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お届け便  作者: フクフク
本編
2/23

2




 朝日の眩しさで、目を覚ます。

 初野宿で、意外と眠れた事実に、少し驚いた。

 大自然の中、いつ寝首をかかれても、おかしくない危険な状態で、無防備に寝ていたのだ。この場所が、安全地帯(セーフエリア)である確証はなく、危険と隣合わせであると、認識しているのにだ。危機管理能力が著しく欠乏している。

 もしかすると、精神系の何かが作用しているのかもしれない。

 ともあれ、帰る手段を考えないと。まずは食料の確保からだな。

 地面から起き上がり、軽く伸びをする。節々が痛いのは、慣れるとして、野宿のわりに体力が消耗していないのが気になる。

 やはりこの場所はなにかありそうだ。


 コロッ――。

 右の手のひらから、白い玉が地面に落ちた。

 これが使用できたら、かなり良い方向にいくと思うんだが……。

 昨晩、試行錯誤を重ねたが、この玉の使用方法は見いだせずにいた。身体に長時間接触する必要もあるかもしれないと、手のひらに握り締めて寝たのだ。結果は見ての通り。

 あとは、飲むしか思い浮かばないが、試す勇気がまだない。

 この玉が今後の糸口だと、確信をしているだけに、もし間違っていた時のことを考えれば、二の足を踏むのも仕方がない。

 玉を飲む後押しが欲しくて、昨晩「この玉と同じものが欲しい(・・・)」と、半信半疑に言ってみた。


『この商品は、ただいま在庫切れです』


 無情な機械音が聞こえた。

 落胆はしたが、希望も見えた。

 ポイントは不足(・・・・・・・)していないのだ。ポイントがまだあることがわかり心底安堵した。

 そして、もう一つ。嬉しいことがあった。

 飲みほしたはずの水が、復活していたのだ。

 水の入った瓶に秘密があるのか、何度か水を減らしてみると、一定時間に元の量まで復活していた。

 使用回数に制限があるかもしれないが、当分の間、水の心配はしなくてすむことがわかり、すごく安心した。

 飲まず食わずに生存できるのは約3日。所謂、72時間の壁だ。水があれば、約1ヶ月は生存できる。最悪の事態だけは避けられた。

 ピザも復活していれば、食料確保で完璧だったが、そう甘くはなかった。

 一応、ピザの箱は潰さず置いている。復活時間が長いだけで、万が一があるかもしれないからだ。

 少し期待して、ピザの箱を開けてみるが、中身は空だった。


「はいはい。わかってました」


 気を取り直して、食べ物系を攻めてみる。

 昨日の段階で、ほぼ結果は見えているが、白い玉の奇跡が起こるかもしれない。


『ポイントが不足しています。チャージして下さい』

『ポイントが不足しています。チャージして下さい』

『ポイントが不足しています。チャージして下さい』

『ポイントが不足しています。チャージして下さい』

『ポイントが不足しています。チャージして下さい』



 ――全滅した。

 すぐに食べれる物を選択したが、お高いようだ。

 ピザは相当高いとみた。

 分かりきった結果だが、地味にへこむ。


「現地調達か……」


 ほぼ確定していた選択肢が、現実味を帯びてきた分、不安は増す。

 身を守るものがない中で、動くのは危険だが、安全地帯に留まっていても、最終的には詰む。

 何らかの行動を起こさなければ、先はない。

 背中を押すように、お腹がギュルギュルと鳴った。

「あははっ。身体は正直だな」と、思わず笑ってしまう。

 空腹を水で満たして誤魔化すのにも限界はある。

 断食で、好転反応が起きるのは、2日。遅くて3日だ。そのあと身体はスッキリとするが、ほぼ体力はないと考えるのが、妥当だ。2日目までには、食料を調達しないといけない。

 よし! 思い立ったら即行動。失敗してもいまは失うものはない。強い気持ちが大事だ。

 まずは、安全地帯の範囲を確認するため、この場所を『はじまりの場所』と名付け、目印にピザの箱を置く。

 目印を見失わないように動きたい。歩きながら、土を削れたら、長い棒のようなものが欲しい(・・・)


『承りました』


 長さが1mほどの太い木の棒が、地面に現れた。 

 意図せず欲しいと思ったものがでてきた驚きと、無駄使いをしたと思う後悔で、一瞬思考が止まった。

 辛うじて身体を動かし、木の棒を拾う。

 思いのほか軽く、堅さもあり、しっかりしている。竹刀のような感じだ。

 木の棒にランクがあるなら、かなり上等なものがでてきたようだ。

 食べ物や生活必需品は高く、武器や能力は安いってことはないよな? いや、その可能性はなきにしもあらず……。

 思い至った可能性に、俺は肩を落とした。

 白い玉の使用方法しか頭になかったので、他の可能性を考えていなかったのだ。

 視野を広げるようにと、散々注意されていたことを思い出し、ガチでへこむ。

 さらに、誰も慰めてくれない現実に、改めて独りであると認識してしまい、悲しくなってきた。

 負の連鎖がはじまり、考えれば考えるほど、情緒不安定になってくる。

 よくよく考えてみれば、あまりにも理不尽な話だ。

 玄関の扉の先が草原で、SF世界お決まりの能力はあるものの、何の説明もなく、帰る方法も不明。

「そろそろ神様みたいな人か、チュートリアルてきなことがあっても、いいだろーー!!」と、叫んでみるが、それに答えてくれる者はいない。

 精神を安定させるものが、切実に欲しい(・・・)


『承りました』


 コロッ――。

 今度は、緑の玉が現れた。

「……っ。玉の使用方法、誰か教えて下さい!」と、青年の泣き叫ぶ声が、草原に響きわたった。






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