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34話 警戒するようです

エリック視点です

急にアリス様の護衛をすることになった。

いつか護衛騎士としての任に就くと決まってはいたけれど、もう少しだけ先の未来だと思っていた。今回はダニエル殿下とジェード様も一緒だと言う。

これを機会に護衛をする為の心得を学ばせてもらおうと思い、私は視察に向かうダニエル殿下達に同行した。


最初の視察先でアリス様はお知り合いのご令嬢を見つけ声をかけられた。どうやらご家族とはぐれてしまったらしい。

その後合流したダニエル殿下に命じられご令嬢のご兄弟を探しに行くと、目星をつけてもらった場所で彼はすぐに見つかった。

額に汗を浮かべながら回りの人に聞き回っている彼で間違いないだろう。

声をかけて、アリス様達の待つ場所へと案内する。ご令嬢と引き合わせ何事もなかったようにアリス様の少し後ろに移動する。

ちらりとアリス様に視線を向ければ歓談しているダニエル殿下とご令嬢をじっと見詰めた後、不意に俯いてしまった。その顔色が少し悪い気がする。


「アリス様、顔色が宜しく無いようですが何処か具合でもお悪いのですか?」

そっと声をかけるとアリス様は顔をあげて微笑みを見せる。

「大丈夫、何ともないわ」

けれどその微笑みはどこか取り繕うようで、乗り込んだ馬車の中でも少しぼんやりしている様子だった。


兄であるダニエル殿下を慕っているから仲が良さそうなご令嬢に嫉妬している、とか…?


兄妹仲がとてもいいので有り得ない事ではない。きっと兄を取られるのではないかと不安に思っているのかもしれない。

そんなことを考えているうちに、次の視察場所へ到着する。

ダニエル殿下が経営者と話している間、アリス様と商品を見て回った。

私は装飾品には詳しくないけれど、これはアリス様に似合いそうだとか思いながら見るのは楽しかった。


「素敵な作品ばかりね、こんなに素敵なものを作れる人はきっと魔法使いだわ」

不意にアリス様がそんなことを口にする。

「……魔法使いですか?」

意味がよくわからずに首をかしげるとアリス様は頷く。

「だって同じ材料を用意されて作り方を教わったとしても、私はこんなに素敵な物は作れないもの。リボンひとつ、ネックレス、ひとつとっても作ってる人の技術や情熱があるから素敵なものが作れると思うの…作れない私からしてみたら魔法みたいで素敵って思うのよ。子供っぽいかしら?」

苦笑浮かべながらそう告げるアリス様にそんなことはないと首を横に振る。

少なくとも私は裏方の人間を魔法使いと褒める事が出来るアリス様の感性は良いものだと思える。

作ってる人を尊敬すると言うことはその人の作った品物を大事に出来る事に繋がると思うから。


「アリス様は素晴らしい感性を御持ちなのですね、私は良いことだと思います」

「ありがとう、エリック」

私の言葉に嬉しそうに微笑んでくれるアリス様を見るだけで心が暖かくなる。

しかしその瞬間、何処からか嫌な視線を感じた。

顔をあげれば店の奥に続く廊下に一人の男が立っている。その視線はねっとりと絡み付くようにアリス様を捉えていた。

経営者の紹介によるとどうやら彼はここの職人らしい。

ダニエル殿下も彼がアリス様を見詰める異様な視線に気がついたのだろう、アリス様を連れて足早にその店を後にする。

去り際にすれ違うと、一瞬だけその男が笑った気がした。


ルパートと名乗ったあの男、少し注意した方がいいかもしれない。

そう思ったのは私だけではなかったようだ、ジェード様がこっそりと耳打ちしてくる。

「エリック、城に戻ったらルパートの経歴を調べろ。あの男、ただの職人ではないかもしない」

「わかりました」

ジェードさんが警戒する人物、もしかしたら何か悪いことをしている人間なのかもしれない。


私は警戒を強めながら次の視察場所に向かう馬車に乗り込んだ。



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