プロローグ
「ねぇ加奈子。高校どうする?どこ行く?」
中学1年生の夏。お弁当を食べながら友達の麻衣が、大きなため息とともに話題を振ってきた。
「うーん。まだ決めてないんだー」
「それが普通だと思うんだけどさー。米原先生、進路の話するの早くない?」
加奈子は卵焼きを頬張りながら「んー」と答える。
4月に入学し、もう6月の終わり。HRで担任の先生が進路の話をした。
「遅くなって考え始めると全部だめになる。早く進路を決めて目標を定めなさい」と先生は言っていた。
そりゃそうかもしれないけど、ようやく小学校が終わって中学校に入ったのに、もう高校のこと考えなきゃいけないなんて…
「まぁ今日帰ってお母さんとかに聞いてみる」
「なに聞くの?」
麻衣の質問に加奈子はうーんと黙る。
「…高校選び、どんなことしたかー…とか?」
次は麻衣がうーむと黙る。
「そんなことしか聞けないよねー。全然なんもわかってない状態で進路なんか考えらんないし。うちも父ちゃんに聞いてみるかなー。ま、あんま参考になんないと思うけど」
手を合わせ「ご馳走さま」といった麻衣はお弁当をしまった。
「ま、加奈子はまず進路早く決めるより、お弁当早く食べるとこからね」
「麻衣ちゃん食べるの早いんだってー」
麻衣は笑いながら「そんなことないって」と言い自分の席に帰って行った。
そそくさと弁当を頬張り、無事授業を終えた。
「ただいまー」
疲れた体で靴を脱ぎ、ベランダに入るや否やカバンを下ろした。
「あら今日は遅かったのね」
加奈子の母はテーブルに二人分の皿を持ってきた。
「お父さんは?」
「あら、聞いてなかったかしら。父さん、今日は夜勤なの」
栗色の少し巻かれた髪をしている天然な母、真由美。いつもふわふわっとしていて怒られた記憶があまりない。
「ねぇ母さん。今日進路のことを担任の先生が話したんだけど、お母さんは進路とかどう決めた?」
「あらーそうなの?んーお母さんはね、中学2年生の時からお父さんと付き合ってたからお父さんのお嫁さんになるって進路を決めてたわ。」
にこにこと母は答えた。
「うーん、それ学校の先生に反対されなかった?」
半ばあきれながら聞いてみる。
「加奈子ちゃん、先生にはそんなこと言えないわ。お母さんはね、部活に勤しみたいからとか、大学に入るため勉強したいからとか理由を付けてちゃんと普通の高校に入ったのよ。実はね、お父さんとは高校が違って、一回自然消滅したんだけどね、奇跡的に大学で…」
「あーうん!ありがとう!参考になったよ」
何が参考になるのかと言いたいところだが、それを晩御飯のハンバーグと共にぐっと抑えた。
「はぁーい!よかったわ」
それから普通の会話に戻りおいしくご飯を食べた。
ご飯を食べ終え、リラックスしているとき。
「加奈子ちゃんー。さっき言ってた進路のことなら信二さんのほうが知ってると思うわー。今度おばあちゃんの家に行くとき、信二さんにも聞いてみたらどうかしら?」
信二さん、父の兄であり、確か高専とかいうところを卒業した私の叔父だ。
「はーい」
信二さんの話で加奈子の人生が大きく変化することなど、加奈子は知る余地もなかった。