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魔王を倒した元勇者、元の世界には戻れないと今さら言われたので、王国を捨てて好き勝手にスローライフします!  作者: あけちともあき
スローライフ二年目

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第164話 短粒種も刈り取りする

 雨季が来る前に、短粒種の米も見事な金色に実った。

 さあ、刈り取りの始まりだ。


 長粒種で、作業の要領は掴んだらしい村の仲間たち。

 刈り取りの歌など歌いながら、もりもりと作業は進行していく。


 稲の見た目は、長いのも短いのもそんなに変わらない気がする。

 なのに、食味がぜんぜん違うのは面白いな。


「しかし、本当にお米ってたくさん成るんだなあ……」


 フックが感心して呟く。

 フックとミーが暮らしていた村では、コーリャンを食べていたので、お米との馴染みは薄い。


 麦はちょっと作っていたから分かるけれど、お米は初めて。

 実が成る密度が全く違うもんなあ。


「同じ作付面積で、麦の五倍から十倍くらいお米は穫れるのだ。その代わり、たっぷりとした水が必要になるからな。だから川から水を引いて水田を作ってた」


「なるほどだなあ。これは凄い作物ですよ。ショートさんが目をつけるのも分かる」


「米をちゃんと収穫しておけば、何かあっても飢えることは無いからな。こうしてコツコツ刈り取りすることが、村の未来のためになる」


 俺の話に、フックがちょっと感動しているようだった。

 そして気合の声をあげて、もりもりと刈り取りをしていく。

 やる気になってくれたなら何よりである。


「お茶の時間だよー」


 パメラの声がした。

 彼女が、お茶のたっぷり入った樽を抱えてやって来る。

 そうそう、パメラのお腹も目立つようになって来た。


 雨季の中頃で生まれるかなー。


「おう、おつかれ。重いものなんか持たなくていいんだぜ?」


「大丈夫。あたしミノタウロスなんだから、パワーは自慢だよ! お腹の赤ちゃんとお茶の樽、両方持ってもまだまだ余裕さ!」


 ブルストとパメラが微笑ましい会話をしている。

 今回のお茶入れは、パメラが一人で頑張った。


 リタ、ピア、アムトの三人が刈り取り要員になっているからである。

 俺が調子に乗って田を広げたので、短粒種の量が長粒種よりちょっと多い。

 なので頭数が必要だったというわけだ。


「めえめえ」


「あ、いかん、ヤギ軍団がやって来た。田んぼに降りてきたら刈り取った稲を食べちゃうぞ。ピア、出動だ!」


「はーい!」


 勇者村動物軍団の長、ピアが出撃した。

 ヤギたちの前に躍り出ると、ぴいーっと指笛を吹く。

 すると、麦畑の方からホロホロとホロロッホー鳥軍団がやって来た。


 ヤギは鳥たちを見て、彼らの向かう方向に移動することにしたらしい。

 ピアに率いられ、動物の群れが動いていく。


 ちなみにアリたろうはこれに加わらず、マドカとサーラの相手をしている。

 報酬として、果実と肉のペーストを後で作ってやる予定だ。

 アリクイには歯がないので、何かを食べるにはペーストにしてやらないといけないからな。


 ビンはというと、真面目な顔をして稲の刈り取りを見ている。

 これは、来年には戦力に加わるつもりだな?

 来年は二歳のはずだが、二歳にしてお米の刈り取りをしようとは見上げた心がけだ。


「ビンがみてら。おういビン! 父ちゃんと母ちゃんのかっこいいとこ見とけよ!」


「あーい!」


 ビンが元気な返事をしたので、刈り取りをしていた村人みんなが笑顔になった。


 本日は昼になり、空に雲が掛かってきた。

 いつもなら日差しを避けるため、昼からの作業はしないのだが……。


 ちょっとだけ長めに仕事をすることにする。

 カトリナ、ミー、スーリヤの奥さん三人衆が台所に行き、食事の用意を始める。


 男衆は作業続行である。

 刈り取れ刈り取れ。

 一束でも多く刈り取るのだ。


 作業をしながら、収穫するための機械が開発される理由も分かるなあと思うのである。

 これは確かに、手作業でやっていくのはなかなかの重労働だ。


 だが、スローライフとはそもそも肉体を使った重労働である。

 楽をする活動には、体を使う以外のコストが発生する。

 そのコストを維持するためには、複雑な社会構造が必要になる。


 それに、楽をしたら人手がいらなくなってしまうのだ。

 それでは困る。


 俺は日本で、少人数でできるほどに自動化されたがため、働けるギリギリの年齢まで二人きりで仕事をしている農家のおじいちゃんおばあちゃんを知っている。

 自分が仕事できる限界というものが分からなくなってしまうからな。

 あれはあれで素晴らしい発明だが、勇者村は体を使って働くということを重視してやっていくつもりである。


 何より、頭数を揃えて体を使って働くやり方は、次の世代に継承していけるからな。

 持続性がある。


 俺はいつか、この村を去るだろう。

 色々断っちゃいるが、多分ワールディアの神様になるんじゃないかなーと思っている。

 そうなっても、勇者村がずっと続いていくために、楽をしないでコツコツやっていく方法を根付かせたい。


 周りで働く仲間たちを見ると、それが着実に浸透しているのが感じられた。

 うむうむ……。


 あとは、人口も増やしていかないとな。

 そろそろフックとミー夫妻に二人目できるんじゃないの。


 そんなことを考えていたら、太陽が顔を出した。

 大変暑くなる。


「あちち!」


「うわー、もう無理だ」


 俺たちみんなで、わーっと日陰に飛び込む。

 道具はまとめて一箇所に。

 夕方に手入れして、また明日使う。


 本日の仕事は終わり!

 こんなカンカン照りの下で仕事なんかできるか!

 いらぬ苦労はしない方がいいのだ!


「お疲れ様ー! ご飯もうすぐできるからね! 冷やしお粥!」


 カトリナの言葉で、男たちがうわーっと盛り上がる。

 蒸留した水を冷ましたものに出汁を加えて、ふやかした麦に干し肉などを加えたものである。


 暑い時にはこれがピッタリ。

 勇者村近辺に自生しているハーブで辛味を付けて、がつがつ掻き込むのだ。


「もがー」


 赤ちゃん二人を乗せたアリたろうがやって来て、報酬を要求してきた。

 よし、さっさと飯を平らげて、ペーストを用意してやろうな。


 稲刈り前線異常なし。

 明日には短粒種も全部終わりだ。


 乾季はじきに終わり、そして雨季がやって来るのである。

 

刈り取り編その2ですぞ!


やるじゃん!と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】からスーッと星に色が付いてるやつを増やしていっていただけるとありがたいです

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 餅米はないの? [一言] 農作業は 機械化されても手間がかかる重労働
[一言] ていうか… この村が「神有村」と化しているのでは?
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