村から何人か連れて行きたいか。構わんぞ。神は人の行いに不干渉だ。望む者がいれば連れて行くがよい』


「ありがとうございます」


 鍛冶神は基本的に寛大である。

 というか、もうこの世界には寛大な神様しか残っていない。

 細かい性格だったり争いを好むようなのは、魔王の計略に絡め取られて滅ぼされたからな。


 寛大……言い換えれば大雑把でのんびり屋である。

 マイペースだったので、魔王の計略が発動しても、まったりそれを眺めていた者たちが生き残っているわけだ。


「じゃあ、移住しそうな連中を選ぶのは俺も手伝おう」


『頼むぞショート。神が手伝ってもいいのだが、神が声を掛けたらみんな本意でなくても従ってしまうからな』


「神々しいのも困りものだよな」


 俺と鍛冶神で、わっはっはと笑い合う。

 黄金皇帝がこの風景を唖然としながら見つめているのだった。


 そういうことで、若者たちが休憩しているところまで来たぞ。


「あっ、勇者様だ」


「今度は何をしに来たんだ」


 毎度毎度、俺が何かやらかしに来ているかのような物言いはやめろ。


「こっちにいるのは黄金帝国の皇帝なのだが、帝国とは言っても小さいところで、最近ようやく世界との交流を始めるところなのだ」


 俺が説明を始めると、若者たちは興味を抱いたようである。

 色々質問が飛んでくる。


 黄金皇帝と俺が、一問一答形式で対応していった。


 これから外海に繰り出し、貿易をするということ。

 新しく移住する者が必要であり、できれば現地の者と所帯を持ってほしいということ。

 黄金帝国に無い技術や文化を持って来て、帝国に新しい風を吹かせてほしいことなどが語られた。


 求める人材は明確である。

 

 例えば、船乗りや船大工。商人であってもいい。

 詩人や芸人もいい。

 何もできなくても、新しい土地に根付いて暮らしていこうという者でもいい。


 十名ほどの男女が名乗りを上げたので、黄金皇帝が嬉しそうな顔をした。


「実は宇宙船村の暮らしにもマンネリを感じていて……」


「ああ。結局ここも落ち着いてきちゃうと、普通の暮らしになってさ」


「全くモテませんでした……!!」


「私の作った歌を披露できるの? 行くわ」


 色々いる。

 それに十人くらいなら、食料的にもなんとかいけそうらしい。


「よし。諸君を黄金帝国に連れて行こう……。行くぞ!」


 若者たちに円陣を組ませ、俺は黄金皇帝とともにその中心に立った。


「一人……ダンガンバビュン!」


 俺一人でも使えるのである!

 集団移動魔法。

 ただし、速度は馬が散歩するくらいなのでまったりまったり。


 かくして俺は一行を連れて、夕方くらいまでかけて黄金帝国に向かったのであった。


移住者が決まったよ!


comicグラスト19号にて今回ぶん掲載されてます!

コミックスの作業が進んでおります。


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― 新着の感想 ―
[一言] さすが鍛冶神さま、懐がおおきいですね。 魔王が化けた娘の色仕掛けで殺られた過去があるとか、懐が大きいのも考え物ですが w
[一言] 基本的に、望む者、適材適所がよかったりしますね。 不本意な者、どーでもいい者を「強制的」に行かせてもねえ。
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