表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王を倒した元勇者、元の世界には戻れないと今さら言われたので、王国を捨てて好き勝手にスローライフします!  作者: あけちともあき
スローライフ三年目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

236/500

第236話 虎人と肉のはなし

「人間の女が一人でイノシシを解体するだと……!?」


 フーはまだ衝撃を受けているな。


「普通だろ」


「いやいや。ドンドン村では、ああいうのは男たちの仕事だった。それにしたって、何人もで取り掛かってたんだ。だけどあいつは一人でやると言ってる。本当にやれるのか!?」


 彼の疑問に、ピアの師匠であるブルストが答える。


「ピアならやれる。いつもやっているからな。もっと小さい子どものうちからやっていたぞ」


「なにーっ!?」


 よく驚くやつだなあ。

 そしてフーが見つめる先で、ピアが豪快かつ見事な手際でイノシシを解体していく。

 毛皮を剥いで、肉と内臓と骨を分け……。


 内臓はアキムがそそくさと壺に詰めて持っていく。

 これは川で洗って、内容物を出したら、刻んで甘辛く煮たりして酒のつまみにするのだ。


 骨は加工して子どもたちのおもちゃにしたりする。

 毛皮はきちんとなめして、手前村で物々交換の材料に使う。


 肉は今日食べるぶんと、保存食に加工するぶんを分ける。


 素晴らしい速度で、ピアの作業が終わった。


「おお……」


 フーが感嘆の声を漏らす。

 そしてピアに歩み寄っていった。


「おい、お前!」


「ん? なにー?」


 汗だくになったピアが顔を上げる。

 すると、フーは彼女と同じ頭の高さまでしゃがみこんでから、こう言った。


「俺の子を産んでくれ!!」


「!?」


 この時、勇者村に衝撃が走る────!!

 ちなみに奥様方は、この突然のプロポーズに、きゃーっと沸く。

 降って湧いた突然の恋バナ。これはエンターテイメントである。


「ほえ?」


「いかん、ピアが何も理解してないぞ」


 俺はフォローに走った。

 師匠であるブルストもだ。


「フー、落ち着け。まだピアは未成年でな……」


「なにっ!? こんなに背丈があるのにか!」


 ブルストが補足する。


「ピアはめちゃくちゃに食うんだ。だから体は大きくなった。しかし、見ての通り、お前さんが何を言ったかピアはよく分かっていない。つまり、その辺りからきちんと教えていかねえといけねえわけだ。分かるだろ?」


「うむ……。俺も文明的な虎人だ。それはよく分かる」


 フーが神妙な顔で頷いた。


「お肉料理する?」


 ピアは何も理解していない顔である。

 これは本当に分かってないな。

 食欲しか頭の中に無いのではないか。


 すぐに奥様たちがやって来て、ピアに「やるわねー」とか「でも相手のことをちゃんと知らないとねー」とか言いながら、お肉と一緒に彼女を連れて行ってしまった。


「……そのへんの教育はあいつらがやってくれるだろ。おい、虎人のフーとやら。とりあえず突然プロポーズしたことについては、別に問題はねえ」


 ブルスト、語る……!

 そう言えば、俺がカトリナと一線越えた時も、実に落ち着いた感じで受け入れてくれたもんな。

 器の大きい男だ。


「成人まで待て。あと一年だ。それから、ピアの気持ちもあるからな」


 ピアがヒトに興味を抱くようになってくれれば……!!

 フーは重々しく頷いた。


「おう。俺も進歩的な虎人だ。待ってやるさ」


 やたらと文明的とか進歩的とか強調するな。


「勇者様、息子は虎人ということで、人を食うのではないかと恐れられた経験があってですな」


「ははあ、肉食獣系の獣人だもんなあ……」


 そういう意味では、虎人で良かった。

 草食獣系の獣人だと、ピアが食材と勘違いしてしまうかも知れない。

 正しい意味で肉食系女子だからな、あの子は。


 しばらくすると、台所から猛烈に美味そうな匂いが漂ってきた。

 捌きたての肉を、新鮮なまま料理する。

 ちょっと寝かせて熟成させてもいいんだが、捌きたては捌きたてでめちゃくちゃに美味いんだよな。


「くう、まさか焼きたての肉を食える機会があるなんて……!」


 虎人の父親のグーが、よだれを抑えきれない様子である。

 フーも目が血走っている。


「肉……肉……!」


 凄く肉食獣っぽい。

 文明的な虎人……?


 肉食獣系の村人は初めてだから、かなり新鮮だな!

 その後、焼かれた肉の山と、パン盛り合わせが出てきた。


 グーが畑からキャベツを持ってきたので、これをザクザクと刻んで付け合せにする。


「うおおおおお新鮮なキャベツだああああ」


「ショートさんのテンションが上ってる!」


「なんでこんな葉っぱでテンションが上ってるんだ……」


 フックとアキムが俺を見て首を傾げている。

 君たちにはまだわかるまい。


 葉物野菜があるということは、無限の可能性が生まれたということなのだよ!

 サラダにしてよし、炒めてよし、蒸してよし、漬物にしてよし……。

 今から楽しみである。


 虎人たちは、雄叫びをあげながら肉にかぶりつく。

 じっとそれを見ていた、ビンやマドカやサーラ。

 真似をして「わおー」「おーん!」とか叫んでから肉を食べ始めた。


 それは別に作法ではないぞ……!

 それはそれとして、俺もキャベツが嬉しいので、パンを切断してキャベツと肉を挟んでガツガツ食う。

 溢れ出る肉汁!

 しゃきしゃきした歯ごたえ!

 炭水化物!!


「うまいうまい」


「その食べ方美味しそう!! 私もやる!」


 カトリナがすぐに食いついてきて、俺の真似をして食べ始めた。


「その食べ方美味しそう! うちもやる!!」


 ピアが真似をして食べ始める。

 この娘、完全に食欲に意識を支配されていて、さっき蛮族めいたプロポーズをされたことを完全に忘れているな……!?

 まあいい。

 今は肉だ!


 惚れた腫れただのの騒ぎは、腹が膨れてから考えればいいのだ……!

大変ストレートな求婚である


やるじゃん!と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】からスーッと星に色が付いてるやつを増やしていっていただけるとありがたいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最低でも、小学生高学年に見られた!?
[一言] よく考えなくてもピアって農村……と言うか田舎の嫁さんって考えると凄い優良物件よね……先祖からの知識と経験を尊ぶらしい虎獣人が即プロポーズもむべなるかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ