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お届け便  作者: フクフク
本編
17/23

17




「おっふろ、おっふろ、おっふろ……、おっふろ、おっふろ、おっふろ……」


 上機嫌でリズムを刻みながら、同じフレーズを口ずさむ。 

 俺の脳みそが沸騰したのではない。

 とうとう我が家に、念願のお風呂ができたのだ!

 歌わずして、どうする!


「おっふろ、おっふろ、おっふろ……、おっふろ、おっふろ、おっふろ……」


 朝トイレで目が覚めた時、部屋のレイアウトが少し変わっていることに気づいた。

 部屋を確認すると、トイレの横に、新しい扉ができていた。

 そういえばここ数日、魔樹からのプレゼントがなかったことを思い出す。

 色んなことがあって、すっかり忘れていた。

 俺がベッドから降りると、隣で寝ていた白銀が、大きく欠伸をしながらも起き上がる。まだ眠いのを我慢して起き上がる仕草に、忠犬、いや忠狼かと、苦笑いしながら、まだ寝てろと、手で制する。

 一瞬考えたのか、間はあくが、素直にそれに従うと、真新しいマットの上で身体を丸めた。

 昨日の探索は、東エリアの森の奥部まで進んだため、拠点への帰宅が真夜中だった。狩猟も絶好調だった。疲れきっていたので、眠いのはしかたがない。今日は拠点で、のんびりと過ごす予定だ。


 トイレをすませ、隣の木の扉をあける。

 そこには、小さな部屋があり、その奥にまた木の扉がある。

 ……? 疑問に思いながらも、その扉をあける。


「っ……。魔樹、最高!」


 家風呂とは、到底思えない立派すぎる木の風呂がそこにあった。

 例えるなら、超高級旅館の檜風呂一式だ。

 湯もかけ流し仕様で、スノコの様な溝があり、かけ流れたお湯が流れていく。

 もちろん桶や椅子も洗い場も完備されている。


「すごっ! えっ? これ、どうなってんの?」


 上から伸びた魔樹のツルが、文字パネルで「ガンバホメ」と、示していた。

 ここ最近、魔樹は魔樹専用の文字パネルを常備している。

 俺との意思疎通に使えることを、怒涛の質問で学んだようだ。

 なんだかんだと魔樹も、寂しがり屋気質のようである。

「よくやった! 最高!」と、親指を立てる。「ヨシ」と、指す。褒めかたが、お気に召したようだ。

 かけ流しの湯に手を突っ込む。ちょうどいい湯加減だ。匂いはないが、少しとろみがあるような気もする。


「このお湯どうなってんだ?」

「ホルデタ」

「ほるって……。まさか、温泉を掘り当てたのか?」

「……」

「温泉がわからないか。温かい水が掘ったら湧いてきたのか?」

「マル」

「おまえ、最高!」

「ウレ」

「ああ、すごく嬉しい。いままでで一番嬉しいプレゼントかも。もちろん他のプレゼントも最高に嬉しかったけどなっ。これは別物! 本当にありがとうなっ!」


 夢にまでみた風呂が、まさかの源泉かけ流し。最高としか言葉がでない俺の語彙力よ。

 布で身体を拭くだけだったが……よく耐えた俺!

 これで毎日、風呂に入れる! 最高かよ!

 もうこれは、早速風呂に……。待てよ。作り置きしていた石鹸擬き、あれで身体を洗おう。皮膚が荒れてもいい。一ヶ月以上の垢を全部落とすんだ。


「おっふろ、おっふろ、おっふろ……、おっふろ、おっふろ、おっふろ……」


 風呂場からでて、机に置いた袋から、石鹸擬きと小さな布、新品の着替えをだす。

 念願のお風呂からでたあとも贅沢を満喫したい。

 それらを持って、風呂場に直行した。

 かけ湯をして、全身の垢を落とすため、小さな布に石鹸擬きを擦り、泡立てる。

 服などの洗剤用に調合した石鹸擬きだ。身体を洗う用にも調合したが、泡立てが悪く、皮膚が赤く腫れた。水酸化ナトリウムが強すぎたのだと思うが、いまの調合レベルでは、抑えることができない。あの時は、服を洗うものが作れる能力と願ってしまったので、その結果はいたしかたない。

 しかし、お風呂を手に入れたいま、俺は調合のレベルを強制的に上げることにする。シャンプーやリンス、ボディーソープを手にいれたいのだ。

 だが、それを手に入れる前に、お風呂を我慢できなかった。

 例え肌が赤く腫れあがっても、髪がゴワゴワになっても。きれいな状態でお風呂に浸かりたい。

 俺の気持ちわかるだろ?

 何度も洗い、真っ黒なお湯が、だんだんと透明になっていく。

 頭や肌が、ヒリヒリするが、そんなのどうだっていい!

 全身くまなく洗い終わり、待望のお風呂に浸かる。


「はあー。極楽! 生きてて、よかった!」






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