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42話 騎士仲間は賑やかです!

エリックのお見舞いを終えた私は自分の部屋へと戻ることにした。

ジェード様の所に行こうかと思ったけれど、会っても何を話していいのか分からない。

それにきっと今は治療に専念してるはずだから、私が行くと邪魔になるだろう。


…でも一目でいいから無事な姿を見たい…


そう思った瞬間、私がジェード様を刺してしまった時の感触が生々しく両手によみがえる。震えそうになる両手を押さえ込むようにぎゅっと握り締めているとふと後ろから声を掛けられた。

「王女殿下、如何なされましたか?」

振り返るとそこには騎士服に身を包んだ穏やかな顔付きの騎士が一人立っていた。ジェード様に差し入れした時に見掛けていたので顔だけは知っている。

けれど名前までは分からない。


「えっと…」

私が首をかしげると男性は深く頭を下げて名乗ってくれた。

「私はルシオ・アズライトともうします。先日は王女殿下の捜索部隊に加わっておりました」

「…!あの時はありがとうございます!」

私が頭を下げればルシオは慌てる。

「王女殿下、私などに礼は不要ですよ?騎士たるもの、王族の方を守るのが使命ですから」

「でも、皆さんが動いてくださったから私は今、無事でいられるんです!ですからお礼くらい言わせてください、ありがとうございます」

そう告げるとルシオは少し戸惑いながらも優しく微笑んで私の感謝を受け取ってくれた。


「それで、このような所で足を止めて如何なされましたか?」

「あ……エリックのお見舞いに行った帰りだったんです。それでジェード様の所に行こうか迷ってて…」

「あぁ、でしたらご案内しますよ?こちらです」

ルシオは私が道に迷ったと思っているようで案内してくれる。

「え……あっ、ありがとうございます」

折角の申し出を断るのも悪い気がした私はルシオの後をついていく。

いや、これは言い訳だ。

ルシオを言い訳にして私はジェード様に会いたかっただけ。


…でも、会ったところで嫌な顔されたらどうしよう…

ジェード様はそんな人じゃないことは知ってる、それでも私は顔を会わせるのが怖い…


一人でぐるぐると悩んでいるうちにジェード様の部屋についてしまった。扉越しに話し声が聞こえる。

「誰か来ているようですね」

ルシオは首を傾げてドアをノックする。

「ジェード、ルシオだ。入るぞ」

一言告げてドアを開けると中から人が勢いよく飛び出して来てルシオに飛び付いた。

日頃から鍛えてるのか彼はびくともせずに飛び出してきた人物を受け止め溜め息をつく。

「ルシオー!!聞いてくれよ、ジェードが体治ったら俺だけ地獄の特訓コースとか言うんだぜ!?酷くね!?」

「お前が余計な事言ったからだろう、自業自得だ」

「ひっでぇ!」

くるくると面白いくらい表情を変えて言葉を発する人物に私は目を瞬かせた。

ぴょこぴょこと跳ねた癖っ毛をうなじの辺りで結わえていてそれが犬の尻尾みたいに見える。


「あれ!?お、王女殿下!?どうしてこんなところに!?」

「おい、エルバート無礼だぞ!」

エルバートと呼ばれた男性を慌てて嗜めるルシオ。その言葉を聞いてか部屋の中からガタガタッと音がしてもう一人男性が出てきた。

赤毛につり目の狐っぽい男性だ。


三人ともジェード様と同い年くらいかな?

この二人も騎士さんなんだよね。顔は知ってるんだけどなー…


「俺、じゃなかったっ…わ、私はエルバート・コーラルと申します!王女殿下にお目にかか、かかれっ…かれてこーえーです!」

エルバートは噛みまくっりながらビシッと敬礼して見せる。

一方、最後に現れた男性は膝をついて恭しく私に頭を下げた。

「私はアシュトン・カルセドニーと申します、王女殿下。エルバートやルシオと同様第一騎士団に属しております」

「あ、楽にしてください!すみません、皆さんのお話を邪魔してしまって…」

私がペコリと頭を下げると三人は揃って首を横に振る。

「いやいやっ!邪魔だなんて事無いですよ!俺、王女殿下に会えて嬉しいですもんっ!」

「馬鹿バート、一人称が俺になってんぞ」

「アシュトンだって口悪くなってる!」

「二人とも王女殿下の前だ、控えろ!」

エルバートとアシュトンが言い合いになりそうになったのをルシオが止める。まるでトリオの漫才を見ているようで私はつい笑ってしまった。


「ふふっ…皆さん仲良しなんですね」

「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」

頭を下げるルシオとは真逆にエルバートはぱっと笑う。

「王女様の笑顔って可愛いなっ!」

「馬鹿バート、無礼だからなその物言い」

「お前もだ、アシュトン」


また言い合いが始まりそうになった時、部屋の中からジェード様が現れて深く溜め息をついた。薄手のシャツの隙間から包帯がちらりと見える。

「お前たち、いい加減にしないか。王女殿下を困らせるな」

まだ体が辛いらしく壁に持たれるジェード様は三人を見て呆れた顔をする。

「申し訳ありません、王女殿下。気は良い者達なのですが三人集まると喧しくて」

「それは違うな、馬鹿バートが一人で三倍煩いんだ」

「お前その馬鹿っていうのやめろよ!俺はエルバートだ!」

「知らないのか、馬鹿っていうのは最上級の誉め言葉なんだぞ?」

「そうなのか!?」

「……アシュトン、エルバートに嘘を教えるな。エルバートも真に受けない」

ルシオのその言葉にエルバートがアシュトンを睨み付けるが、彼は悪びれた様子もなく肩をすくめている。そのやり取りが面白くて私はまた笑ってしまう。


「お前らもう帰れ」

ジェード様が頭を抱えながら告げるとエルバートは不満げに頬を膨らませた。

「えー!俺も王女殿下と話したいっ!」

「諦めろエルバート、ジェードが王女殿下を独り占めしたいそうだ」

「そーそー。ずっとそわそわしてたもんな」

「………ルシオ、アシュトン。私の体が回復したら覚悟しておけよ」

ジェード様のワントーン下がった声にルシオは「はいはい」と苦笑浮かべて、私に一礼するとエルバートの襟を掴み引きずっていってしまう。

「それでは王女殿下、失礼致します」

「またお話してくださいね!王女殿下!」

引き摺られながら手を振るエルバートとそれに付いていくアシュトンを見送りながら私も手を振り返した。


騒がしい三人が行ってしまうと廊下には私とジェード様だけが残った。

おまけ

エルバート「俺も王女殿下と話したかったなー!ちっちゃくてすげぇ可愛いもん!めっちゃ撫で撫でしたかった!」


アシュトン「確かに。話に聞いてたより随分しっかりしてるよな、あんなことがあったのにもう出歩いてるし。根性あるんだな、見直したぜ」


ルシオ「ジェードが入れ込むのも少しだけわかる気がするな。成長したら美しい女性になりそうだ」


ダニエル「その話、私も詳しく聞きたいなぁ?(にっこり)」


「「「……ダニエル殿下!?」」」


シスコン王子 が あらわれた !

逃げますか?

YES ←

NO


ダニエル「逃がさないよ?」


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