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魔王を倒した元勇者、元の世界には戻れないと今さら言われたので、王国を捨てて好き勝手にスローライフします!  作者: あけちともあき
スローライフ三年目

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第247話 貴族に話をつける

 さてさて、広報作業は俺がやらねばならんだろう。

 勇者村でも最高の顔の広さと、そして機動力を持つ俺である。


 収穫の時期に俺が村を離れるのはよろしくないので、分身を作ってそれに作業をやらせておく。


「任せたぞ分身」


「任された。存分に宣伝して来るんだぞ本体」


 俺と分身はハイタッチを交わして別れた。

 分身は非常に楽なのだが、問題が一つある。

 あまり長く分身を出していると、独自の自我を持ち始めてもうひとりの俺になってしまうのである。


 俺よりは弱いのだが、それでも成熟した魔王くらいの強さがあるので、大変危険である。

 俺はあまり遅れずに戻ってきて分身を回収せねばならない。

 危険であろうとも、村の収穫のためには仕方がないのだ。


 手を振って見送る俺の分身は、耳とか目尻が尖っているのですぐ見分けがつく。

 偽ショートである。


 というわけで、一瞬で王都なのだ。

 まず俺は、ドルドルドンの家を訪れた。


 レプラカーンの貴族は、俺を大歓迎してくれた。


「ショート殿!! よくぞお越し下さいましたな! レプラカーン料理をごちそうしましょう! わたくしめどもの料理は、人間にはちょっと量が少ないので、二倍ほど作りますかな。わっはっは!」


「お構いなくだぞ」


 そうは言うものの、貴族が飯を振る舞うというのは向こうの歓待する能力を見せる場でもあるので、ごちそうになっておく。

 レプラカーン料理というのは、保存食などを上手く使ったものである。


 もともとレプラカーンは、遺跡やら古い家屋やら、あるいは大きなお屋敷の地下などに住み着く亜人だ。

 自分たちで保存食を作ったり、気づかれない程度に家の食べ物を失敬したりして暮らしている。

 小さいので少食なのだ。


 そして保存食などを使った料理を主としているので、どこででも暮らしていける。


 塩辛い煮込み料理に、乾パンを浸したものが出た。

 塩分は、煮込みのメインである干し肉から出たものだ。

 無駄がない。


 そして漬物がたくさん。

 取りすぎた塩分を排出するために、きゅうりみたいなのがそのまま出る。


 貴族の食卓と言うにはワイルド!


「それでショート殿、頼みというのは」


「勇者村で祭りを開催することになってな」


「ほう!! 勇者村で!!」


 ドルドルドンが文字通り飛び上がった。


「それは素晴らしいことですなあ! 実は王都でも祭りをしようという流れになっておりましてな。古い貴族のお歴々は反対なのですが、わたくしめどもと新しい貴族たちと、そして庶民の間では大盛りあがりなのです」


「うむうむ、いいことだ。新しい祭りをやるしかないもんな。古い祭りはマドレノースがぶっ壊して回ったからな。それでだ。そっちも忙しいとは思うが、こっちに顔を出しに来たりしてくれないか? 他の貴族もな。賑わいが欲しい」


「もちろん、喜んで! そもそも、勇者ショート殿が開催する祭りとも慣れば、神事ですぞ! それこそが祭りの本質! 皆も喜び参加することでしょう! こうしちゃおれぬ。おい、ガオルンに連絡をせよ! 勇者村で祭りが行われるぞ! 我ら新たな貴族でこぞって参加しようではないか!」


 使用人のレプラカーンが、文字通りすっ飛んでいった。

 あのウェアウルフも来るのか!

 楽しみだ。


 しばらく、レプラカーン料理をもりもりやりながらレシピを聞き出し、メモしたりしながら過ごした。

 あまり談笑しなかったな……。


「ショート様がいらっしゃるのかよ! 祭りとあらば参加せねばなるまい!」


 騒がしいのがやって来た。

 一人だけではない。


「おーい! ドルドルドン!! 扉を開けろ! 開けねえと蹴破るぞ!!」


「わっはっは、相変わらず荒々しい男ですな! ショート殿、ガオルンが若手の貴族たちを引き連れてやって来ましたぞ!」


「うむ、すごく元気だな……! あと、扉を蹴破るとか言われてわっはっはで済む辺り心が広いなあ」


「扉が蹴破られるでしょう? すると新しい扉を発注することになりますな」


「おう」


 ドルドルドンはふわふわ浮かびながら、俺を先導する。


「扉には上等な板が必要で、飾りの金具が必要で……つまり、多くの職人の手を通らねばならんのですよ」


「ほうほう。つまりあれか。扉を蹴破られることで、仕事が生まれるわけだな」


「さよう! その通り! さすがはショート殿! かくして経済は周り、仕事と金を手に入れた職人がその金でうまい飯と酒を喰らい、料理屋が潤い、そこにさらに多くの食料が納入されることになる! 何もかも巡っておるのですよ!」


「まだ扉が開かねえのか! オラァッ!!」


 ずどどーんっと音がして、扉が俺たちの目の前を吹っ飛んでいった。

 そこには、足を突き出した大柄なウェアウルフと、若い貴族たちが続いている。


 本当に蹴り破ったな。

 有言実行というやつである。


「ショート様じゃねえか! ああ、殿でいいんだっけ? ここは公じゃねえから、砕けた口調で失礼するけどよ。祭りをやるって本当か! 行く行く! 俺らもみんなで行くぜ!」


「よしよし! 来い来い!」


 俺はガオルンと固い握手を交わした。

 その後ろに並んでいる、若手貴族たちがいる。

 中には伯爵級の者までいるではないか。もちろん、それは人間だ。


 彼はふわふわした金髪の、甘いマスクの男だった。

 物腰が柔らかく、腰が低い。


「いやあ、彼が引っ張っていってくれると本当に楽なんですよ。爵位が高いものは、いざという時に責任を取るのが仕事なんで」


 若き伯爵がニコニコしながら俺と握手する。


「この間のショート様がいらっしゃったパーティで、顔出しをしましたグーシエル伯爵と申します。以後お見知り置きを」


 ハジメーノ王国の若手貴族の派閥の、実質上のリーダーみたいな男らしい。

 亜人貴族たちを取り込み、古い貴族たちに対抗する辺り、かなりの切れ者かも知れない。


 かくして、若き貴族たちの協力を取り付けた。

 資金協力というのは無いので、彼らの領土の人間を労働力として借りることになった。

 さらに、領内から祭りに参加する者を募り、領主が先導してやってくるのだそうだ。


 祭りはかなり賑やかになりそうだ!

これぞ村長外交!


やるじゃん!と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】からスーッと星に色が付いてるやつを増やしていっていただけるとありがたいです

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― 新着の感想 ―
[一言] さすが新興貴族! ノリがいいなあ。 こういう人たちを、種族関係なく募集・採用したから発展しているんだろうなあ。
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