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23話 口にしない想いもあるのです

エリック視点です


久し振りに会ったアリス様はなにも変わっていなかった。

いや、少しだけ背は伸びたかもしれない。

アリス様は勉強やらレッスンで毎日忙しいし、私自身アリス様の専属騎士になるため毎日訓練や体力を作ることに力をいれていたため会う機会などまずなかった。


自分でも体は成長したと思う。

ある程度身なりを整えれば、盗賊に捕まっていた頃の面影など全く消えてしまうだろう。



アリス様と談笑していると義父さんがジェード様を連れてきた。

彼は次期騎士団長にも任命されている実力者だ、私もひそかに彼を目標に鍛練していたりする。


アリス様は彼に用事があったようで私は義父さんと席をはずした。

ジェード様は基本的に無表情で怖い印象がある。人が寄り付かない雰囲気がある、と言えば伝わりやすいかもしれない。

そんな人に用事とはなんだろう。

稽古道具を片付けながらちらりと振り返り思わず片付ける手が止まった。


常に無表情で怖いと思っていたジェードさんが微笑んでいた。

私はそれまで彼は笑い方を知らない人なのだと、盗賊に捕まっていたころの自分と近いものを感じていた。

けれど今、視界に映る彼は優しい顔で微笑んでいる。まるで、恋人に向けるような表情だと思った。

その表情を向けられているのは、私が忠誠を誓った方……アリス様だ。



私の手が止まったのに気が付いて義父さんが同じ方向に目を向ける。

「うわ、あいつあんな顔もするんだな」

義父さんとジェード様は長年の付き合いだと聞いているがそれでも初めて見る表情だったのだろう。


「……義父さんも、見た事ないんですか?」


「あぁ。ごく稀にジェードが王女殿下を見て表情を緩めることは知っていたんだが……あそこまで緩い顔してんのは初めてだ。あいつにあんな顔させるなんて…王女殿下はすげぇ大物だな」


つまり、ジェード様にとってもアリス様は特別な相手ということなのか…



アリス様に視線をやればこちらも照れたように微笑んでいる。

仲睦まじいその姿が酷く羨ましい…。

もし彼女が自分にあんな笑顔を向けてくれたら…そう考えてその気持ちを心の深くに押し込める。


そんな考えを持ってはいけない。

私は彼女を守るために強くなる、彼女を守れる立場を得られればそれで充分だ。

身の丈に合わないことを望んではいけない、彼女が幸せになればそれが一番だ。


そう自分に言い聞かせて再び道具の片付けに戻る。


頭ではわかっていても胸の奥が少しだけ苦しかった。

そんな私の気持ちを見透かしてか義父さんにくしゃりと頭を撫でられる。


「王女殿下がそんなに好きなら惚れ薬効果のある秘薬でも飲ませてみたらどうだ?」


「畏れ多いですよ、義父さん。そんなんじゃありません。だいたいそんな秘薬、信憑性のない噂話じゃないですか」


私の返答に義父さんは苦笑を浮かべる。

義父さんのいう秘薬というのは城下町の女性たちに流行っている噂話だ。

遠い国で取れる薬草を使って作った惚れ薬効果のある秘薬が出回っていて、それを意中の相手に飲ませると最初に見た相手を好きになるという内容だった気がする。


「もし本当にあったら、の話だ」


「あったとしても…アリス様の幸せを守るのが私の役目ですから」

そう言うと義父さんは私の頭をポンポンと撫でた。子供扱いが気に入らなくて手を払い除けると楽しそうに笑われる。


彼なりに励まそうとしてくれてるのだろう。

良い父親に恵まれた、忠誠を尽くしたいと思える方と出会えた、目標にしたい人と出会えた。

それだけで、充分だ。


私はそう思いながら道具を片付け、また訓練へ戻ることにした。




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