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お届け便  作者: フクフク
本編
12/23

12




「冗談でも……いや、本音だったんだけど……。人の不幸を願うのって、最低だよな……。人を呪わば穴二つって言葉が俺の世界にはあって、人の不幸を願えば、やがて不幸が自身に返ってくるって、意味なんだ。まじで腹は立つけど、強制したかったわけじゃないんだ」


 俺の落ち込みように、白銀が俺の顔を舐め、身体に寄り添い、魔樹のツルが、優しく肩を叩く。

 こいつらなりに励ましてくれているようだ。


「おまえら、いいやつだな」


 白銀と魔樹のツルをまるっと抱きしめ、心を落ち着かせる。

 ――そうだ。まだそうなると、決まったわけではない。

 承りの機械音は流れたけれど、お届け履歴にそれらしき表示はなかった。

 前にも――かわいい相棒みたいなと、盛大なフラグを立てたけど、現時点でもお届け履歴に表示されていない。

 受付後の発送キャンセルの可能性も捨てきれない。

 チラッと白銀を見る。文句なしにかわいいけど、フラグの回収ではなかったようだ。

 ほんの少し、そうかなーとも思ったけど、魔樹のように、お届け履歴に表示されないので、勘違いのようだ。

 傷が癒えたら、森に帰す予定だし……寂しくなる。

 本音は、ずっーと一緒にいたいけど、そこは白銀の選択を尊重する。

 ただ、日に日に野性が、薄れているような気はする。なんだろう。狼の威厳? 風格? が、なくなったような……。俺のせいではないよな?

 俺の凝視に「キャン?」と、白銀が首を傾ける。

 ああーあざとかわいい。こいつまじで、狙ってないか。絶対かわいいポイントを抑えているよな。

 白銀のペット化が、加速しつつある。

 選択云々より先に、森へのリハビリを視野に入れないといけないかもしれない。


「あっ! ああーー!!」と、本日一番の絶叫をあげる。

 膝の上にいた白銀が、その声にビクッと反応し、魔樹のツルが、俺の肩付近で中途半端に止まっていた。

「わるい。わるい」と、二人に謝るが、その一方でふつふつと怒りが込み上げてくる。

 いま気づいた。人を呪わば穴二つなんて、他人様(ひとさま)に迷惑をかけるなんてと、すごく気にしていたが、いるのだ。

 俺の能力が届く範囲で、俺をこの世界へ飛ばしたやつが、存在するのだ!

 自然的怪現象で、たまたま俺の家の玄関が、この世界に通じた可能性も考えていたが、やはり誰かが関わっていた。

 意図的だったのか、偶発的だったのかは、さておき、世界を渡らせる能力があるなら、俺に説明ぐらいあってもいいと思う。

 くぅー。考えれば考えるほど、腹が立つ。拳をプルプルさせ、怒りを抑えるため、緑の玉を飲んだ。

 すっと、熱が冷めたように、冷静になる。

 もういまさらだ。俺はこの世界に来てしまったし、いまは魔樹の助けもあり、生活ができている。

 たしかに、何の説明もなく、急に異世界へ連れ出した謝罪はしてほ……謝罪いると思うが、それだけだ。だけど――サクッ。

 また負の感情が、湧いてでそうなため、慌てて、袋からリンゴを取り出し、噛りついた。サクサクッと、リンゴを食べる咀嚼音が、部屋に広がる。

 やはり状態異常解除は、常備するに限る。コスパのいい緑の玉の評価が、また上がる。

 雨で探索ができなかったので、基礎本を訳しつつ、試しに半日ほど食事を抜いてみた。いまの俺のレベルでは、半日も精神負荷に耐えられないようだ。

 まだまだ精進が必要だと、追加の果物を口にした。



 翌日の夕方――。

 今日の探索を終え、安全地帯に足を踏み入れた。

 しばらく歩いていると、魔樹の方角から「ワオーーン」との遠吠えが、聞こえた。

 白銀が、俺の姿を見つけたようだ。

 数分もしないうちに、白銀が俺の元へ来るだろう。

 傷が完治するには、まだ時間はかかるが、走れるほどには回復している。

 比較的安全な西側エリアなら、連れ立ってもいいかな。

 魚も食べたいし、よし明日はさか――。


『お届けが完了しました』


 聞きなれた機械音が、頭に流れる。

 しかし、いつもとちがうアナウンスに戸惑いを隠せない。

 えっ? 俺、キーワードを発してないよ? えっ? 無意識に願った? いやいやそれはないよな?

 疑心暗鬼になりつつも「お届け履歴」と発する。透明なプレートが、目の前に表示された。履歴をスクロールすると、昨日届いた商品の中に、疑似体験0、入荷予定なしとのグレーアウトされた表示を見つけた。

 どういうことだ? 俺は、疑似体験なんてした覚えがないぞ。いまからか?

 いやちがう。アナウンスは『お届けが完了しました(・・・・)』だ。

 疑似体験は、もう終了しているんだ。

 あっ! もしかして、俺をこの世界へ飛ばしたやつが、俺と同じ経験をした?

 たしか――俺と同じ経験を1日と願った。

 正確にはわからないが、昨日願った時間帯と、ほぼ同じ時間帯だ。

 うわぁー。悪いことをした。俺をこの世界へ飛ばしたやつ、すまん! 手を合わせ、合掌する。

 けれど、疑似体験でよかった。俺と同じ状況になったら、しゃれにならん。それに申し訳なさで、精神的に死ぬ。まじで、疑似体験でよかった。

 ん? あれ? お届け便さん? なにかをお忘れではないか。一番大事な、誠心誠意の謝罪は、どこへ届けにいった?






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