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44話 信頼関係です

ジェード視点です

「……アリスに手を出したりしてないだろうな?」


アリスが部屋を飛び出してその足音が遠ざかった頃、ダニエルは乱暴に椅子に腰かけると私を半目で軽く睨み付けた。

「……してない」

落ち込む姿をみて抱き締めたくなったけれどそんな事この男に言えない。

ややこしくなるに決まっている。

「ならいい。ルシオ達がアリスがジェードの見舞いに来たと話していたから急いで来たんだが、何もなくて良かった」

ダニエルは安堵したようにふうと息を吐く。

やっぱりあの三人は体が完治したら特別な訓練をする必要がある。


「…アリスを狙ったあの気色悪い男。ルパートだがまだ消息が掴めないらしい」

ふとダニエルが悔しげに呟いた。

「どういう事だ?あの時すぐ近くには騎士団がいただろう」

眉を寄せればダニエルも眉間にシワを寄せて息を吐く。

「……片っ端から聞き込みをしてみたんだ、怪しい者をみた者はいないかと。そしたらあの場での記憶が曖昧な騎士が数人見つかった…ルパートはアリスになにか変な薬を使っていた様だから大方それを使って逃げたんだろう」

「厄介だな、そんなものを持っているなんて…」

「あぁ。城の警備を強化してアリスを一人にしないよう、あの子には気が付かれないように騎士や侍女達に護衛させているが…一応お前も警戒してくれ」

「……そうか。わかった」

一刻も早くルパートを捕まえなくてはまたアリスを狙うだろう、早く怪我を治して復帰しなければいけない。そう思っているとじっとダニエルがこちらを見ているのに気がついた。


「なんだ?」

不思議に思い声をかけるとダニエルは気恥ずかしそうに目を反らす。

「……なんなんだ、言いたいことがあるならはっきり言え。気色悪い」

「お前、私が王子だと言うことを忘れてないか?」

「二人の時はただのダニエルだろ?昔のようにダニーと呼んでやろうか」

「やめろ、その呼び方には嫌な思い出しかない!……そうではなくてだな。その…なんだ。こんなことを改まって言うのもどうかと思うが…必要なことだからな」

「……?」

要領を得ない言葉を呟くダニエルに眉を寄せれば、彼は深呼吸した後私に向かって深く頭を下げた。


「私を守ってくれたこと、アリスを救ってくれたこと…礼を言う。ありがとう、ジェード。お前のお陰で、私達はこうして無事でいられる。本当に感謝している」


そう告げて顔を上げるダニエルの頬はほんのり赤い。滅多にこんな風に礼を言うことがないから照れくさいのだろう。

「……お前なにか悪いものでも食べたのか?」

つい私も気恥ずかしさを覚え、目を反らして冗談を呟くとダニエルに頭を鷲掴みにされた。

「お、ま、え、は!私が真面目に話していると言うのに!」

「おい、やめっ…痛ぁっ!私は怪我人だぞ!?待て待て!悪かった、悪かったから手を離せっ!」

本気で痛め付けるつもりはなかったのだろうが思ったよりも強い力で捕まれ、頭がみしみしと痛んだ。

だが仕方ない、真面目なこいつをからかった私が悪い。


「守ることが、私の…務めだからな。それだけじゃなく誇りでもある。だからその礼は受け取ろう、しかし急にどうしたんだ?そんなことを言い出すなんて」

「………ジュリア嬢がアリスに話していたのを聞いたんだ。感謝を伝えた方が、相手が喜ぶと。だから…言ってみただけだ、深い意味はない」

そう言いながらそっぽを向く姿は何処か子供のようでつい苦笑浮かべてしまう。

「そうか……。しかしあの令嬢がそんな事を言うとはな、感謝の心とは無縁に思えたが…」

「私も驚いた、けれど言っていることは間違っていなかったからな。実践してみたという訳だ」

そう言うとダニエルは「そろそろ戻る」と椅子から立ち上がる。

見送ろうと起き上がろうとした私を制してダニエルはドアに向かうと、思い出したかのように足を止めた。


「なぁ、ジェード……もし、お前が本気なら……私はアリスを任せても良いと思っている」


「…………なっ!?」

その言葉に起き上がろうとするが腹部に痛みが走り蹲ってしまう。

「それじゃ、早く治せよ」

「おい、ちょっ……ダニエル!?」

呼び止める声に背を向けそのままダニエルは部屋を出ていってしまった。



妹溺愛主義者のダニエルがそんな事を口走るなんて……明日は嵐かもしれない。





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