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社会復帰への道 パート1 出会い

「フィカス:ベンガレンシス陛下…。また自殺ごっこですか。


椅子に腰かけた、長く、黒い髪の男の胸にはロングソードが深々と突き刺さっている。

年老いた白髪の執事はロングソードをさっと抜くと、ため息をついた。


「いいかげん死にもしないのに自殺をするのはおやめください。


フィカス王は美しい切れ長の眉をくいっとあげた。


「つまらん。

「陛下、食事のお時間ですよ。本日は新鮮な牧草で育てた牛でございますよ。


執事はグラスに牛の真っ赤な血液を注ぐ。

王はそれをワインのようにゆっくりと味わいながら飲み干した。


「ほお、なかなか美味だ。

「陛下、いかがでしょう、たまには人の血を…

「許さぬ。


王は言葉を遮った。


「セダム、今夜は絵を描くゆえ、誰も近づけさせるな。

「御意。


執事が退出すると、フィカスはまた遠い昔に思いをはせた。

人間と魔族の間に生まれた忌むべきヴァンパイア。

エルフと人の連合軍と魔族の戦いでフィカスは忌むべきものを束ね、

エルフと人間に味方した。

エルヴィアのイワン王と共に戦った熱い日々。

だが、友と呼んだ者たちは皆、死んで伝説の英雄となってしまった。

そのうちに国は執政者に任せ、ヴァンパイアの一族数人と崖の上の古城にひきこもった。

何度も何度も月は登り沈んだ。

それでもフィカスの命は尽きることはない。

フィカスはもう、外に何の興味もなかった。

毎日、絵を描いたり、物語を読んだり書いたり、庭の薔薇の手入れをしたり、

自分の趣味の世界にどっぷり浸かっていた。


まさにひきこもりである。


フィカスはバルコニーから月を見上げ、絵の構図を考えていると、執事のセダムが再びやってきた。


「陛下、メトプレン様がおこしでございます。

「あの変態魔導師が?


ため息を何度もついて、玉座の間に向かう。

玉座の間には長くうねった髪に魔導師風のローブをきた男が立っていた。

男はフィカス王に近づくと抱きついて頰をすり寄せた。


「フィカス、元気だったかあーー!ははは

「くそ、無礼な…メトプレン、はなせ!


フィカスがメトプレンの胸を突き飛ばすとメトプレンは10メートル程飛ばされて床に転がった。

「あ、相変わらずつれないなあ…ヴァンパイアの王様は。

「まったく、なんの用だ。

「ふう、イタタ、フィカス…。ジヒドロが復活した。

「なんだと…。


「一緒に戦ってほしい。


「…。


しばらくフィカスは顎に手を当てて考えていたがうつむき加減に答えた。


「無理だ…。我に戦う力など残っていない。

「最強の戦士が何を言う。

「去れ、メトプレン。我のことは死んだと思え。

「その気になったらいつでも来てくれ、待ってるよ。


そういうとメトプレンは何かブツブツ言いながら、霧のように姿を消した。

それからしばらく経ったある日のこと…。



王都から珍しく一台の馬車と30人ほどの騎士団がやってきた。


「エルヴィアの王子だと?


王座のフィカスは組んでいた長い足をほどいた。

シンとした大理石の広間にコツーンとブーツの音が響く。

騎士団長は恐ろしそうに冷や汗をかきながら、しどろもどろに言った。


「このたび、エルヴィアから留学の要請がありまして、その、第7王子プリンセチア様をお連れしました。

「留学なら、王都で色々学べるはずであろう。

「それが古代の城にご興味があられるそうで、ぜひこちらに滞在したいと…、そ、それでは私はこれにて失礼致します。

「おい、待て!


騎士団長はそそくさと退出した。


「まったく、それでその王子は何処にいるのだ。

「控えの間には見当たりませんね、どうやらもう城めぐりに出られたようですな。


執事は肩をすくめた。

フィカスの良く聞こえる耳にかすかに歌声が聞こえる。

向かおうとした執事を王が止めた。


「良い、我が行く。


フィカス王はものすごいスピードで玉座の間を飛び出して行った。


第七王子はヴァンパイアの城に来たとも知らず、呑気に噴水に腰かけて楽器を弾きながら歌を歌っている。

なんという心に染み入る歌声か、フィカスは動くことが出来ず立ち尽くした。

線の細い青年で背丈はフィカスの肩くらいだろうか。

綺麗で優しそうな顔立ちをしている。

王子のふんわりとした栗色の髪が風に揺れる。

青い瞳は楽しそうにキラキラ輝き淡いピンク色の唇は歌を紡ぐ。

それは鳥達の明るい恋の歌だった。

フィカスは動かなくなった心臓が一瞬ドクンと動いたような気がした。

第七王子がフィカスの方に振り向いて、そして首を傾げてにっこりと微笑んだ。

またフィカスの心臓が脈打った。


「こんにちは!僕、プリンセチアっていいます。これからお世話になります。


「……………。

「はい、ほら、次はあなたが自己紹介する流れだよ!


プリンセチアはフィカスの手を握ってぶんぶん振った。

フィカスはすかさず手を振り払った。


「我はこの城の主人。

「えっと、じゃああなたが王様なんだ!

うわあ、想像してたより若くてハンサムでカッコいい!

あなたを見てたら歌がポンポン湧いてくるよ!

あ、ねえ、フィカスって呼んでいいかな。僕はプリンでいいよ。

それでさあ、フィカス………。


フィカスは何が起きっているのか理解できず、頭がぐるぐるしてきた。プリンの声が遠くなっていく。

するとまた突然、伸びやかな歌声が響き渡った。

プリンが今度は踊り用のアップテンポな歌を歌い始めたのだ。

くるりと回ったり、体でリズムを取りながら楽器を弾いている。

気づくと城中の者達が集まり、噴水の周りで踊り始めた。

フィカスは噴水に腰掛けると、目を細めてフッと笑った。

執事のセダムがつと隣に寄り添った。


「陛下、今お笑いになりましたね。私の記憶が正しければ約5328年ぶりでございます。


フィカスはにやりとしている執事を睨みつけた。




つづく





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