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テーブルの上には、昨夜とは一変して、多種類の草や木の実が、広がっていた。調合の基礎セットを使用して、朝早くから調合を試している。
全身の赤みと腫れを治す、治療薬の開発だ。
昨日、どーしてもお風呂に入りたくて、お届け便で、赤みと腫れを治す回復薬を願ったが、無情にも「ポイントが不足――」の機械音が流れた。
微々たる可能性にかけたが、見事に撃沈した。
それでも、なんとしてでも、入浴したい。一ヶ月以上、我慢できたのに、ほんの数日が、なぜ我慢できないのか。普通の感覚なら、そう思うだろう。だが、俺の身になって考えてみれば、簡単にわかることだ。
毎日の入浴が当たり前の世界から、突如、お風呂なしの生活を強いられた。まあ実際、お風呂がないのだから、あきらめがつくし、それよりも生きることに必死で、お風呂どころではなかった。が、しかし、生活が安定して、住居ができ、お風呂ができた。やっと悪臭から解放され、小奇麗になった爽快感は、例えようがないほど、気持ちよかった。それなのに、またあの悪臭生活に戻るのは、絶対にいやなのだ。
それに、この世界にきてから、体臭が強くなった気がしてならない。
俺は、まだ25歳だぞ。はじめて会った人に、あの人体臭きついなんて思われたら、ガチでへこむ。原因の一環を、排除したいと思うのが、人の心理だろ。
また昨日、お風呂用品を調合するために、調合スキルをEからCへ、レベルアップしたのだ。もちろん、お届け便のスキル玉を使用した。1000ポイントの消費は、懐具合としては大変痛かったが、ボディソープの作製に成功したので、満足している。
シャンプー、リンスの製作に手をつけたいが、二人と約束した条件をクリアしないと、お風呂に入浴できないので、お風呂へ入浴できるよう、治療薬の開発を進めることにした。
順番がちがうとの、批判はきかない。俺にとっては、お風呂用品、治療薬、の順番なのだ。
話しを戻す。調合Eで、手の赤みを抑える塗り薬を作製した。これは石鹸擬きを使用したあと、手が赤く腫れあがったからだ。
薬草の知識は皆無だったが、調合スキルと調合の基礎セットのおかげで、塗り薬が完成できた。鑑定した情報では、赤みや腫れを抑える効果があるとされた。実際に塗ると、スーッとした感じで、時間が経つにつれ、赤みや腫れの痛みが緩和される。
ちなみに、調合の基礎セットは、お届け便の素敵アイテムだ。調合スキルと一緒に使用することで、調合の質や熟練度を上げてくれる優れものである。
調合も解体と同じく、調合知識がなくても、作りたいものを頭に浮かべると、必要な素材や工程がわかる。その場で調合が可能なら、勝手に身体が動く。
ただし、熟練度により、作製された品の質が決まる。
質はランクで表示され、初期で作製した塗り薬は、Fランクだったが、何度も調合していくうちに、Eランクの品ができるようになっていた。
調合レベルが、Cとなったいま、調合できる品が増えたのと同時に、調合の質も、ぐーんと上がった可能性があり、効果が期待できる。
ちなみに調合は、失敗もする。
作成可能な品でも、素材の品質や工程手順のタイミングなどで、失敗したりすることが多い。これは熟練度に関係しているのではないかと思う。
作成不可能な品でも、素材や工程が合っていれば、たまに成功したりもする。
翻訳の玉事件のときに活躍した、お手製の煙玉は、たまたま成功したものだ。基礎本の中に、初期の調合のレシピがあり、煙玉の作製方法が記載されていた。それに俺独自で素材をプラスして、調合した結果、お手製の煙玉が完成したのだ。
残念ながら、あの時以来、お手製の煙玉の調合が成功したことはなかったが、おそらくいまの調合レベルなら作製が可能だと思われる。
時間があれば、お手製の煙玉もいくつか所持しておきたいので、調合してみることにする。
朝から調合を繰り返し、やっと最終工程までたどり着いた。
調合に失敗して、無駄にした素材は山のようにある。すべて調合途中で消えたので、どれくらいの量を使用したのかわからない。
けれど、完成すれば、それも無駄ではなかったことになる。
調合皿の上で、それが白く光った。
「できた!」
完成したそれは、調合皿の上で、白い錠剤ような形をしていた。
確認しようと手を伸ばした瞬間、意識を落とした。