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60話 背伸びしたい年頃です

エドワードの秘密を三人で共有した日から数ヵ月が過ぎ、エリックと出会って一年が過ぎた。


…そして…父と約束した日から一年が過ぎてしまったのだ。


誘拐事件が起きて数ヵ月過ぎてもルパートは見つかったという連絡は入らない。

そしてエドワードは三日と開けずに遊びに来るようになった、時々エリックと無言で火花を散らしている。

余談だが兄とジュリアの交際は順調にいっているらしい。

私はといえば父との約束の期間が半分過ぎた事に焦りを感じていた。


何よりジェード様の第一騎士団団長になるための引き継ぎが本格的に忙しくなり、中々お会いすることができないのだ。

それでもたまに顔を合わせると微笑みかけてくれたり、話しかけてくれたりしてくれるし私も忙しくなさそうな日を見計らって、お菓子を差し入れに行くので全く進展してないというわけでもない。

無い……けれど、私はまだジェード様に告白できるだけの自信が持てずにいる。




そうこうしてるうちに、弟が生まれた。

私の弟はブレイクと名付けられ、一週間後にお披露目会が行われることになった。

丁度その日は兄が学校から帰ってくる日でもあり、手紙で兄にブレイク誕生のことやお披露目会の事を話したらとても楽しみにしている、という内容が返って来た。







◇◇

そして兄が帰ってくる当日、兄を迎えてすぐにブレイクのお披露目会が行われる。

会場はすでに整えられているらしく、招待した貴族が集まり始めているようだ。


そんな中、私はお披露目会の為のドレスを選んでいた。

「今回の主役はブレイク殿下ですけれど姫様も負けないくらい着飾るべきだと思いますの!」

そう言いながらドレスの装飾品を選んでいるのはメアリーだ。

「それなら姫様の愛らしさを引き立たせるこちらのドレスはどうですか?」

私を着飾れるとあってマリーも乗り気でピンクの可愛らしいドレスを勧めてくる。

「……もう少し、大人っぽい色合いのものがいいわ」



少しでもジェード様の視界に入るように。



私の言葉に二人は顔を見合わせた後、すすすと部屋の角に向かいひそひそと言葉を交わす。

「…絶対可愛らしい方が似合うのに…」

「姫様も大人びたい年頃なのね」

「けれど姫様の要望を取り入れるのが私達の役目よ」

「なら大人っぽさの中にも可愛らしさを盛り込んで……」



声を潜めても聞こえてますよお二人さん。

だが何だかんだで私の意見を聞き届けてくれようとしているのはありがたい。

私はドレスが並ぶクローゼットの前に立つと濃い緑のドレスを手に取った。

袖や裾には控えめにレースがあしらわれ、胸元には淡い色の薔薇のコサージュがついている。


「これにするわ」


部屋の隅で相談する二人に向けて声をかけるとメアリーが不満げに駆け寄ってくる。

「もっとリボンとかフリルのたくさんついたものにしませんか?姫様はお可愛らしいのですから、急いで大人の仲間入りすることはないのですよ?」

「お願い。メアリー、マリー」

私はドレスを手に取ったまま二人に懇願する。

どうしても子供特有の『可愛い』から脱却したい。


「姫様がそこまでおっしゃるのでしたら…」

メアリーが渋々頷くと、マリーは私の方を見てふんわりと微笑む。

「でしたら髪型もそれに合わせたものに致しましょうか、姫様ならどんなものでもお似合いですわ」

我儘を聞いてくれる二人に少し申し訳なく思いながら、私はお披露目会に挑むためのドレスに着替え始めた。




着替えを終え、髪型をセットしてもらい鏡に自分の姿を写す。

大分伸びたプラチナブロンドは右側に流し緩くリボンで結んで貰い、少しだけお化粧もしてもらう。

その姿はお姫様というより小さな淑女といった感じだった。

私としては今できる精一杯の背伸びである。大人から見ればどう身形を整えたところで『可愛らしい』という感想を抱いてしまうのだろうが……。

けれど、これで気合いは入った。

気分は戦場に向かう兵士のようだ。


「あら、姫様。ダニエル殿下が到着されたようですわ」

私が気合いをいれていると、窓の外を見ながらメアリーが教えてくれる。

兄の乗った馬車が見えたのだろう、兄を出迎えたらそのままブレイクのお披露目会場に向かう手筈になっている。


私はひとつ深呼吸をすると兄を出迎える為自室を出て、護衛で部屋の扉の前に待機していたエリックに声をかける。


「準備は終わったわ、これからお兄様のお出迎えに行くけれど……男の人から見て私の格好はおかしくないかしら?」

メアリーやマリーは可愛いと誉めてくれるけれど、男性と女性の感覚は違う。

エリックにも意見を聞いてみようと思い、尋ねると彼は困ったように眉を下げた。


やっぱり男性から見たら似合わないのだろうか?


「…エリック?」

中々答えてくれないエリックに再び声をかけるとエリックは視線を少し躊躇った後、ほんのりと頬を染めて微笑んだ。

「とてもお似合いです、失礼ながら別人かと思うほどに」

「本当に?よかった!」

エリックの言葉に自信がついた私は、兄を出迎える為玄関ホールへと向かった。


この姿ならジェード様も私の事を少しだけでも意識してくれるのではないか、そんな期待を抱きながら。




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