14
小川に着き、数日前に仕掛けてあった罠を引き上げる。
「おっ、大量!」と、魚の数に、嬉しくて声がでる。
魔樹と何度も試行錯誤して、罠を大きくしたかいがあったと、結果に満足する。
魚を選別して、小さな魚は川へ返す。
その行動が不思議だったのか「キャン?」と、大人しく見ていた白銀が問うた。
「えーっと、小さな魚は食べてもお腹の足しにならないだろう? だったら、いま小さな魚を返して、大きく成長したら、もう一度獲る。そのほうが、美味しく食べられるし、嬉しいだろ?」
幼少時に、俺がじっちゃんに聞いた説明をそのまま話した。
俺の説明に、白銀がじっと小川を見つめ、なにかを考えているようだ。
しばし様子を見ることにした。
すると、白銀が俺の服を咥え、小川から遠ざける。「なんだ? なんだ?」と言いながらも、その指示に従う。小川から少し離れた場所で、立ち止まり、前足で地面をポンポンと叩いた。
「ここにいろってか?」
「キャン!」
俺の問いかけに、白銀が大きく吠えた。
なにをしたいのかわからないが、面白そうなので「わかったよ」と、素直にその場へ腰を下ろした。
白銀は、俺の行動を確認したあと、小川に戻っていく。その行動に注目していると、小川の直前で、立ち止まる。
なにをする気だ?
しばらくすると、白銀の前が、ピカッと、強く光った。
「おいっ! 大丈夫か?」と、慌てて白銀に近づくが、それより先に、白銀は、小川へ飛び込み、すぐに小川からでては、飛び込みをくり返す。
その付近の地面には、大きな魚が複数確認できた。
よくよく見ると、小川には、複数の大きな魚が浮いており、小川を泳ぐ白銀の口には、その大きな魚が咥えられていた。
もしかしなくても、これ白銀の能力だよな……。
ん? ってことは、さっきの魔法?
えっ? えーっ!?
俺の戸惑いをよそに、小川に浮いていたすべての魚を獲り終えた白銀が「キャン」と鳴き、俺の前に座った。尻尾が褒めてーぇと、揺れている。
いろいろと、まじでいろいろと、聞きたいことはあるが、とりあえず、頑張った白銀を「よくやった。すごい!」と、頭をなでながら、褒めてやる。
俺が説明したことは、ちゃんと理解していたようで、地面にあるのは、すべて一定以上の大きな魚だった。
数日では食べきれない大量の魚を前に、魔樹は魚いるかな? 確実に返却されるよなぁと、現実逃避する。
獲りすぎ注意を説明しなかった俺に落ち度はある。
このポイントでの、魚の捕獲は、とうぶん控えようと思う。自然の力の回復をまとう。
魚たち、美味しくいただくからなっ!
小川のそばで、火を焚き、ウサギの肉と魚を焼く。
ウサギの肉は、白銀の要望だ。狼だし、毎食肉は食べたいようだ。たくさんあるから、遠慮せず、たんとお食べ。
残った大量の魚は、袋へ簡単に収めれた。まじで袋の容量の限界を知りたい。
シカは、持ち帰れないと困るので、白銀によく説明して、行きと同じく、ウサギを狩ってもらおう。俺は、薬草や果物を採取して、袋の限界を探るのもありだと思う。
いい具合に焼けた魚の香ばしい匂いが、ただよってきた。
木の大皿を白銀の前へだして、焼けた魚をその上に次々と置いていく。「骨に気をつけて食べろよ」と、小言もしっかりと伝える。
白銀の食事の用意ができたので、俺も目の前の食事に手をつける。
一部の魚は、生で食べれることを確認したので、お造りにした。美味しくはあるが、醤油とワサビの絶妙な組合せがなく、なにか物足りない感じがした。
食事のデザートタイム中に、膝の上に乗せた白銀の口に果物を運びながら、先ほどの件について尋ねた。
「なあ、さっきピカッて光ったのは、おまえの能力か?」
「キャン!」
「俺の説明を聞いて、大きな魚だけに、その能力を使ったのか?」
「キャン!」
「おまえ、すごいな!」
「キャン!」
「それって、おまえ以外のやつでも、使えたりするのか?」
「キャンッ……」
「そうか、気にするな」
俺の質問に答えられず、落ち込む白銀をなぐさめる。
白銀が特別なのか?
鑑定では、チーウルフが、魔法のような能力を使えるとの情報はなかった。
鑑定レベルが低くて、その情報を取得できなかった可能性もある。
ただあの場面では、どのチーウルフも能力を使ってはいない。
白銀もだ。命の危機だったにもかかわらず、能力を使っていない。
能力を使うにも、なにか条件があるのか?
それとも、いま突然使えるようになったとか?
拠点に戻ったら、翻訳の玉を使って、傷が完治したあとのことも含め、白銀に聞いてみよう。
帰り道、ちょっとしたトラブルがあった。
袋の容量を確認するため、帰り道がてら採取をはじめたのだが、ウサギ狩りオンリーの白銀が、獲物を見つけて走っていったまま、なかなか帰ってこない。
心配して、その方角へ進むと、大きな茶色の塊の前で、白銀が困ったようにウロウロしていた。
かけつけると、そこには白銀の3倍以上の大きなイノシシが、横たわっていた。
その大きさに、圧倒される。
たしかに、イノシシはダメだとは、言わなかった……。
結局、そのイノシシも、難なく袋に入り、容量を確認するのは、あきらめた。
安全地帯との境界線付近に帰ってきた。
ここまでくれば安心だと、警戒をとき「今日は、おまえのおかげで、大量だったよ。ありがとうな」と、隣で歩く白銀に感謝の言葉をかけ、安全地帯に一歩、足を踏み入れた。
突然、隣にいた白銀の気配が消え、俺ひとりだけが、大草原に立っていた。