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魔王を倒した元勇者、元の世界には戻れないと今さら言われたので、王国を捨てて好き勝手にスローライフします!  作者: あけちともあき
スローライフ二年目

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第180話 勇者村へようこそ

 建てかけの家をふわふわと浮かせながら三十分ほど。

 勇者村が見えてきた。


 カールくんとお母さんと執事とメイドだけのこの一行、なんと護衛の兵士すらいない。

 大変危ないじゃないか。

 よくぞここまで無事に来れたものである。


 カイゼルバーン伯爵、あわよくば跡目争いのきっかけになりそうなカールくんが、道中で死んでしまえばいいとか思っているのではあるまいか。


「ここがゆうしゃむらですか!! うわー! な、なんかすごいふんいきです!」


 カールくん、ちょっと難しい言葉を使うが、俺の耳には全部ひらがなに聞こえてくる。

 無理して背伸びしてる感じだな。

 あと、君、魔力とか神気みたいなのを感じ取ってるな?


 やっぱりこの子は才能がある。


「牧歌的なところですね……」


 お母さんのシャルロッテ、必死に言葉を選んでいる。

 ど田舎と言っていいのだぞ?

 貨幣すら流通してないしな。


「うむ。人や家畜が暮らしてる。人が住んでないところに家を作るのは本当に危ないからやめておいた方がいいぞ。勇者村なら、俺や村人が目を光らせているから危険な獣や輩が入ってこれない。安全だ」


「安全……。やはりそれが一番ですよね……! カールが無事に育ってさえくれれば……」


 シャルロッテの一番の願いはそこであろう。

 貴族であるよりも、お母さんである部分が強い人なのだ。

 聞けば、貧乏貴族の生まれだったものの、その美貌からカイゼルバーン伯爵に見初められて第二夫人となって、真っ先に男児を産んだので、未来は明るい!となった矢先にこんなことになってしまったとか。


 伯爵の立場上、正妻の方を重視しないと政治的にまずいからなー。

 あと、話を聞いていると伯爵はシャルロッテを気に入っていたが、正妻が嫉妬して追い出したようじゃないか。

 こわいこわい。刺客とか送って来るんじゃないだろうな? 返り討ちだ。


 村の入口で、ヤギたちがもりもりと草を食べていた。

 勇者村は無限に草が生えるので、彼らにとっては永久機関のビュッフェ状態なのだ。


 そのうちの一匹、大きめの子ヤギが俺に気付いて、「めえ~」と挨拶してきた。


「おー、ガラドン! もりもり食ってるか?」


「めえー」


 近寄ってわしわし撫でる。

 ガラドンがふんふんと鼻息を吹いた。


「ゆうしゃさま! そ、そのヤギは?」


「勇者村ではたくさんの動物が暮らしているんだ。そして動物たちのリーダーはそれぞれ、俺のおともを務められるくらいの強大な力を持っている……。この子ヤギもその一匹だ」


「すごい!!」


 素直に信じて興奮するカールくん。


「しゅおいよねー」


 ビンが同意してくる。

 これ、ビンは相手の言うことに合わせてるんじゃなくて、ちゃんと考えて物を言ってるっぽいので賢い。

 もうすぐ二歳になるくらいの年齢で、こんなに賢いのだ。


「ぱっぷっ、めー」


 マドカがお人形を振り回しながら、必死にガラドンに振り返ろうとしている。

 マドカもそろそろ、動物に興味津々になるお年頃か。

 それでも人形を手放さない辺りはさすがだ。


 ……今めーって言った?

 お父さんとかお母さんとかより先に、めーって?


「何かの弾みだよねー。ヤギさんのことじゃないもんねー」


 カトリナも同じ気持ちだったらしくて、ちょっとマジになってマドカに問いかけている。


「んまー」


 マドカは、なんのことでしょう? みたいな顔をしていた。

 これにはシャルロッテもほっこり。


「動物がたくさんいるということは、直接触れ合えるのですよね。衛生面をちゃんとすれば、カールの情操教育にもよさそう……。あとは学問を学べるところがあれば……」


「ああ、それなら賢者ブレインがいるし、たくさんの意思を持った魔本があるので、王都の最高教育機関よりもこっちの方が知識量的には上だぞ」


 シャルロッテが目を丸くした。


「あとは最新の知見を取り入れて、魔本は日々ページを増やしている。過去の記述は過去の記述で、残しておく価値があるのだそうだ。新しい知識が間違っている可能性もあるからな」


「勇者村とは……凄いところなのですね」


「良かったですねえ、奥様!」


 執事のオットーは嬉しそうである。

 彼はいい年のおじいちゃんで、引退していたのだが、カールくんとシャルロッテが辺境に追い出されたので心配になってついてきたのである。


「自然の中で運動できるのもいいですよね」


 そういう、ワン族メイドのポチーナは、異種族嫌いな正妻によって体よく追い出されたらしい。

 伯爵は獣人大好きだったらしいので、カイゼルバーンの当主はなかなか業が深いぞ。

 会ってみたい。


 勇者村に入ると、俺が家をぷかぷか浮かせてきたので、なんだなんだとみんな集まってきた。

 シャルロッテは、思った以上に人がいたので、驚いている。


「今度うちの村に住むことになる一家だ。カールくんとシャルロッテと、執事のオットーとメイドのポチーナ。よろしくな」


「よろしくおねがいします!!」


 カールくんがビシッと頭を下げた。

 俺の村なので、敬意を払っているようだ。

 だが、さっきビンに対してやったのはいただけないな。気持ちがささくれていたとは言え、基本的には相手に敬意を払うものだ。


 いや、俺が言えた義理ではないがな……!

 住民たちがめいめい挨拶を返し、シャルロッテも馬車から降りてきて、彼らに挨拶をして回った。


 その間に、俺は去年の初めに芋畑だった場所に家を下ろす。

 この辺はもう使わなくなったのだよな。


 ここを、カールくんの家とする!


「じゃあ大工の人たち、ここで仕事をしてくれ。お茶と飯は出すからさ」


「マジっすか」


 安心して作業できて、休憩もできる環境ということで、大工たちは盛り上がる。


「お? なんだなんだ、家を建ててるのか。しかも大人数でか」


 トンカントンカン、槌打つ響きを耳にしてブルストが顔を出した。

 彼と、大工たちの目が合う。


 そしてどちらともなく、「おおーっ!!」と叫ぶのである。


「お前ら! 元気だったか!」


「ブルストじゃねえか! ここにいたのかあ!!」


 知り合いか!

 世界は狭いなあ。



 

大工さんはブルストの知り合いであったのだ。


やるじゃん!と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】からスーッと星に色が付いてるやつを増やしていっていただけるとありがたいです

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― 新着の感想 ―
[一言] うわあ… こりゃ、カイゼルバーン公爵家は、人材流出がおこるかな?
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