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お届け便  作者: フクフク
本編
6/23

6




「今日も一日、ありがとうな」と、魔樹に声をかけながら、注ぎ口が歪んだ木のジョウロで水をやる。

 このジョウロは、魔樹がプレゼントしてくれたものだ。

 朝起きると、机の上にジョウロがあった。

 なぜジョウロ?

 疑問が頭に浮かぶが、すぐ答えにつながる。

 昨晩「そろそろ水やりをやめるか」と、つぶやいたのを魔樹が、拾ったのだろう。俺のひとり言は、すべて筒抜けのようだ。

 焦って作ったのか、注ぎ口がやや斜めっていて、底も若干傾いており、全体的に雑な仕上がりとなっていた。魔樹の動揺がみえた。

「おまえ、捨てられるとでも思ったのか。あはっはははーー」と、大笑いをあげる。

 水を自己供給できる魔樹に、瓶1本分の水は、ほぼ意味のない行為だと認識していた。俺の自己満足にすぎないので、やめるタイミングを考えていた。無意識にそれを口にしただけで、特別な意味はない。それを魔樹が、盛大に勘違いしたっぽい。

 おまえは俺のなんなんだよ。彼女かよ!? リアルすぎてまじ笑える。木のジョウロを片手に、笑いがとまらない。いま魔樹は、おそらく困惑しているんだろう。


 魔樹の盛大な勘違いは、さておき、ここで俺の気持ちを述べておこう。

 快適な暮らしと住居を提供してくれる魔樹に、感謝こそすれ、不満なんてありえない。ましてや捨てるなど、考えられない。

 日本に帰還する時は、一緒にと、経済的に都会は厳しいので、地方に移住するかと、本気で考えているのだ。

 捨てられて困るのは俺のほうだ。この魔樹がいなければ、いまも野ざらしだったことは、容易に想像がつく。

 俺の愛情表現が、不足していたのかと反省する。

 魔樹が俺の水やりを所望しているので、日課として続けることにする。魔樹の俺への献身ぶりからすれば、毎日の水やりぐらい苦ではないし、話し相手がいない俺のストレス解消でもあるのだ。

 早速、外に出て、注ぎ口が歪んだ木のジョウロで水をやる。「万能すぎるおまえを捨てることはないから安心しろ。久々に心の底から笑ったよ」と、声をかけた。ザワザワと、木の葉が揺れていた。


 俺の鑑定レベルが低いので、鑑定では、魔力のある樹木としか情報がでてこない。略して魔樹だ。魔樹が、この世界の素敵植物であることは、間違いない。超万能な魔樹が、なぜ0ポイントだったのかは、いまだにわからない。枯れかけていても、一夜にして幼木となる生命力を考えれば、不思議だ。

 しかも、この魔樹の住居は、日々進化している。

 はじめは、何もない空洞だったが、ベットができ、机、椅子と、ものが増えるにつれ、空洞が大きくなり、部屋の形と成していた。いまではワンルーム家具付きの部屋と遜色ない充実さだ。家具だけとりあげれば、超一級品である。もちろん木の樽、木の皿、スプーン、フォークなどの小物類も魔樹がプレゼントしてくれた。数日時間を要するものもあるが、ほぼ毎日なにかしらのプレゼントが届く。

 ここ最近で一番嬉しかったのは、トイレだ。

 朝起きたら、家具類のレイアウトが変わっていた。よくあることなので気に留めていなかったが、入口とは別に新たにできていた扉には戸惑った。なんだろう? 思いあたることがなかったので、扉を開け、木製のトイレを見た瞬間は、嬉しすぎて、その場にしゃがみこんだ。

 トイレ事情は、察してほしい。深刻に悩んでいた時期だったので、魔樹に何度も感謝を伝えた。

 ちなみに木のトイレは、洋式で、水も流れる。すべてが、木でできているだけで、日本のトイレと変わらない。ただ排泄物が、どこへ消えているのかは謎だ。臭いもないので、この世界だからと、気にしないことにした。

 次はお風呂だと、密かに期待している。



「ごちそうさまでした」と、手を合わせ、美味しかったと感謝する。

 食器類は、あとでかたすとして、今日の成果を机に並べる。

 ウサギの肉と魚、果物に薬草と、代わり映えしない成果に苦笑いがもれる。

 俺自身のレベルも上がってきたので、そろそろ探検場所を移動するかと、頭の中に地図を思い浮かべる。

 住居が充実したいま、さらなる飛躍が必要だ。

「地図オープン」


 大雑把ではあるが、近辺の地図が、表示される。

 丸い円で表示されている場所が安全地帯で、その中心にある赤い点が拠点である『はじまりの場所』だ。

 大体5キロほどの範囲を網羅している。安全地帯の周囲は、森に囲まれており、西に小川、東に岩場、北には湖がある。残念なことに、人里の確認はできなかった。

 地図をみながら、北にある湖を目指すことを検討する。地図ギリギリに表示されている湖から、拠点との距離を割り出し、時間を計算する。いまのレベルと体力、能力、持ち物で問題ないか、慎重に考える。快適なサバイバル生活を送っているが、いつ命を落としてもおかしくない状況なのは、変わらないのだ。危険を冒してでも、行動せねば、日本への帰還など到底できない。夢の夢だ。

 まあ、俺を裏切らず、一生守ってくれる強くて可愛い、癒されるペットみたいな相棒がいれば、もっと探検も楽になるんだけどな。欲しい(・・・)な。なーんてなっ。


『承りました』


 ちょっ、まてっ! いまのは、キャンセル! キャンセルだ!

 慌てて周囲を確認するが、それらしきものは、現れない。しばらく時間を置くが、現れない。

 お届け履歴を確認するも、履歴の一覧にそれらしきものはない。

 なんだ空耳か……。

 どっと疲れがきたため、なにもせず、就寝についた。

 完全なるフラグをたてたまま、静かに眠りについたのだった。






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