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お届け便  作者: フクフク
本編
7/23

7




 昨日のフラグを回収することはなく、北の湖付近についた。

 めぼしいものは、胡椒の実を見つけたことだ。大量に摘み、袋へ入れる。帰宅したら、魔樹にお願いして、すり鉢を作ってもらおう。魔樹への依存率の高さがわかる。

 うん? 少し先にある湖畔に近づく、複数の生物の気配を察知する。身を隠しやすい大きな木に登り、息をひそめた。

 しばらくすると、灰色の集団が、姿を現した。

 鑑定が可能な距離のため、情報を入手する。

 チーウルフ、狼の一種で、魔物。知能が高く、群れで行動する。灰色の毛が特徴。

 1匹、集団の中で、明らかに毛色がちがうのがいる。白銀の毛をしたチーウルフが、仲間割れをしたのか、追いつめられていた。キャンキャンと、鳴きながら、必死になにかを訴えているようだ。

 一触即発な雰囲気に、これは困ったなと、頭をかいた。日没の時間を考えれば、そろそろ戻らないといけない。胡椒に時間をかけ過ぎたことを悔やみつつ、灰色集団の様子を木の上からみることにする。


 ありゃりゃ、ボコボコじゃないか。

 リンゴを齧りながら、チーウルフたちの争いを見物していた。

 白銀1匹に灰色6匹は、避けようがない。どう見てもふりだ。まあ、健闘はしているが……。これはそろそろ決着か?

 一方的な展開に同情はするが、これも運命。これが弱肉強食の世界だと思う。

 食事をしないと、精神負荷がかかるのも一理。この世界のルールなのだからしかたない。

 次の果物を食べようと、袋に手を入れ、物色する。

 少し小さい形に、木苺かと確認もせずに口へ運んだ。ガリッと、噛み砕いた音に、あーっ、お決まりのパターンねと、思った。

 口に入れたのは、翻訳の玉だった。

 先ほどまでの鳴き声が、日本語に翻訳されて聞こえる。聞きたくなくて、耳をふさぐが、聞きなれた懐かしい語音に、つい耳が傾く。

 ほんと、この場面で、翻訳されるなんて、鬼かっ! とも思う。

 白銀が「おれじゃないっ。おれはしらない。どうしてっ」と、ボロボロの身体で訴えていた。後ろ足を引きずっている姿は、かなり痛々しい。

 チーウルフたちの中でも、一際大きな体格をした灰色が「うるせぇ。そんなこと、どーでもいいんだ。おまえさえ、消えれば、次のボスはオレだ! 弱っちぃくせに生意気なんだよっ! ぎんの毛が、なんだ! ボスもおかしいぜぇ。なぁ、みんな!」と言えば、他の灰色たちが、それに賛同する。「まさか罠にはめたのかっ……」と、白銀がお決まりの言葉を発する。

「さあ、オレはしらないなぁ」大きな灰色のその言葉が合図だったのだろう、白銀にむけて、いっせいに攻撃がはじまった。

 その前からボロボロだった白銀は、ほぼ抵抗もなく、やられていく。


「……」

「死にたくないっ。だれか助けてっ!!」


 あー。もう、はい。助けますよ!

 チーウルフの集団の中に、弓矢を数発放つ。 

 バシバシッ。バシッ――。


「弓矢? 人間が魔の森にいる! どこにいる! 探せ!」


 大きな灰色が、他の灰色たちに指示をだす。警戒心マックスのチーウルフたちが、付近の捜索をはじめた。

 さすが魔物。俺の弓の腕では、身体にかすりもしない。ガッツリ狙ったのに……。

 自信があったぶん、地味にへこむ。今度、魔樹に練習用の的を用意してもらおう。

 さてさて、次こそ本命。

 袋に手を突っ込み、白い玉を取り出す。袋への信頼が揺らいだので、念のため鑑定で確認する。

 よし! まちがいない! あとはタイミングだ。

 木の上でチーウルフの行動を観察し、その時を待つ。

 チーウルフたちは、慎重に少しずつ、捜索の範囲を広げていく。俺がいる木のそばにも、チーウルフたちの捜索がはいり、緊張が走る。

 見つかれば、木の上をつたって逃走だ。悪いな白銀。時には苦しい決断が必要な時があると、気障にきめていたが、チーウルフたちは、あっさりと俺のそばを離れていった。

 あいつら、魔物で狼だよな。危機管理能力、気配察知は……。もう少し時間をかけようぜ。遠ざかっていく灰色を背にいらぬ心配をした。


 チーウルフたちの焦りがみえはじめた。いるはずの人間が、自分たちの捜索に引っ掛らない。捜索範囲が広がっていく中で、捜索中も1匹で白銀を痛め続けていた大きな灰色が、とうとう動き出した。

 白銀との一定の間隔を確認し、白い玉を大きな灰色へ投げつける。

 辺り一面に、白煙が舞い上がった。


「なんだっ。前がみえない。臭い! 臭い! 鼻がきかないっ」


 だろうよ。なんせ苦労して合成した俺お手製の煙玉だ。

 白煙はもちろん、強力な刺激臭で鼻が利かなくなるのだ。強敵にであった時の逃亡用に所持していたのだ。

 ただ刺激臭対策をしている俺でも、鼻が歪みそうだ。これは改良の余地があるな……。

 チーウルフたちの混乱をよそに、白煙の中、白銀に近づく。その痛々しい姿に「遅くなってわるいっ」と、そっと胴体に手を入れる。傷ついた身体に負担はかけたくないが、この場合はしかたない。


「だれだ……。おまえっ……」

「助けてやるから、静かにしろ」


 ほぼ無意識に近い状態で、白銀が俺を威嚇する。

 その気の強さ、気に入った! 絶対に助けてやろう!

 意識をなくした白銀を担ぎ上げ、その場所を離れる。そろそろ煙玉の効果が消える頃だ。

 白銀が予想よりもはるかに重く、思ったより距離を稼げなかった。

 徐々に白煙がはれ、俺たちの姿がチーウルフたちに見つかる。


「いた! あそこだ! なぜ気配を感じれなかった! 殺せ!」


 げっ。見つかった。

 チーウルフたちが、すごい早さで追いかけてくる。

 やはりそうなる展開なのかー。くそっ!

 俺は渾身の力をだし、全速力で逃げるのだった。






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