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21話 秘密を共有するそうです

「失礼します」とジェード様は私の隣、先程までマリーのいた場所へと腰を下ろす。

私はクッキーをいれていたバスケットからカップを取り出すとジェード様に紅茶をいれて差し出した。


「どうぞ」


「お手を煩わせて申し訳ありません、いただきます」


カップに口をつけるジェード様にクッキーも薦めると、美味しいと言いながら次々と口のなかに放り込んでいく。

お腹が空いていたのかもしれない、見事な食べっぷりだ。



美味しくできたのを持ってきてよかった!

ジェード様は騎士だし、体も動かすからたくさん食べるのかも?

今度差し入れとかしてみようかな…



そんなことを考えているうちにクッキーは完食されてしまった。

「……お腹、空いてらしたんですか?」

まさかご飯も食べられないほどに忙しいのだろうか、だとしたら父に伝えて騎士団の人達がきちんと食事を取れる環境を整えてもらわなければならない。

何事も体が資本だ。

忙しさに振り回され、体調を崩してしまうのは良くない。


私の言葉にジェード様は我に返ったようで気まずそうに視線を反らす。


「申し訳ありません…食事はきちんととっているのですが菓子を口にする機会は少ないもので…つい」

照れたように顔を背けるしぐさについ可愛いと思ってしまう。



なるほど、ジェード様はお菓子が好きなのか…あ、でも果物は得意じゃないって前に言ってたかも…



「確か以前、果物は得意でないとお聞きしましたけど…他に食べられないものや苦手なものはありますか?」

もっとジェード様の事が知りたいという気持ちも相まってつい質問ばかりしてしまう。


「…男らしくないと言われるので内密にしていただけると助かります。果物は痒みが出てしまって得意ではありませんが、他に食べられないものはありませんよ」

ジェード様は嫌な顔ひとつせず答えてくれる。


なるほど、お菓子が好きなのを隠してるのか…男らしくないとかそんな事ないのに。

これって…『二人の秘密』ってやつだよね!?知ってるの私だけ?…な分けないよね、多分仲の良い人は知ってるかもそれないし……。

でも教えてもらえた…というか知ることができたことだけでも充分だ!


けれど果物で痒みが出るということはもしかしたらアレルギーなのかもしれない。

何か食べ物を送るときは気を付けよう。


とにかく、今は少しでもチャンスをつくらないと!


「では……ご迷惑でなければ今度お菓子を差し入れしても宜しいでしょうか!」

途中で言葉が止まらないように一気に言い切ると、驚きの表情を浮かべるジェード様と視線が合う。


「私に……ですか?」


「はい」


暫し沈黙が流れる。

ジェード様の顔を見れば少し戸惑っているようだった。

差し入れをしたい、と伝えた事は遠回しではあるが「貴方に気があります」と言っているようなものだ。私が王女という立場もあるため、ジェード様は断りにくいだろう。

それを計算して言葉にした私は狡い人間だと思う。



「勿論です、お気遣い嬉しく思います」

少し間を開けて聞こえてきた言葉に嬉しくなり思わず頬が緩んでしまう。

社交辞令かもしれないけれどこれでジェード様に会いに行く口実ができた。


内心で喜んでいるとマリーが用事から戻ってきましたというように何食わぬ顔をして姿を現した。

今日は午後から家庭教師によるダンスレッスンやマナーレッスンが控えている。そろそろ準備しなければいけない時間なのだろう。


マリーの姿を確認したジェード様は「ご馳走様でした」と私に一礼して職務へと戻っていった。

その後ろ姿を見つめているとマリーがてきぱきとカップを片付けながら微笑ましい眼差しをこちらに向けてくる。


「如何でしたか?ジェード様の反応は」

そう聞かれて私は首尾は上々であることを伝えるとマリーはにこにこ微笑む。完全に小さい子を見守る姉か母のような微笑みだ。

ひょっとしたらマリーもメアリーも、ジェード様ですらも私の向ける思いが一時的な子供の恋愛ごっこであると思っているのかもしれない。父がそう思っていたように。



でも、私にとっては人生がかかってるんだから!

恋愛ごっこで終わらせるつもりはない…!



気合いを入れ直した私はひとまず今日の予定をクリアしてから差し入れについて考えようと、マリーと共に城の中に戻ることにした。


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