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お届け便  作者: フクフク
本編
15/23

15




 キャンキャンキャン――。

 大声で泣き叫ぶ、白銀の声があたりに響き渡っていた。

 慌てて西エリアに戻ったが、その姿はほど遠く、ほんの数秒離れたとは思えない距離だった。

「白銀!」と、大声で呼ぶ。

 その声に気づいた白銀が「キャン! ワオーン!」と遠吠えして、もの凄い速さで俺に近づき、飛びついてきた。

 その重さに耐えられず、俺の上半身が白銀とともに安全地帯に入った。

 すると、今度は白銀も一緒に安全地帯へ入ることができた。


 ひとり残されたことが、よほど怖かったのだろう。

 白銀が俺の胸に顔を押しつけ「クゥーン、クゥーン」と、鳴いている。

 落ち着かせるため、全身をなでて「大丈夫だからな」と、何度も白銀に伝えた。

 白銀が、少し落ち着いたのを見計らい、上半身を起こす。

 遠くに大きくそびえ立つ魔樹の姿が見え、心底安堵する。

「地図オープン」

 念のため、地図でも位置を確認する。

 安全地帯との表示がでていた。「ふぅー」と、大きく息を吐き、地面に身体を投げ、胸にいる白銀の頭を優しくなでた。

 白銀と一緒に、安全地帯へ帰ってきたようだ。


 白銀が、安全地帯に入れなかった理由は、魔物だからだ。

 今回、安全地帯に入れたのは、俺と接触していたからだ。

 理由はわからないが、過去2回のことから、そうだとしか思えない。

 試してみてもいいが、白銀のこの怖がりようでは、難しい。

 トラウマになっていなければいいが……。


 ひとつ、気になることがある。

 白銀が安全地帯に入れなかったと気づき、俺が慌てて西エリアへ戻った時にでた場所だ。

 はじめは、白銀が消えた俺を探して、遠くまで移動したのだと、思っていた。

 しかし、戻った場所は、俺の記憶が正しければ、さきほどまで白銀と一緒だった場所とはちがい、これまでに足を踏み入れたことがない全く別の場所だったと思う。

 まさか動いているのか?

 思い出してみれば、安全地帯から各エリアに移動する際、毎回微妙に場所がちがっていた。

 草原に目印などはないし、いつも同じ場所から各エリアへ移動するわけでもないので、特に気に留めていなかった。

 地図で見る限り、いま現在も、魔樹が安全地帯の中心にあるには、変わらない。

 だとすれば、安全地帯自体が、一つの異空間で、動いている可能性がある。

 これは、早急に検証する必要がある。

 万が一、安全地帯が動いているとなれば、下手に長時間、拠点を留守にできない。

 どこへ移動しているか、わからなくなるからだ。

 今回のケースで考えれば、ほんの数秒で、数百メートルは動いたことになる。

 その可能性に、サーッと、血の気が引くのがわかった。

 いままでは奇跡的に、安全地帯が動いていなかっただけで、もし俺の探索中に動きだし、地図に安全地帯の表示が見当たらなくなったとしたら……。

 考えられない。

 安全地帯、いや魔樹がいない生活など、もう考えれない。

 魔樹がいるから、少々無理をしても、活動ができていたのだ。

 これは……。

 身体を起こし、胸にいる白銀をそっと地面におく。抵抗する白銀に少しだけだからと言い聞かせる。地面から立ち上がると、不安気な白銀を胸に抱え上げ、魔樹のいる拠点へ向かい足を進める。

 この場から、すぐに立ち去りたいと、いま西エリアと安全地帯の境界線にいることに恐怖を感じた。



「魔樹ただいま」


 普段とおりに帰宅の挨拶をしたつもりだったが、声色に動揺がでていた。

 抱き上げている白銀が、不安そうに俺を見上げる。

 大丈夫だと笑う俺に「クゥーン」と小さく鳴き、胸元に顔をうめた。

 その様子に、俺の眼前まで伸びていた魔樹のツルが止まり、木の扉を開けた。

 魔樹の気遣いに、よくできた樹だなあと、改めて感心する。

 そのままの姿で、ベッドの上にのるには、抵抗はあったが、いまさらだと、白銀と一緒にベッドの上へ座った。

 最近の快適な暮らしで、日本での価値観が戻りつつあった。これも魔樹のおかげだ。

 食事を摂る時間には早いが、精神的疲労を考慮し、袋から果物を取り出し、口に含む。膝の上にいる白銀にも、無理矢理、果物を食べさせた。


 少し落ち着いたところで、待機していた魔樹に話しかける。


「白銀が安全地帯に単独で入れなかったんだよ。突然、俺が目の前で消えて、ひとりになったことが、そうとう怖かったんだよな」

「クゥーン」


 魔樹のツルが、白銀の頭に伸び、優しくなでた。

 白銀のこの並々ならぬ疲労感をみると、もしかしたら、場所だけではなく、時間の経過も違っていたのではないかと、新たな疑惑がわいてくる。

 白銀が落ち着いたら、聞くことにしよう。


「少し考えたことがあって、いまいる安全地帯が、一つの異空間であり、動いているのではないか? だとしたら長時間動けなくなる。おまえ、なにか知っていることあるか?」


 俺の質問に、魔樹専用の文字パネルを運び「レンイエココ」と示した。


「うん。俺の家はここだな」

「アンゼン」

「うん。安全だよな」

「レンイクココマツ」

「うん? 俺がいく? ここまつ?」

「レンイツシヨ」

「ん? どういう意味だ?」


 魔樹のツルが、俺を指して「イツシヨ」と、繰り返す。


「イツシヨ……一緒ってことか?」

「マル」

「俺と一緒? 俺がいく……ここいく……? ここは俺の家だから、俺が外に出ても、ここで俺を待ってるってことか?」

「マル」

「質問を変えるぞ。俺の家って、この魔樹の家の話か?」

「ゼンブ」

「……。安全地帯の範囲すべて?」

「マル」

「それはどうして、いつから?」

「バツ」

「わからないか……。もしかして、安全地帯が素敵アイテム?」


 魔樹のツルが、文字の上で、止まっている。

 どう答えればいいか、悩んでいるようだ。


「俺が外のエリアに長時間いても、安全地帯はここにあるってことか?」

「マル」

「じゃどうして、外エリアにでた時、毎回場所がちがうんだ?」

「アンゼン」

「なるほど、安全な場所を選んでだしてくれていると?」

「マル」

「白銀が入れないのは、魔物だからか?」

「マル」

「それを変更する方法は?」

「バツ」

「わからないか……。だったら――」


 俺の怒涛の質問は、留まることはなく、途中で精神負荷に気づいた魔樹が、果物を俺の口に押し込むかたちで、終了した。






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