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魔王を倒した元勇者、元の世界には戻れないと今さら言われたので、王国を捨てて好き勝手にスローライフします!  作者: あけちともあき
スローライフ二年目

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第166話 脱穀とマドカの機動力

 干し終わった長粒種の稲束を倉庫に運ぶ。

 ここでもろもろの作業を行っていくのだ。


 米の他に麦も束ねて置いてある。

 まとめて脱穀していかないとな。


 乾季の終わり頃、勇者村の収穫が大体終わる。

 丘ヤシやサボテンガーの油は、一年を通して収穫できるのであれは除外。


 集めた収穫で倉庫がいっぱいになり、次々に処理していかなければいけなくなる。

 大忙しだ。

 村人総出で、朝から晩まで仕事をする。


 ちなみにローテーションで仕事をする。


「今年は乾季のうちに仕事が終えられてよかったですね。火を焚いて乾燥させる必要がありませんから」


 千歯扱きを使って、ばりばり種籾を稲から削ぎ落とすクロロック。

 確かに彼の言う通りだ。


「そうだなあ。去年の麦は、中途半端な時期に収穫したもんな」


 勇者村は、雨季が大体五ヶ月くらい。

 乾季が八ヶ月くらい。


 マドカが乾季の始まりころに生まれた。

 もう八ヶ月かあ。

 ハイハイしまくるようになるはずだ。


 赤ちゃんの成長は早いし、時が経つのも早い。

 ニートだった頃も一日が早かったがな。

 勇者として魔王軍と戦っていた頃も一日が早かった。


 ……俺の人生、光の速度で時間が過ぎていっているな?

 作業をしながら感慨にふけっていたら、倉庫の入り口からホロホロ言う声が聞こえてきた。

 トリマルたちである。


 作業している様子を、倉庫で覗いている。

 ホロロッホー鳥が入ってきてしまうと、せっかくの籾を食べられてしまうので一大事だ。


 ピアが立ち上がり、鳥たちを誘導に行った。

 雨季ともなれば、あちこちで生命が芽吹く。

 ホロロッホー鳥にとっても恵みの季節なので、田んぼがなくなっても困ることはないのだ。


「あれ、マドカちゃん!」


 ピアが素っ頓狂な声をあげた。

 なにっ、マドカだって!?


 マドカはカトリナに預けていたはずだが……。

 俺も立ち上がり、ホロロッホー鳥の群れを見に行った。

 すると、トリマルの上にマドカが乗っており、これを近くからカトリナが眺めている。


 他に、ミーとスーリヤがおり、サーラはアリたろうの上に、ルアブとビンは歩いている。


「なんだなんだ」


「マドカがね、お外に出たいって言ったの。雨季が近づいて、曇り空も増えてきたでしょ。今日は日差しが弱いから、外に行こうかなと思って」


「なるほどー。それはいいんじゃないか。あ、それでビンとルアブとサーラも一緒なのか」


「ちょーと!」


「ビン!」


 ビンが駆け寄ってきたので、俺はしゃがんで彼のハイタッチを受け止めた。


「おやまれね、まろかのハイハイ、みるの」


「ほう、ビンも気付いたか。マドカはハイハイができるようになったからな」


「うんうん。すおいねーすおいねー」


「はっはっは、ありがとうビン」


 ビンをわしわし撫でて、ほっぺをむにむにした。

 勇者村で最初の超人的赤ちゃんであるビンだが、その性格はご覧の通り温厚で、ひと様の成功を素直に喜べる優しい男である。

 一般人代表たるフックとミーも、普通の子どもとして育てているらしい。


 あの夫婦の教育がいいんだろうな。

 ビンに、自分が特別だと思わせない育て方をしているというか。


 そんなことを呟いたら、カトリナが笑った。


「それはねえ、近くにザ・トクベツ!っていう感じなショートがいるからだと思うよ? それに、子どもは村のみんなで育てるもの。他の人がどういう人なのかなって分かれば、すごい力を持ってたって乱暴な子には育たないよー」


「想像力ってやつか! なるほどなあ。でも俺はそれほどではない……」


 俺が謙遜すると、ギャグだと思ったようで、奥様方が爆笑した。

 ちょうど俺の作業シフトが終わりの時間だったので、抜けて奥様方と丘に行くことにした。


 いつだったか、田んぼを見下ろしながらマドカと遊んだ丘だ。

 ここで、マドカがトリマルの背中から解放される!


「んま!!」


 マドカが元気よく叫んだ。

 これからハイハイします! という宣言であろう。


 彼女の腕が、力強く地面を掴む。

 ぐっと持ち上がる上体。

 堂々たるハイハイの態勢になった。


 聞けば、ハイハイする時期というのはほんの一ヶ月から二ヶ月くらいらしい。

 貴重な時間である。


 掴まり立ちしようとするくらい、パワーに満ち溢れたマドカのことだ。

 すぐに立ち上がり、スタスタ歩いてしまうだろう。


「まっまっまっまっ」


 もりもり進んでいくマドカ。

 かなりの機動力だ!

 ビンがトテトテと後を追いかけていく。

 サーラはかなり安定してきた足取りで、よちよちついていく。


「まろか、すおいねー」


「まーお!」


 ビンの呼びかけに、サーラも真似してマドカの名前を口にした。

 おお、発音がちゃんとしてきている。


「サーラも最近よく喋る?」


「ええ。うちではずーっと、ぺちゃくちゃお喋りしてますよ。人見知りな子だったけど、この村にいると、同年代の子といつも触れ合うし、お兄さんお姉さんがたくさんいるから刺激になるみたいです」


 スーリヤは嬉しそうに、娘の成長を見守っているのだ。

 そしてマドカ。

 ビンとサーラを従えて、もりもりと丘の頂上付近を周回する。


 右回りの回転なのだが、彼女が転げ落ちないように、近くをトリマルが走っている。

 トリマルは、勇者村赤ちゃん軍団の兄貴分だ。

 ビンもサーラも、あとはルアブも、トリマルには一目置いている。


 勇者村四天王筆頭でもあることだしな。

 人間が筆頭じゃなくて、ホロロッホー鳥が筆頭という。


「めえ~」


 おや、ヤギの鳴き声が聞こえてきた。

 九頭のヤギが、赤ちゃんたちに気付いて近寄ってくる。

 草をもりもり食っていたようだ。


 籾を取った後の稲や麦は彼らの飼料になるので、最近はたくさん食べられて、お母さんヤギたちはまるまる太ってきている。

 幸せ太りだ。


 ヤギたちの中から、ガラドンが抜け出してきてトリマルに挨拶をした。

 めえめえ、ホロホロ、と会話をしている。

 ビンが駆け寄って、彼らに混じってお喋りを始めた。


 ハイハイして突き進むマドカを、サーラが一人で追いかける形になる。


「まおー」


 サーラが呼ぶと、マドカが振り返った。


「んま!」


 サーラがおいつき、ぺたんと腰を下ろして、二人で赤ちゃん語でぺちゃぺちゃお喋りを始めた。

 あれは何を話してるんだろうなあ。

 いつになっても、赤ちゃん語だけは分からん。


 ちなみに今では、ビンも赤ちゃん語を理解できなくなったそうだ。

 カトリナとスーリヤが、子どもたちの元に向かっていく。


 平和そのものの光景である。


 勇者村、本日は薄曇り。

 気温は少しだけ下がってきていて、空気が湿っているのを感じる。


 もうすぐ雨が、雨季が来る。



勇者村の日常のお話。

みんなちょっとずつ成長していっている。


やるじゃん!と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】からスーッと星に色が付いてるやつを増やしていっていただけるとありがたいです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 赤ちゃん達を見る目が優しくていい。かつて自分も母親仲間の会で多くの小さい子がわちゃわちゃ遊んでるのを眺める機会があったけどそれを思い出してちょっと泣ける。 勿論神様パワーの動物はいませんで…
[一言] ビンが、すでに意思疎通可能になってるし… そういえば、普通にお使いしていたな…
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