18
お風呂から上がった俺の姿に、ベッドにいた白銀が「キャン?」と、心配した様子で、かけよってくる。
上機嫌な俺は「ん? どうした?」と、白銀の頭をなで、お風呂からずっといる魔樹のツルに向けて「お風呂、最高だった!」と、親指を立てた。
それを見た白銀が「キャン、キャン」と、なにやら魔樹に抗議している。魔樹のツルが、文字パネルで「ムネン」と示し、白銀に訴えていた。
なんだ? ムネンって? と、二人のやりとりを尻目に、椅子に腰をかけた。
「っ……」と、痛みが全身にくる。服が皮膚に擦れただけで、ヒリヒリとした痛みがあるが、まだ我慢できる。上の服を着ないで、正解だった。
俺の上半身、顔を含め、全身が真っ赤に腫れあがっていた。
原因である石鹸擬きを片手に、水酸化ナトリウムの成分が、強すぎるのだと思う。服を洗う時にも、手が赤くなっていたので、直接肌に使えばこうなることは、わかっていた。だが、後悔はしていない。
調合のレベルを上げる前に、袋から、塗り薬をだして、上半身にすり込む。これで、赤みは抑えられるだろう。
「おっふろ、おっふろ、おっふろ……ん?」
俺が上機嫌で、お風呂場に足を向けると、白銀が俺の服を咥えていた。
「どうした? おまえも一緒に入りたいのか?」
的外れな俺の質問に、首を横に振りながらも、咥えた服は放さない。
ふと前をみると、お風呂場への入口である木の扉を魔樹のツルが、覆い隠していた。
「おまえら、なにがしたいんだ?」
俺の声に魔樹が、文字パネルを持ちだし「バツ」と答えた。
「お風呂に入るなと?」
「キャン「マル」」
「えっ、やだよ」
「アカ」
「あか? あー、肌が荒れたことか?」
「マル」
「これはお風呂が悪いんじゃなくて、身体に使用した石鹸が悪かったんだ。ほらこれ、赤くならない石鹸だ。ボディソープって言うんだけどな。これで毎日身体を洗えば、清潔になるし、病気とかの感染予防にもなる」
「キャン「バツ」」
「なんで!?」
「アカ」
「だから、赤くなったのは、石鹸の成分が強すぎて……。思い出してみろ。服を洗った時も、手が赤くなっていただろ?」
「……バツ」
「いま一瞬、心あたりがあっただろう! わかったよ。今日は石鹸を使わない。だけど、お風呂には入る!」
「キャン「バツ」」
「なんでだよっ! まさかっ! おまえら、お風呂を壊したら、嫌いになるからなっ!」
「……」
その手があったかと、魔樹のツルがウネウネと活発に動きだす。
「おいまてっ! まてまてっ! 話し合おう。ここはお互い、話し合いが必要だ」
「……マル」
魔樹の回答を確認してから、調合していたテーブルへと足を運ぶ。
後ろにいる白銀が、俺の動向をちくいち確認しているが、抜けかけしてまで、お風呂には入らない。
入るなら気持ちよく入りたい。
色んな素材が、グチャグチャしているテーブルの前に座り、一番大事なことの釘をさす。
「まずお風呂は壊すなよ」
「マル」
「よし。じゃ、おまえらが誤解していることからだ。俺の全身が赤く腫れているのが、気になったんだろ」
「キャン「マル」」
「それが、お風呂に入ったせいだと」
「キャン「マル」」
「それは誤解だ」
「キャン「バツ」」
「心配してくれたのは嬉しいが、まずは俺の話を聞け」
「キャン「マル」」
「これは――」
今日丸一日かけて製作したボディソープをみせ、いかに石鹸擬きと、ちがうのか。
お風呂に入ることが、どれだけ大事で、俺にとって楽しみであるかを熱意をもって語った。
実際に泡立てて、白銀の片足を洗ってみた。洗った白銀の足の毛に艶がでたのを確認させ、痛くないだろうと納得させる。
お風呂に関しても、身体に悪い物質が含まれていたら、最初に影響を受けるのは魔樹だろうと説得する。
結果、二人は納得してくれたが、身体の腫れが治まるまで、お風呂はお預けとなってしまった。
くそっ、どうしてだ!
家に、超豪華なお風呂があるのに、入れないなんて……。
悲しみの極み……。