表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

7

にょぱ、にょぱ。


うん?


ふりっ、ふりっ。


うぅ~ん??

私は今、もの凄く混乱していた。

まず、両手に力を籠めれば手が動いた。だけどそう、動いたはいいけれど、どこか不器用でぎこちない動き。

次に、お尻の辺りに力を入れてみた。何かが動く気配がした。それは馴染みが無くって馴染みがある、なんとも珍妙な感覚だ。そう、かつての夢で体感した尾っぽが動くって確か、こんな感覚じゃなかったけ……?

えいっ。試しに肩甲骨の辺りに力を入れてみた。

ぴこっ、ぴこっ。

あ! あ! あぁぁぁあああああ!!

間違いない、間違いない!!

今のは絶対ぴこぴこの翼がはためく感覚だ!

ガバッと起き上がった。でっぱったおなか越しに見えた! 

「きゅーあぁぁぁ!」

ぽよぽよピンクの前脚だあぁぁぁ!

なんで、どうして? 私はお見合い相手に首を絞められて、死んじゃったんじゃなかったの!?

どうして私、また夢が見れてるの!? どうして私、またピンクのふとっちょトカゲになってるの!?

なんでか分かんないけど、夢が見れてるって事は私、生きてたの!? 

び、び、びぇぇぇええええ! 生きててよかったよぉぉ! サイラス様に会いたいよぉぉ!


「おいっ、あんなところに幼龍がいやがんぜ? えっらい泣いてっけども、親がいねぇみてぇだな。ありゃ、迷子だな。……なぁ、とっ掴まえて売っぱらえんじゃねーか?」

「しっかし、ずいぶんとずんぐりむっくりした龍だぁ。ありゃ買い手は付くのかぁ?」

えぐっ、えぐっ。なんか後ろが耳障り。私は今、サイラス様の綺麗な綺麗な記憶に酔いしれてるの! 静かにして頂戴!

「いやいや、体形こそあれだが随分と珍しい色じゃねーか? そもそもよ、水龍は銀と水色、火龍は金と赤、地龍は黒と緑、……ピンクって何だ?」

「! 捕獲しやしょう!」

おいおいおいと背中を震わせて泣いていた。サイラス様が恋しくて泣いていた。

そうしたら、さっきまで騒がしかった後ろがすっかり静かになった。

これ幸いとますます泣いた。

? 曇ってきた? 天気が崩れてきたんだろうか。


わしっ!


「きゅあっ!?」

もうちょっと泣きたいところなのに頭上に影が掛かったから、曇ってきたのかなって思った。そうして顔を上げようとしたら、何かにわしっと尾っぽを掴まれた。

「きゅあぁぁぁぁ!?」

なになになにぃぃ!?

そのままずりずりと私は連行された。






「なぁピンクのおちびちゃん? そりゃ俺らの分のパン……」

へんっ! 知った事か。食べなきゃやってらんないの。

もきゅもきゅもきゅ、ごっくん。

だって首の重たいのは凄く不愉快だし、薄暗いこの小屋で缶詰にされてるのも凄く嫌。私は決めたの、夢の中でくらい好きにするって。

「きゅあっ!」

水頂戴っ!

「あん? ……水か? ……ほれよ」

へんっ! 気が利くじゃない。

「なぁマルス、このピンクいの見慣れるとちっと可愛く見えてこねーか?」

ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ。ぷへっ。

「……トム、そーなんだよ。俺も見慣れたらあんだか可愛く見えっちまったんだよなぁ」

「……本当に売るのか?」

「……うーむ」

ナデナデ。

「きゅぁっ!」

やだっ! 

私は頭を撫でたマルスの手をぺいっと振り払った。私をナデナデしていいのはサイラス様だけなの。

「……このツレねーところもも、なんかいいんだよな」

私はよくない! だから食べたら寝るよ!

私はプイッと二人に背を向けて、小屋に唯一のソファを陣取った。

目を閉じて、けれど寝るのは恐かった。寝て覚めて、この優しい夢が醒めてしまうのが恐かった。

……サイラス様、サイラス様はどうして夢に現れてくれないの? 

私の夢なのに、全てが私の思い通りとはいかないらしい。







苛立っている自覚はあった。けれど、寝て覚めればももかが煙に巻かれるように消えてしまったのだ。

これはもう、悪夢以外の何物でもないだろう。

「なぁサイラス、あれからもう一ヵ月にもなるんだぜ。方々に手を回して公国の隅の隅まで探しつくした。だけど龍王妃は見つからない。それはもう、可哀想だが龍王妃はこの国にはもう居ない。そういう事だ」

言われずとも分かっている。けれど、ああそうかと、納得など出来よう筈もない。

「妃候補が消えたんだ。理から鑑みればまた、新たな妃が現れるさ」

「……いらん」

側近のアレスは我の孤独の五十年を良く知る腹心だ。

同年の者達が次々と唯一無二のつがいを見つけ、夫婦となっていくのを幾度となく眺めて来た。

焦燥に焼かれ、いらぬ嫉妬を燃やした若き日もあった。けれど我は、それらの年月を容易く凌駕する運命の出会いを果たしたのだ。

「はっ?」

「我はももか以外はいらぬ。我の妃はももかだと、我が決めた。我の唯一無二のつがいはももかだ」

一目見た瞬間、心が歓喜に震えた。全身を巡る滾る想いは言葉で言い表す事など出来やしない。

ももかとの出会いは運命。ももかと我は出会うべくして出会った運命のつがいだ。

「……そうか。なぁサイラス、あのピンクのおちびさんは存外可愛い顔をしていたな。一体どんな成龍に変化を遂げるか、それを見守るのもまた一興だな。よしっ、もう一度捜索指示を下そう。俺も直接指揮を執ろう」

「アレス、すまないな」

我が蟻の子も通さぬように捜索をした。それでももしかすれば、見落としがあるやもしれぬ。

アレスの背中を見送って、ももかが現れてからこっち負担を掛け通しの我が側近に内心で詫びた。

ももかと城を空けて過ごした十日。その後ももかの捜索にもずっと城を空け、戻ったのがつい三日前だ。

溜まりに溜まった政務を捌きながら、龍王不在をなんとか凌いでくれたアレスには感謝しかなかった。

……けれど何故だろう? 今朝は起きた時からかすかに胸が温かく感じるのだ。

「ももか、其方は何処にいってしまったのだ? 今、何処におるのだ?」

政務室に面した大きな窓の外、抜けるような青空にももかと過ごした十日間を切なく思い出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ