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あれは、魔樹が成長しはじめて3日目ぐらいだった――。
植物の育て方がわからず、少量の水で爆成長をしていく成木に、無知は怖いと学び、この世界の常識が知りたいと思った。
お届け便に願うとしても、この世界の常識では、大まかすぎて『その商品は、お取扱いしていません』なんて、新たな機械音が流れそうだ。逆に購入できても、使用するのを戸惑ってしまう。
常識が身につく能力があったら、それはそれで面白そうだけれど、性格や価値観などの概念を変えられたら、俺が俺でなくなってしまうので、やめておこう。
無難に本だよな。お決まりの『ポイントが――』が、流れたら、まだ俺には必要ない知識だったと思い、あきらめよう。
願う言葉も大事だ。慎重に考えて――この世界の基本が載っていて、生活に役立つ本が欲しいと願った。
『承りました』
ドスンッ。分厚い本が届いた。
あぶねぇー!
あと一歩手前だったら、足の上に落ちていた。
お届け場所を指定できないのが、怖いよなと、グチグチ文句を言いながらも、足元にある本を開く。
読めねぇー!
アラビア語のような文字の羅列に、少し頭が重く感じる。
俺、外国語、すっげー苦手なんですけど?
ここは特典として、言語理解とかあってもよくないですか?
もしくは、日本語でもよかったんじゃないですか?
まあ俺には、お届け便があるから、いいですけど。
言語を理解する能力が欲しい。
『ポイントが不足しています。チャージして下さい』
「おおいっ!」と、大声をあげた。
いまの所有ポイントで、無理って、どれだけ高いんだ!
お届け便の価格基準。価格基準を教えて欲しい。あっ!
『その商品は、お取扱いしていません』
…………。
でたよ。新たな機械音。
しかも、予想通りのアナウンスだった。
予想が的中して、少し嬉しいと思っている自分が、すごくいやだ。
まあこれで価格基準は、一生不明だとわかったので、逆にあきらめもつく。
少し興味があったので、知りたかったぶん、残念ではある。
ただ意図せずの欲しいは、心臓に悪いので、注意がいる。注意しても、本心で欲しいと思っているので、なかなか防ぐのは難しいとも思う。
それに、いままで届いたアイテムは、すべて大活躍中だ。無意識の欲しいは、悪くはないかもしれない。
木の苗0ポイントが頭をよぎる。
あれは……0ポイントだったし、いまは成木だし、拠点の目印にもなっているし、結果としてよかったよ。
そっ、そうだ。本の購入ポイントを確認しよう。今後の商品購入のサンプルになるしね。
頭を切り替え、お届け履歴を確認する。
基礎本300と表示されていた。高くはあるが、微妙な感じだ。
この便利な袋の3倍。火打石や棒術などのスキル玉にいたっては、30倍の価格だ。
この世界では、識字率が低く、本は貴重で、それが考慮されての価格だと予想される。
だとすれば、言語の能力は、相当高いようだ。
この分厚い本が、基礎の本であることは確認できたが、読めないんじゃ意味がない。
どうするんだよ。単語さえわからないのに、文字だけで解読しろってか?
俺は言語学者じゃないんだぞー。
肩を落として、嘆いていると、ふと閃いた。
別に能力じゃなくてもいいんじゃない?
あっ! この本を読めるものが欲しい。
『承りました』
よし! 慣れ親しんだ機械音に、大きくガッツポーズをする。
白い玉が、俺の手のひらに現れた。
すぐに鑑定をして、効果を確認する。
翻訳の玉。言葉や文字が翻訳される。効果は約1時間。
充分な答えに、頬が緩むのを止められない。
今後の翻訳の玉の使い道を考えると、ここで翻訳の玉を発見できたことは、大きい。
上機嫌で、白い玉を口へ運び、飲みこんだ。
本の表紙を開くと、アラビア文字の下に日本語が表示されていた。
おっ? 文字が日本語へ変化すると思っていたので、この翻訳の仕方には、少し驚いた。
これは文字の勉強にもなるかもしれないと思いつつ、知りたい内容が書いてあるページを探りはじめた。
――1時間後。
突然読んでいた日本語を消え、アラビア文字だけとなった。
はぁー。大きく深呼吸して、基礎の本を閉じる。
1時間って、早すぎる。知りたかった内容のほとんどが確認できていない。
不満があるとすれば、この基礎本、目次がないのだ。お目当ての情報を探すにも、ページ数が多すぎて探すだけで時間を要した。
これは再挑戦が必要だが、明日のことも考えて延長することはやめておく。
それに翻訳の玉の消費ポイントが30と、高めだったので、苦手だけれど、本当に苦手だけれど、言語の勉強も視野にいれる。
本を読む限り、日本語と同じ方式で文字が成り立っているように感じた。
アラビア文字を平仮名に割り当てることができたら、翻訳の玉を使用せず、本が読めることになる。
ポイントの節約にもなり、基礎知識もえられる。一石二鳥だ。
まあ、俺が自力で言語を習得できればの話だけれど……。
可能性はあるし、次の機会に文法や単語の意味を注視して読んでみよう。