記念日
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この作品は長編になります。
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光一は慌てて玄関の扉を開けた。
「いらっしゃい」
「失礼します」
「こっちへ」
奥の部屋の扉を開ける。
「凄い!」
明菜は蝋燭の灯りでキラキラと照らされた幻想的な空間に、思わず声を出した。
「こっちに座って」
光一は椅子を指す。
「誕生日おめでとう」
「生まれて初めてよ。
こんな素敵な誕生日……」
「これから毎年誕生日を祝ってあげたい。
そして君と一緒に人生を歩いて行きたい」
と明菜にプロポーズした。
「……」
明菜は感激で声が出ない。
濡れた瞳で光一を見詰めながら頷いた。
結婚を承諾した明菜を連れて隣の部屋へ行く。
その部屋には仏壇があった。
仏壇の前で、両親の位牌に手を合わせ、
「僕の嫁さんになる人です」
と、紹介した。
両親が残してくれた3階建てのマンション。
1階はカラオケ店、2階は賃貸、3階は彼の住居とスタジオである。
4月15日は特別な日だ。
二人が知り合った記念日。
その日に結婚式をあげる。
記念日は2ヶ月後に迫っている。
今日の待ち合わせは、六本木のジャズクラブ“ドール”
夜の9時30分に待ち合わせをしていた。
彼女は銀座の洋菓子店に勤めている。
今日は残業で、急いで駆けつけると言う事だった。
光一も彼女と会う前に、気の乗らない用事があった。
『30分で良いから、付きまとっている男を諦めさせる為に
私の恋人の振りをして』
昨日突然、電話があった。
『あのぅ、人違いではないですか?』
『2ヶ月前、山手線の渋谷駅で、あなたの名刺を貰った者ですが
思いだしましたか?』
『アッ!』
あの事件か。
すっかり光一は忘れていたと言うか、
思い出したく無かったのかも知れない。
あれは12月の初旬の出来事だった。
渋谷の“ジャンヌ”というジャズクラブで
ライブとCD発売の打ち合わせがあった。
打ち合わせの時間は、午後3時。
光一はマンションを1時30分に出る。
中野駅まで歩いて10分かかる。
舗道に真っ白な粉雪が消えてゆく。
『フゥー』
白い息を吐く。
突然、頭の中をメロディが流れた。
スマホの高音質録音機能のスイッチをONにした。
彼は、泡沫のように瞬時に消えてゆくイメージを
リズミカルにハミングしながら歩いて行く。
教室で作曲を教えている生徒達にも、記録しなさい。
と、口が酸っぱくなるほど言っている。
作曲を教えている生徒は2人だが、カラオケを教えている
生徒は10人だ。
作曲はイメージが大切だが、カラオケもイメージが重要である。
入学当時は2人が自称音痴だった。
何故音痴だと思うのか、とたずねてみると
カラオケ採点で70点以上出た事が無いからと言う事だった。
『そうですか。では、先生が魔法をかけてあげましょう』
光一が言うと二人とも怪訝な表情をした。
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