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11話 夢を見たようです

ジェード視点です

流血表現があります、苦手な方はご注意ください。

アリスがダニエルの学友であるフィオナ嬢の元に出掛けたその日の夜。

助けた子供のために何かしなければと、ひっきりなしに動いていたアリスがやっと就寝したのを確認して、護衛の仕事を交代し与えられた騎士団宿舎の自室へと戻ろうとすれば廊下で同僚とすれ違った。


「よぉ、ジェード。何か疲れた顔だな?」


ひらりと片手を上げて声をかけてきたのはマーカス・パール。騎士団の中でも人当たりが良く、騎士団長から新人教育と指導を任されている人物だ。


「あぁ、今日は王女殿下の護衛で少し遠出してきたからな」

「そうかそうか、お疲れさん。明日、非番だろ?ゆっくり休めよ。お前に倒れられたら騎士団は回らなくなるからな」

そう言って私の肩をポンと叩くと、マーカスは城の方に向かって歩いていく。


これから勤務なのだろう、私より休みが少ないはずだが気遣いの出来る良いヤツだと思う。

私にはあまり愛想がないので是非見習いたいところだ。

とは言え、最近は笑うことが多くなったと思う、原因はアリスだ。彼女の近くにいると少しだけ優しい気持ちになれる。

これはダニエルの事をあまり言えないかもしれない…。



部屋に入り着替えて、そのままベッドに横になると疲労感が全身に広がった。無自覚のうちに相当疲れていたらしい。

目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきた。逆らうこと無く瞼を閉じると私の意識はすぐに眠りの世界に落ちていった。




夢をみた。

夢だとわかったのは私のよく知る現実の景色ではなく、見覚えのない服装の人々が出てきたからだろう。

夢の中で私は白い壁伝いに階段を上っていた。


私は……ここをよく知っている?


一度も見た覚えは無いのにそんな気がした。

そのまま階段を上りきろうとした所で一人の女性とすれ違った。

どうやら知り合いらしく軽く挨拶を交わす、その女性と話すと心の中に暖かい感情が満ちていくのを感じた。


あぁ、そうか。私は彼女の事が……。


挨拶を交わした後、また私は歩き出す。けれど後ろから短い悲鳴が聞こえ振り替えると、彼女の体がぐらりと落ちかけていた。

私は慌てて手を伸ばす、一瞬触れた指先は絡むこと無く彼女は無情にも下へと落ちていく。

彼女の名前を叫ぶが届かない。

下まで落ちて動かなくなった彼女の頭部からじわりと赤い液体が溢れ出す。

これは、血だ。


このままでは彼女は死んでしまう、助けなければ。そう思うのに、私は目を覚まさない彼女に駆け寄り抱き抱えて名前を呼ぶことしか出来ない。

怖い、怖い、怖い……彼女が死んでしまうのがとても怖い。



そこで目が覚めた。

なんて後味の悪い夢だろう。ため息混じりに起き上がればまだ空は暗い。


「……嫌な夢だ」



こんな夢を見るなんて、命に関わる出来事があったせいだろうか。

ベッドに腰掛けて頭を抱える。

夢の中の自分の不甲斐なさ、悔しさが今でも残っていた。

そして落ちていく彼女の残像が、脳裏に焼き付いたまま今も離れない。


何故かそれと被るようにアリスの姿が重なった。

あの少年を前にした彼女もこんな気持ちだったのだろうか……助けたいのに自分には何も出来ないというもどかしさを、あの小さな胸に抱えていたのだろうか。


少年を馬車に乗せると『命令』した彼女の瞳には、決意のようなものが見てとれた気がした。

気紛れで助けるだけでない、命を拾うと言うことがどう言うことなのか理解している、そんな気さえした。


もし、そうだとしたら…あの方は将来どのような姫君に成長なさるのだろう…。


そんなことを考えながら私は夜を過ごした、夢で感じた恐怖はいつの間にか和らいでいた。




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