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真珠星  作者: 夢乃マ男
48/50

擬似ライブ当日

擬似ライブとは名ばかりでただの規模が大きいファン否、オタ達の大掛かりな集い。

只の上映会だ。


自分以外の全ての人がこの企画の意図をしらないがたくさんの人がこの企画を広めてくれた。

ただただその場を楽しむ為に。


SNSで秋田憂推しの有名な人達と先日交流が取れたことも大きかった。

そして古くから存在を表さない古参として、自分もそれなりに有名だった事も働き、今回のこのオフ会は開催に至った。


更に追い風のように役者の河村一流さんがこの企画に触れてくれたお陰で情報の拡散が思っていたより大規模に行われた。


人が集まってくれなければ、意味をもたない。


そんな思いは杞憂だった。


本当のライブ参戦さながらに装備を整えたオタク達が集まる。

ライブごとに新しく売り出される名前入りタオルを全て身にまとっていたり、懐かしいライブTシャツを着ていたり、女子に至ってはメンバーのコスプレをしていたり、その熱の入れ方は普段のライブとなにもかわらなかった。


大きな会場でライブDVDを流すだけ。

趣味が合う友人の家で借りてきたDVDを一緒に観る。それをできるだけ大げさにしただけの会にたくさんのオタが集まった。


その中で一人、スタッフルームとは名ばかりのただの熱量の強いオタク達の実行委員ルームに差し入れを持ってきた人物がいた。


全身を推しタオルで身に包んだ河村一流だ。

その姿はまるで鎧のようで、タオルアーマーと皆は呼んでいた。

「素敵な企画、ありがとうございます。おつかれさまです」



今回の企画立案者として自分が対応する。


「心遣いありがとうございます。今日は楽しんでください」


気づいてないフリをして対応する。


「あ!おじさん!あの時はありがとうございました!」


あの時とは?まったく覚えがなかった。


「一方的にすいません。河村一流と言う者です」


それは知っている。その役者と自分とが結びつかないのだ。


「あのむつみん、本橋睦美さんの卒業の握手会のミニライブでの僕らの企画わかりますよね?会場をむつみんと憂ちゃんのサイリウムで染めたミニライブがあった日の!!」


「もちろんそれはわかるけども」


「握手列でおじさんの後ろに並んでたのが僕なんです。おかげで直接ありがとうってたくさん言ってもらえて、一生の思い出です!素敵な企画ありがとうございます!」


自分みたいなものに右手を差し出す役者さん。


「あの日の企画があったからこそ今日の企画がある。こちらこそ素敵な企画をありがとう」


かたく握手を交わす。これは役者と素人の握手ではない。オタクとオタクの意味ある握手なのだ。


「もし正体がばれたら会場がパニックになるかもしれません。よかったらスタッフルームで一緒に観ませんか?」


その気遣いに彼はNOと答えた。


「今日はただのオタクなんで!その代わりにバレたらもっとパニックになりえる人を呼んでもいいですか?たぶんすでに会場にはいると思うので」


オタクとして楽しみたいと言ってる彼の気持ちをスタッフルームに拘束してしまってはなんだか罰を与えてしまうような気持ちがしたので、その提案を断ることが出来なかった。


彼がスマホをいじるとスタッフルームに現れたのは、相葉二葉と清宮セイカだった。


スタッフルームがざわめく、相変わらず対応は自分だ。


「説明する必要ないだろうけど、この二人が会場に居ることがバレたらよっぽどパニックになるだろ?」


「あの舞台観ました!あのセイカちゃ、セイカさんの登場から引き込まれて、二葉さんの明るさで一瞬で舞台に引き込まれて、ほんとあんな感動したの初めてでした!感動しました!」


興奮しすぎてついつい言葉が出てくる。まだまだ喋り足りないが、一流さんに制止される。


「僕の時とはえらい違いだな」


苦笑いすら浮かべる。


「配慮していただいてありがとうございます。ですが今日はファンとしてお忍びで来ていますし、何よりもファンとしての気持ちを忘れたくない。あの時の気持ちを胸に流星風流のライブを楽しみたい気持ちで来ていますので」


セイカちゃんからも丁重に断られる。


「バレてパニックになるならさ、最初から存在をばらしちゃおうよ!」


「またあなたはそうやって思いつきでものを言う!」


「いるのわかったらパニックにならないじゃん!どうせライブ始まったらみんなライブに夢中になるんだからさ、オープニングトークでバッと出ちゃおうよ!3人で!」


「え?僕も?」


「ちょっとだけ舞台のシーン再現したらみんな盛り上がるよ!そしたらオタクに戻ろう!きっと楽しいよ!」


あの舞台の3人がとんでもない事を言いだしている。


「話しに水を差すようで申し訳ないんですけど、今日は球場借りてDVD流すだけなので、照明やらなんやらもなにもできないんで、ありがたい提案なので、会場も盛り上がるとは思いますがそれは実現できないです。本当に申し訳ありません。」


深々と頭を下げる。自分だってこの企画が盛り上が盛り上がるのなら藁にもすがりたいがあまりにも無茶な相談だ。


二葉ちゃんがにやりと笑う。


「だったらプロがこの会場にいるよ!」


そう言うと二葉ちゃんが電話をかけに少し場を離れる。

その姿を目にして一流さんとセイカちゃんが顔を見合わせ楽しそうに笑う。


「話はきかせてもらった」


オタの正装に身を包んだ男が現れた。


「すいませんが、ここは関係者以外の方はちょっと。」


かっこよく登場したその男は別のスタッフに立ち入りを拒否されている。

その姿を見ながら笑う3人。

こちらは笑えない。三好龍馬監督だ。


状況を説明するとスタッフ全員で頭を下げるがおかまいなしに4人は談笑を始める。


「とりあえずプロに任せろ。おれが関わった作品だ。オタク故にオタクを楽しませてやる!」


ただのオタク主催のオタクによるオタクのイベントがとんでもないものになっていく。

更に集った4人の宣伝能力のおかげで球場は超満員。スタッフルームにもプロのスタッフが衣装やら機材やらを片手に押し寄せてきた。


ただ自分以外は誰も知らない。

このイベントの本当の目的を。


そしていよいよ擬似ライブが始まる。

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